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07 俺、噛まれる※

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 満月の日、俺はお泊りセットを持って遠藤の家を訪れた。
 遠藤の家にはゲームのハードがあるというので、ゲームソフトを持ってきている。あと漫画が数冊。お世話になるのでほんの気持ちだ。

 遠藤の両親は、うちの親には負けるけど、そこそこの美女と美男だった。夕飯は豪勢なすき焼きを用意してくれる。

「夜に向けて体力を付けないとね~」
「?」

 遠藤のお袋さんは俺の皿に肉を盛りながら謎のコメントをした。
 疑問に思って遠藤を見ると「黙って食え」と無表情に言われる。ここ数日で打ち解けたとは言え、こいつのこういう上から目線の台詞はむかつく。
 ともあれ肉に罪はない。
 俺は遠慮なく出された肉を平らげた。

 夕食後は二階の遠藤の部屋に上がり込む。
 ベーシックカラーで纏められた部屋は品が良く、落ち着いた雰囲気だった。

「なんだよー、お前わざわざ掃除したんじゃないだろうな。異様に片付けてあるんだけど」
「僕は掃除が面倒だから最初から片付ける主義だ」
「ケッ」

 恰好つけやがって。
 俺は持ってきた漫画やゲームソフトを床に散らかしてやった。

「ハードはどこだよ?」
「そこの引き出しに……」

 遠藤が指した引き出しから黒いゲーム機の筐体を取り出し、ディスプレイとケーブルで繋いでやる。
 電源ポチッとな。
 俺たちはしばらく平和に格闘ゲームやシューティングゲームを楽しんだ。

 夢中になってゲームで遊んでいると、いつの間にか夜の11時頃になっている。
 俺は顔を上げて目をこすった。

「ちょっとおトイレ」

 言って立ち上がると、長時間、床にじかに座っていたせいか、足がもつれる。
 転びそうになった俺を遠藤が支えた。

「サンキュー」
「……」

 礼を言って遠藤の顔を見る。
 遠藤は何故か熱っぽい目で俺を見た。
 触れ合った身体が熱い。

「……悪い。我慢できない」
「へ?」

 たぶん俺は間抜けな顔をしていたと思う。
 床に押し倒された時も事態がよく分かっていなかった。
 遠藤は腕を伸ばして俺を床に押し付ける。
 熱をはらんだ視線は、その熱を感じさせないような澄んだアクアブルーに変色した。瞳孔が縦に尖っている。猫の瞳だ。

「お、おいっ、遠藤?!」

 俺は慌てて遠藤を押し返そうともがいたが、体格は悔しいことに遠藤が上だった。床に縫い付けられたまま、様子がおかしい遠藤が俺の首筋に顔を寄せる。

「痛っ」

 遠藤は俺の首筋を噛んだ。
 牙が首筋に当たる感覚。
 心臓が熱くドキドキして、訳の分からない熱が首筋から全身に広がる。遠藤はそのまま俺の肩口に顔をうずめて溜め息を吐くと、ペロリと耳の下を舐めて甘噛みする。
 痛みと快感が走った。

「止めろ!」

 変な気持ちよさに流されそうになった俺は、途中で我に返って、遠藤に頭突きをくらわせる。頭突きは見事にクリーンヒットして、呻いた遠藤の力が緩んだ。
 その隙に俺は全力で遠藤の下から脱出する。

「須郷、待ってくれ!」

 誰が待つもんか。
 脱兎のごとく駆け出した俺は、自分が猫の姿になってしまっていることも気付かずに、階段を駆け下り、家の外へ飛び出した。


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