上 下
4 / 22

04 俺、幽霊に会う

しおりを挟む
 猫になった時から、身体の調子がおかしい。
 熱いものが食べられない猫舌になるし。
 空気の匂いを強く感じたり、物音が大きく聞こえたり。
 むちゃくちゃ眠くなって、いつも夜明けまでしているオンラインゲームをせずに、布団の中で爆睡してしまった。朝も眠くてすげえ起きづらい。
 寝ぼけてた俺は、朝ご飯を食べるとき、自分が猫舌になったことも忘れてうっかり熱いコーヒーを飲んでしまった。

「あっちー!」
「何やってんのお兄ちゃん」

 妹に変な目で見られてしまった。
 そんなこんなで、いつもより遅い時間に学校に登校することになったのだが。
 通学路の風景がなんだか今までと違って見える。
 緑が鮮やかだし、鳩や雀が気になるし。
 ん? なんか時代錯誤な赤いスカートを履いたおかっぱの女の子が交差点に立ってるぞ。あんな娘、今まで見たことあったっけ。

『うーらーめーしーやーー!!』
「ウギャア!!」

 おかっぱの女の子は俺を見ると、顔の半分まで広がった口角を吊り上げてニヤニヤ笑った。その口元と胸元から血がドバッとしたたる。
 赤いスカートだと思ったけど実は流血の赤だったらしい。
 朝っぱらからホラーでグロテスクなシーンを目撃した俺は思わず絶叫した。

『ふふふ、うれしーわあ。私が見える人なのね。取り憑いちゃおうかしらあ』

 取り憑くって、こいつ幽霊かよっ。
 道理で道行く人がこいつを見てない訳である。
 昨日に引き続き有り得ない展開に驚いた俺は、ニタニタ笑う少女の幽霊を前に怯えて震えた。

「止めろ」

 冷静な制止の声。
 楽しそうに血を流していた幽霊の女の子は、途端に詰まらなさそうな顔をした。

『ええー、カズマ、この子見えるのよ。もう少し楽しませてよ』
「そいつは僕と同じ猫族だ。取り憑けないぞ」
『それは残念』

 俺と幽霊の間に割って入ったのは、遠藤だった。
 幽霊をガン見していて気付かなかったが、俺と同じく登校中らしく学校指定の鞄を片手に持っている。学校の近くで通学路だから出会う確率はゼロじゃない。

 また助けられちまった。

「遠藤……こいつ幽霊なの?」
「そうだ」
「幽霊と知り合いなのか?」
「そうだ。ついでにいうと、今君も幽霊と知り合いになった訳だが」

 いらねえよそんな知り合い!
 冷静な顔で遠藤は淡々と「彼女は50年ほど前にこの交差点で死んだ花子さんだ」と紹介する。そんな情報欲しくない。

『面白くないわあ。最近、霊感のある子が少なくって驚かせがいがないの。せっかく驚かせたと思ったら猫だし』
「そいつは悪かったな」
『カズマも最初は驚いて猫の姿になって尻尾ブルブルさせてたのに、最近冷たいし』
「……」

 へえ、そうか。それは良いこと聞いたな。
 楽しくなって遠藤を見ると、不快そうに視線を逸らされた。
 恥ずかしいらしい。

「須郷、場所を移そう」
「学校は?」
「たまにはサボってもいいんじゃないか」

 まあな。
 朝からハプニング続きで俺はすっかり学校気分じゃなくなっていた。
 いけすかない遠藤に助けを乞うのは気に食わないが、仕方ない。どうやら猫になっちまった以上、最低限の知識は必要そうだ。

 花子さんに別れを告げて歩き出す。
 補導されないよう念のため制服の上着を脱ぐと、俺たちは連れ立って駅前のマクドナルドに向かった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...