俺、猫になっちゃいました？！

03 俺、猫舌を実感する

　「苦労するってどういうことだよ」と聞くと遠藤は片頬にシニカルな笑みを浮かべて「言葉通りだ」と告げた。むちゃくちゃむかついたんで「ふざけんな！」と叫んで、その辺に落ちてたビデオテープを投げつけて、視聴覚室を出た。
　今日は突然猫に変身するわ、天敵の遠藤に助けられるわ、散々な１日だったぜ。
　そういや須川さんはもう帰ったかな。
　猫に変身したところを彼女に見られてたんだった。
　……。
　まあいっか。
　黙って何もなかったフリをしよう。
　彼女も俺が猫になっただなんて、頭おかしい女だと思われるから言いふらさないだろうし。何もなかったことにすれば、追求されないだろう。

　俺は素知らぬ顔でいつも通り学校を出て家に帰った。
　うちは４人家族だ。両親と俺、妹の４人。
　自宅の二階の自分の部屋で休んでいると、母親に呼ばれる。

「幸宏ユキヒロー！　お夕飯よ！」
「今行く」

　申し遅れたが俺の名前は須郷幸宏。スゴウユキヒロと言う。
　親しい奴は俺をユキちゃんと呼ぶ。ユキちゃんは女の子っぽいからやめてほしい。高校生になってからはさすがにユキちゃんと呼ぶ奴は減ったけど。
　階下に降りて、中学生の妹とテーブルにつく。
　母親も妹もモテモテの俺の家族だけあって、近所で有名な美人だ。母親は今でも実年齢より10くらい若く見られる。妹はスポーティーで溌剌とした美少女で有名である。

「頂きまーす」

　今日は俺の好きな焼き肉だ。
　熱々の肉を箸で摘まんで口に放り込む。

「アチッ」

　肉が異様に熱いように感じて、俺は途中で肉を吐き出した。

「どうしたのお兄ちゃん」
「……なんでもない」

　まーさーかー。
　俺は恐る恐る他の温かいご飯や味噌汁にも口を付けたが、熱くて食べられなくなっている自分を発見して愕然とした。
　猫舌ってこういうことなのか。
　昨日まで何ともなかったのに。

「幸宏ユキヒロ、あんた今日おかしいわね」
「ききき、気のせいだよっ」

　母親と妹がじーっと俺を観察している。
　肉親の勘で彼女たちは俺の様子に気付いている。
　俺は冷や汗をダラダラ流した。

「お腹壊したの？　ユキヒロ、拾い食いは駄目よ」
「拾い食いなんかしねえよ！」
「お兄ちゃん夕飯前にお菓子食べたんじゃないの」
「食ってねえよ！」

　的外れの追求をかわしながら、俺は夕飯をなんとか食べ終わる。
　猫舌もそうだが、味覚が今までと変わった気がする。
　魚食いたい。
　いったいどうしちまったんだよ俺。
　これからどうなってしまうんだ。