31 / 64
第三章 ハムスターと王子様
気付かれた?
しおりを挟む
私達が飾り付けた花を、試験官さん達は歩き回りながらじっくり鑑賞している。見ているだけじゃなくて食べればいいのに。
その時、パン屋さんの表の通りが騒がしくなった。
白馬の王子様の登場だ。
「殿下!」
「そのまま審査を続けてくれ。僕もすぐに次へ行くつもりだから」
ペコペコ頭を下げる試験官を制して、王子様は月毛の馬から颯爽と降りる。うわー、生の白馬の王子様だあ。異世界すごいな。
王子様は私が飾り付けた店に入ってくる。
「花の香りとパンの匂いが混じって、何とも言えぬ匂いがするな。腹が減ってくる」
「殿下、この娘は食べられる花や木の実を飾り付けにつかったそうでございます」
「ほう、変わっているな。しかし、控え目な花がパン屋の印象を殺さず、逆に盛り立てているようだ。良い花飾りじゃないか」
「仰る通りですね」
なんだか受けてる。やったね!
私はパン屋の旦那さんとハイタッチした。
店内を見回した王子様の視線が、棚の上に飾られた木の実の上で止まる。
「あの木の実は確か……」
王子様の視線の先を見て私はギクッとした。
あれは、王子様のお見舞いに持って行った栄養満点の木の実だ。
木の実を見ていた王子様がゆっくり視線を移動して私の方を見る。
強い視線だ。
ば、ばれた?!
「お花摘みに行ってきまーす」
私は後退りしてお店の奥に逃げ込んだ。
パンを焼いていたパン屋の奥さんが、逃げ込んできた私を見る。
「どうしたんだい?」
「ちょっと忘れ物して……裏口を通って裏通りから教会に戻ろうと思います」
「駄目だよ一人で行っちゃ!花選びの儀の期間中は外国人もいて、治安が良くないんだよ。特に年頃の娘さんは危ない。あの神官さんを呼んで来てあげるから、待ちなさい」
「いえ、大丈夫です」
私みたいなぽっちゃり系平凡女子をどうこうする奴なんていないよ。
大丈夫、大丈夫。
止める奥さんを振り切って、裏口から外に出る。
そのまま細い路地裏を早足で歩いて、アルジェンのいる教会へ行こうとした。
薄暗い路地を歩いていると、目の前にガラの悪そうな男性が無言で立ちはだかる。
「……」
立ち止まった途端、足音がして、後ろから酒臭い息を吹きかけられた。
「お嬢さん可愛いねえ。ちょっと俺達とお茶しない?」
使い古された悪役の台詞だが、実際に自分に投げかけられるとビビるものだ。前門の虎、後門の狼。逃げ場を失った私は怯えて縮こまる。
ハムスター、ぴーんち!!
その時、パン屋さんの表の通りが騒がしくなった。
白馬の王子様の登場だ。
「殿下!」
「そのまま審査を続けてくれ。僕もすぐに次へ行くつもりだから」
ペコペコ頭を下げる試験官を制して、王子様は月毛の馬から颯爽と降りる。うわー、生の白馬の王子様だあ。異世界すごいな。
王子様は私が飾り付けた店に入ってくる。
「花の香りとパンの匂いが混じって、何とも言えぬ匂いがするな。腹が減ってくる」
「殿下、この娘は食べられる花や木の実を飾り付けにつかったそうでございます」
「ほう、変わっているな。しかし、控え目な花がパン屋の印象を殺さず、逆に盛り立てているようだ。良い花飾りじゃないか」
「仰る通りですね」
なんだか受けてる。やったね!
私はパン屋の旦那さんとハイタッチした。
店内を見回した王子様の視線が、棚の上に飾られた木の実の上で止まる。
「あの木の実は確か……」
王子様の視線の先を見て私はギクッとした。
あれは、王子様のお見舞いに持って行った栄養満点の木の実だ。
木の実を見ていた王子様がゆっくり視線を移動して私の方を見る。
強い視線だ。
ば、ばれた?!
「お花摘みに行ってきまーす」
私は後退りしてお店の奥に逃げ込んだ。
パンを焼いていたパン屋の奥さんが、逃げ込んできた私を見る。
「どうしたんだい?」
「ちょっと忘れ物して……裏口を通って裏通りから教会に戻ろうと思います」
「駄目だよ一人で行っちゃ!花選びの儀の期間中は外国人もいて、治安が良くないんだよ。特に年頃の娘さんは危ない。あの神官さんを呼んで来てあげるから、待ちなさい」
「いえ、大丈夫です」
私みたいなぽっちゃり系平凡女子をどうこうする奴なんていないよ。
大丈夫、大丈夫。
止める奥さんを振り切って、裏口から外に出る。
そのまま細い路地裏を早足で歩いて、アルジェンのいる教会へ行こうとした。
薄暗い路地を歩いていると、目の前にガラの悪そうな男性が無言で立ちはだかる。
「……」
立ち止まった途端、足音がして、後ろから酒臭い息を吹きかけられた。
「お嬢さん可愛いねえ。ちょっと俺達とお茶しない?」
使い古された悪役の台詞だが、実際に自分に投げかけられるとビビるものだ。前門の虎、後門の狼。逃げ場を失った私は怯えて縮こまる。
ハムスター、ぴーんち!!
1
お気に入りに追加
596
あなたにおすすめの小説
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?
カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。
ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を
助けようとして、事故死。
その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。
魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました
hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。
そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。
「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。
王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。
ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。
チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。
きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。
※ざまぁの回には★印があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる