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第六章
03 勇者は郵便配達がしたい
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リヒトの羊への情熱を知ったアルウェンは、他の幹部に話してみると約束してくれた。
夕食の後、リヒトとソラリアは春天楼の空いた部屋を借りて休むことにする。
春天楼は8階建で3階までは店や物置、4階からは居住空間になっている。周囲の建物も高くて立派で、リヒトはこれが都会というものかと感心した。
5階の窓から見下ろすと地上は遠い。
建物と建物をつなぐように、沢山の提灯がぶらさがった紐が張られていた。提灯は、ぼんやり赤く光っている。街の夜景は幻想的な眺めだった。
「本気で西の遊牧民に会いに行くつもりですか? アルウェンはおそらく、魔王信者の一味ですよ。彼らに協力するなんて……」
ソラリアはリヒトの決めたことに不満そうだ。
部屋に備え付けの行燈に火を入れているのだが、室内はびっくりするほど明るい。
リヒトは冷静に答えた。
「天魔を持つ人が優遇される国、別に良いんじゃない。僕は彼らの理想まで否定しないよ。暴力的なやり方はどうかと思うけど」
友人のレイルも、今は魔王信者と共にいる。
向こうから襲ってくるのでない限りは静観しようと、リヒトは考えていた。
膝の上で丸くなっている羊のメリーさんは、いじけているのかリヒトの服の裾を齧っている。メリーさんの好きにさせながら、リヒトは小さくなった彼女を撫でた。
「カーム大陸に帰らないつもりですか?」
「帰らないってことはないよ。でも今は遊牧民に会いに行きたいんだ。ソラリアはどうする? 一緒に来る?」
「え……」
二人一緒に行動するものとばかり思っていたソラリアは、リヒトの言葉に絶句した。
「まさか一人で行くつもりですか」
「これは僕の旅だからね。レイルは助ける必要が無くなっちゃったし、僕らは必ずしも一緒に旅をしなくていいんじゃない?」
「私の観光旅行に同行する約束では」
「うん、そうだね。でも天魔の国になったコンアーラでは、能力者だって隠す必要もなさそうだ」
最初は、リヒトが天魔の能力者だということを教会に報告しない代わりに、ソラリアの観光旅行に付き添うという約束だった。それに加え、幼馴染みのレイル少年を助けるため、理想の羊さん王国を探すため、リヒトは彼女と旅をすることを承諾したのだ。しかし、どの理由もここに来て意味が無くなっている。
ソラリアはギリギリ歯ぎしりした。
「君という少年は、本当に薄情ですね……!」
「メエエ(リヒトは天然なのです)」
膝の上で羊が二人の間をとりなすように鳴いたが、小型化しているせいで声が小さくて誰にも聞こえない。
ソラリアは葛藤をこらえるように拳を握りしめた後、叫んだ。
「……私は大人です!」
「はあ」
びしっと指を突きつけられて、リヒトはぽかんとする。
「子供のリヒト君には保護者が必要なのです。このお姉様が付いていってあげましょう!」
「頼んでないけど……いたたっ、ふあかりましたあっ」
頬を左右に引っ張られて、たまらずリヒトは白旗を上げた。
赤くなった頬をさするリヒトを見たソラリアは満足そうな様子で、いそいそとテーブルに向かった。
「何してるの?」
「ジラフの教会宛に手紙を書いているのです」
春天楼の家捜しで見つけた紙とペンを取り出して、ソラリアは手紙を書き始めた。
リヒトは彼女の手元を眺めて不思議に思う。
「手紙を書くのはともかく、どうやって届けるのさ」
「分かりませんか?」
「……あ、もしかして鳥を」
「はい。私の鳥達にリレーして配達してもらいます」
なんとまあ。海を越える場所でも、海鳥に協力を頼んで飛んでもらえるらしい。遠く離れた教主国ジラフの本部とも、連絡が取れるのだとか。
「便利だねー。ソラリア、君の天職は勇者じゃなくて、郵便配達なんじゃない?」
「なんですって……言われてみると、そんな気もしてきました」
ペン先を回してソラリアは納得したように呟いた。
「今までずっと違和感を持っていました。私は本当に、聖女や勇者になるために生まれてきたのかと。そう、私はきっと配達人になるために生まれてきたのです!」
「なんか飛躍してる……」
「リヒト、あなたが最高の羊飼いを目指すなら、私は最高の配達人を目指しましょう! そう、戦いのためだとばかり思っていた天魔の力は、このためにあったのです!」
情熱が込もったソラリアの言葉を引き気味に聞いていたリヒトは、途中でハッと気付いた。
「戦いのためじゃなく……そっか。うん、確かにそうだ。僕が目指している羊さん王国は、羊さんを通して皆が幸せになれる場所だよ」
教会は天魔の能力者を勇者に育てていたし、リヒト自身も天魔の力は戦うためのものだと思っていた。しかし、考えてみれば戦いのための能力だと皆思い込んでいただけかもしれない。目から鱗である。
「ソラリアは羊さんじゃないけど、特別に僕の羊さん王国に入れてあげてもいいよ」
「羊より地位が低いのは気になりますが、良いでしょう。地上は羊のものでも、空は私の鳥達のものです」
「メエエ(噛み合っているような、いないような)」
二人はすっかり意気投合した気持ちになって握手する。
メリーさんの突っ込みは夜風に溶けて消えた。
夕食の後、リヒトとソラリアは春天楼の空いた部屋を借りて休むことにする。
春天楼は8階建で3階までは店や物置、4階からは居住空間になっている。周囲の建物も高くて立派で、リヒトはこれが都会というものかと感心した。
5階の窓から見下ろすと地上は遠い。
建物と建物をつなぐように、沢山の提灯がぶらさがった紐が張られていた。提灯は、ぼんやり赤く光っている。街の夜景は幻想的な眺めだった。
「本気で西の遊牧民に会いに行くつもりですか? アルウェンはおそらく、魔王信者の一味ですよ。彼らに協力するなんて……」
ソラリアはリヒトの決めたことに不満そうだ。
部屋に備え付けの行燈に火を入れているのだが、室内はびっくりするほど明るい。
リヒトは冷静に答えた。
「天魔を持つ人が優遇される国、別に良いんじゃない。僕は彼らの理想まで否定しないよ。暴力的なやり方はどうかと思うけど」
友人のレイルも、今は魔王信者と共にいる。
向こうから襲ってくるのでない限りは静観しようと、リヒトは考えていた。
膝の上で丸くなっている羊のメリーさんは、いじけているのかリヒトの服の裾を齧っている。メリーさんの好きにさせながら、リヒトは小さくなった彼女を撫でた。
「カーム大陸に帰らないつもりですか?」
「帰らないってことはないよ。でも今は遊牧民に会いに行きたいんだ。ソラリアはどうする? 一緒に来る?」
「え……」
二人一緒に行動するものとばかり思っていたソラリアは、リヒトの言葉に絶句した。
「まさか一人で行くつもりですか」
「これは僕の旅だからね。レイルは助ける必要が無くなっちゃったし、僕らは必ずしも一緒に旅をしなくていいんじゃない?」
「私の観光旅行に同行する約束では」
「うん、そうだね。でも天魔の国になったコンアーラでは、能力者だって隠す必要もなさそうだ」
最初は、リヒトが天魔の能力者だということを教会に報告しない代わりに、ソラリアの観光旅行に付き添うという約束だった。それに加え、幼馴染みのレイル少年を助けるため、理想の羊さん王国を探すため、リヒトは彼女と旅をすることを承諾したのだ。しかし、どの理由もここに来て意味が無くなっている。
ソラリアはギリギリ歯ぎしりした。
「君という少年は、本当に薄情ですね……!」
「メエエ(リヒトは天然なのです)」
膝の上で羊が二人の間をとりなすように鳴いたが、小型化しているせいで声が小さくて誰にも聞こえない。
ソラリアは葛藤をこらえるように拳を握りしめた後、叫んだ。
「……私は大人です!」
「はあ」
びしっと指を突きつけられて、リヒトはぽかんとする。
「子供のリヒト君には保護者が必要なのです。このお姉様が付いていってあげましょう!」
「頼んでないけど……いたたっ、ふあかりましたあっ」
頬を左右に引っ張られて、たまらずリヒトは白旗を上げた。
赤くなった頬をさするリヒトを見たソラリアは満足そうな様子で、いそいそとテーブルに向かった。
「何してるの?」
「ジラフの教会宛に手紙を書いているのです」
春天楼の家捜しで見つけた紙とペンを取り出して、ソラリアは手紙を書き始めた。
リヒトは彼女の手元を眺めて不思議に思う。
「手紙を書くのはともかく、どうやって届けるのさ」
「分かりませんか?」
「……あ、もしかして鳥を」
「はい。私の鳥達にリレーして配達してもらいます」
なんとまあ。海を越える場所でも、海鳥に協力を頼んで飛んでもらえるらしい。遠く離れた教主国ジラフの本部とも、連絡が取れるのだとか。
「便利だねー。ソラリア、君の天職は勇者じゃなくて、郵便配達なんじゃない?」
「なんですって……言われてみると、そんな気もしてきました」
ペン先を回してソラリアは納得したように呟いた。
「今までずっと違和感を持っていました。私は本当に、聖女や勇者になるために生まれてきたのかと。そう、私はきっと配達人になるために生まれてきたのです!」
「なんか飛躍してる……」
「リヒト、あなたが最高の羊飼いを目指すなら、私は最高の配達人を目指しましょう! そう、戦いのためだとばかり思っていた天魔の力は、このためにあったのです!」
情熱が込もったソラリアの言葉を引き気味に聞いていたリヒトは、途中でハッと気付いた。
「戦いのためじゃなく……そっか。うん、確かにそうだ。僕が目指している羊さん王国は、羊さんを通して皆が幸せになれる場所だよ」
教会は天魔の能力者を勇者に育てていたし、リヒト自身も天魔の力は戦うためのものだと思っていた。しかし、考えてみれば戦いのための能力だと皆思い込んでいただけかもしれない。目から鱗である。
「ソラリアは羊さんじゃないけど、特別に僕の羊さん王国に入れてあげてもいいよ」
「羊より地位が低いのは気になりますが、良いでしょう。地上は羊のものでも、空は私の鳥達のものです」
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二人はすっかり意気投合した気持ちになって握手する。
メリーさんの突っ込みは夜風に溶けて消えた。
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