幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉

文字の大きさ
35 / 86
第五章

05 二人の試練

しおりを挟む
 タコ焼き合戦が開催されている方の浜辺は柔らかい砂で覆われていたが、仮面の男が向かった方は黒い大きな岩がゴロゴロしている。
砂に足を取られないのは良いが、大小様々な岩の上によじ登ったり跳んだりしながら走るのは、これはこれで大変なのだ。
 リヒトは天魔の力を使って脚力を補強しながら、何とか先を行く男に追い付いた。

「レイル、当たったらごめん!」

 適当な石を拾いあげると、リヒトは男に向かって投げ付ける。
 男が岩を跳び移る無防備なタイミングを狙ったのだが、気配に気付いたのか仮面の男は寸前で足を止める。投げた石はポチャンと海に落ちた。

「む……君は確かサザンカの言っていた」

 仮面の男は振り返ってリヒトを見る。
 肩に荷物のように背負われたレイルが、リヒトを見て芋虫のようにジタバタした。

「僕の友人を返してください」
「むぐーっ、むぐーっ」
「ここで会うとは都合がいい。ちょうど良い、君にも試練を与えよう!」
「人の話、聞いてませんね……」

 試練云々については、リヒトは知らないことだ。
 噛み合わない会話にうんざりしていると、男は高笑いを上げた。

「我が試練を乗り越えられるか、少年! 我が天魔は百獣王レオン、全ての獣は我が配下!」

 名乗りを上げる男の周囲の水面が泡立ち、飛び魚やヒトデが海面から飛び出す。

「うわっ?!」
「試練を乗り越えて俺を追って来い! はーっはっはっは!」

 飛んでくる魚やヒトデを、リヒトはしゃがみこんで避ける。

「獣って、魚は獣に入るのか……?」

 男の天魔に疑問を覚えるリヒトだが、突っ込んでいる余裕はない。
 高笑いしながら去っていく男を追おうにも、ビュンビュン飛んでくる海産物が邪魔だ。
 念のため心開眼ディスクローズアイで確認したが、男と魚やヒトデの間に絆の糸は張られていなかった。どうやら男の天魔は、仲良くない動物にでも命令できる能力があるらしい。

「困ったなあ」

 リヒトは飛んでくる海産物を避けながら岩の間に隠れて、対策を練る。考え込みながら何となく上空を見上げると、そこにはカアカアと鳴きながら飛び回る海鳥の姿が。

「そうだ!」

 思い付いて、リヒトは空を飛ぶ海鳥達に向かって手を伸ばす。

「君達は、歌鳥の勇者ソラリアと仲が良かったね。力を貸してくれないか」

 空を見上げたリヒトの瞳が妖しい蒼に輝く。
 強奪縁帯スナッチバンド
 一時的にソラリアと鳥達の絆を利用して、鳥達を操る。

「ここに餌がたくさんあるよ」

 要求を伝えると後は簡単だった。
 海鳥達は海面からジャンプする魚やヒトデに喜んで飛びかかっていく。絆を結んでいない他の海鳥達も集まってきて、ちょっとしたお祭り騒ぎになった。
 リヒトは海鳥達に後を任せ、心開眼ディスクローズアイでレイルとの絆の糸を辿る。
 光る細い糸は海際の洞窟の中へと伸びていた。



 仮面の男は、洞窟の奥まで来ると、冷たい石の床にレイルを降ろした。
 布や紐で手足を結ばれて、口を塞がれているレイルは床の冷たさに恐怖する。

「少年、ここは満潮になると海中に沈むのだ」
「?!」
「じきに海水が上がってくる。助かるには、天魔の能力を覚醒させるしかない。そうでなければ、君はここで死ぬ」
「むぐーっ」

 レイルは仮面の男の言葉に身をよじって抗議する。
 無茶ぶりにもほどがある。

「ではな、少年。俺はもう一人の少年の様子を見に行くとするか」

 仮面の男は床で呻くレイルには目もくれずに去っていく。
 後に残されたレイルは途方にくれた。
 本当に何の力も持っておらず、しかも山育ちのレイルは海に慣れていない。満潮がどういう現象でどのような対処をすればいいか、皆目見当も付かない。
 そのうちに海水がひたひたと地面を上がってくる。
 鼻先を流れる水に、レイルは命の危険を感じて焦った。
 身体を岩にこすりつけて、拘束が解けないか試してみる。

 リヒト……!

 先ほど、追いかけてきた幼馴染みの姿を見た。
 今となっては彼だけが最後の希望だ。
 きっと助けに来てくれる。そして……。

『……ふーん。また、あいつに頼るのか?』

 頭の中で誰かの声がする。

『いっつもそうだよな、肝心なことはあいつ頼み。けどお前が一生懸命になるほど、あいつ、リヒトはお前のことを何とも思っちゃいない。友達だと思っているのは、お前だけだ』

 不思議な声はレイルの焦燥を煽るように言葉を重ねる。

「違う、リヒトだってきっと俺のことを……」

 そこまで追って来てくれたのだから。
 きっとあの幼馴染みも、自分に友情を感じてくれているはずだ。

『勘違いすんな。あいつは律儀で正義感も強いから、義務だよ。リヒトがお前を友達だと思うはずがない。お前は、大事なことを忘れている』

 動揺するレイルを、声はせせら笑った。
 止めてくれ。
 思い出させないでくれ。

『リヒトがお前を許すわけがない。なぜなら……山火事で逃げ遅れたお前を助けるために、リヒトの両親は死んだ。お前が殺したからだ!』

 冷たい水が頬を濡らす。海水では冷めない灼熱が身体の中で暴れて、レイルは苦痛の悲鳴を上げた。
 少年の虚ろな瞳孔に紅の光が灯る。
 波紋が海面に広がる。暗い洞窟は、覚醒したばかりの天魔の力を受けて鳴動した。


しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...