幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉

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第四章

07 初めての海

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 カルマ青年は港までは一緒に行くと言った。

「俺は海の向こうに渡る。お前らとは適当なところで別れよう」

 一行は壊れた建物の残骸を探し歩いて、食料や衣類など、旅に必要な雑貨を回収した。
 旅の準備をしながらリヒトはこっそり彼に聞いてみた。

「セバスチャンさんのこと、覚えてる?」
「無論だ。忘れる訳がないだろう」
「ふーん」

 これまで絆を切ると相手は関連する記憶を失っていた。だが今回はつながった相手が死者だったので、勝手が違うのかもしれない。
 絆を切ると言えば、天魔のスキルを使う瞬間をばっちり目撃されたのだった。

「ねえ、さっきの戦いでリヒトが光ってなかった?!」

 アニスが勢いこんで聞いてくる。
 対するリヒトはにっこり爽やかに笑った。

「気のせいだよ」
「そうかしら」
「そうだよ。だいたい骸骨が動くとか、普通じゃないことが起きていたじゃないか。夢でも見たんじゃない?」
「言われてみればそうかも」

 惚れた弱みと言うべきか、リヒトに好意を抱いているアニスは彼の笑顔にどうでも良くなった。リヒトの説明は良く考えればおかしな点も沢山あったが、アニスはそんなに細かいことを気にするタイプではない。
 二人の会話を聞いていたソラリアは、リヒトの服を引っ張って隅に移動した。

「隠す必要はないのでは? 彼女はあなたの幼馴染みでしょう」
「うん、隠す必要はない。けどアニスは往来のど真ん中で僕の天魔について話しそうで怖い」
「た、確かに」

 アニスが非常に単純で大雑把な性格であることは、ここ数日の旅で痛感していた。ソラリアは呆れ半分で納得する。

「メエー(そろそろ先に進もうよ)」

 羊のメリーさんが足踏みしているので、リヒト達は準備を整えて山を下り始めた。とうげを越すと、半月の形の入り江と海に面した街が見えてくる。

「海ですね……!」
「これが海……」

 峠に立って、リヒト達はしばらくその光景に見入った。
 紺碧の海は外に向かって、どこまでも続いている。弧を描く水平線を境に海と空は分断されていた。水面は太陽の光にキラキラと光っている。湖と違って波打つ水面は、規則的に浜へ向かって波を打ち寄せていた。
 潮混じりの独特の匂いがする風が髪を乱す。
 空には太いクチバシを持つ海鳥が、鳴き声を上げながら飛び交っていた。

「初めて見たや」

 リヒトは目を輝かせて海を見つめる。
 両親から話は聞いていたが、実際に目にするのは初めてだった。

「ふっ。俺は見たことがあるぞ」
「メエー(羊も見たことあるよ)」
「すっごーい! すっごいわ、あれ!」

 カルマは年長の威厳を見せようと、無駄に知ったかぶりのコメントをしたが誰も聞いていなかった。羊だけが真面目に返事をしたが、ただメエメエ鳴いているようにしか聞こえない。
 興奮したアニスは語句が貧相になっている。

「おや、あれは何でしょう」

 ソラリアはポケットからごそごそ双眼鏡を取り出した。
 いつの間にか、彼女の肩にはカラスではなく海鳥がとまっている。鳥なら何でも良いのだろうか。

「浜辺に旗が立っていますね。タコ焼き合戦の参加者募集中……?」
「タコ焼き?」
「合戦?」

 リヒトはアニスと一緒に首をかしげた。
 何の事だか分からない。

「タコは、海に住む足が8本あるヌルヌルした生き物だ」

 カルマが解説する。
 海を見たことがない山育ちのアニスとリヒトは、解説されてもイメージが沸かない。

「足が8本? そんなに足を生やして一体何に使うんだろう」
「ヌルヌルって里芋しか思い付かないわ!」

 見当違いのコメントをする二人に、カルマは返す言葉に困った。

「と、ともかく、タコは食える! おそらく浜辺でタコを焼いて食っているのだろう!」
「食べ物なの?! 食べてみたいわ! 行こうよ、リヒト!」
「うわっ」

 アニスは興奮のあまりリヒトの腕を引っ張って浜へ走り出した。
 浜辺までは、まだ随分と距離がある。
 天魔の力も使って猛スピードで走るアニスに引きずられて、リヒトは悲鳴を上げた。赤い目は一般人に見られると普通ではないと思われる。こんなことで天魔を使うのはよろしくない。

「どうどうっ、アニス! 抑えて! 歩いて行こうよ!」
「えーっ、すぐそこなのにー」

 ソラリアは双眼鏡をしまうと先に行った二人の後を小走りで追う。
 猪突猛進な少女には、天魔の使い方を教えなければいけない。瞳の色を変化させないで魔力をコントロールする修行が必要だ。
 カルマはフード付きの外套を荷物から取り出した。彼の白い髪と赤い瞳は目立つので、人前ではフードを被る予定だ。
 羊のメリーさんも、のんびり人間の後を追った。




 森の中、すっかり忘れられた者がいる。
 地面に横たわっていた銀の髪に袖の長い服を着た女が、突然、息を吹き返して起き上がった。身体の上に乗っていた落ち葉と芋虫が落ちる。

「我が君……また、私を置いていかれましたね!」

 復活をはたしたサザンカは悔しそうにする。
 彼女はよろよろ立ち上がって森の中を歩き出した。獣や鳥が慌てて逃げていく。

「お腹が減ったわね……」

 天魔のスキルで甦ると言っても、空腹はどうにもならない。
 森を抜けたサザンカは潮風を感じた。
 風の中に何か食べ物が焼ける香ばしい匂いがする。



 ぐうーっ、と鳴ったお腹に手をあてて、レイルはうずくまった。
 人のいない倉庫の中で少年は閉じ込められている。
 足首に巻かれたロープで荷物に繋がれていたが、ロープは筋力に自信があれば千切れそうな太さだった。しかしレイルは千切れるか試していない。疲れて動けないからだ。

「リヒトぉ……俺を見捨ててないよな、あいつ……」

 薄情な幼馴染みを思い浮かべてレイルは苦悩した。
 マイペースで勝手で現実主義の幼馴染みだが、なぜか助けてくれるとしたら他の大人達ではなく、彼のような気がする。
 根拠は無いが、あの冷たい幼馴染みだけは信頼できた。
 暗い倉庫の隅でレイルはただひたすらに、その時を待っていた。


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