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エピローグ

02 未来を祝して

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 カズオミは土竜王の土産を持って、ハルトの後を付いて歩き出した。
 なぜかハルトはアケボノの街を出て火山の方へ向かう。
 アケボノの街を出たところでハヤテが合流した。

「お、久しぶりじゃん、カズオミ君。土産は何?」
「煎餅です……」
「それってリーブラ名物の滅茶苦茶、歯が立たないくらい硬いやつ? 病み上がりのアサヒに食えるのかよ」
「病み上がり?」
「あれ? 知らなかったか。アサヒの奴、しばらく倒れて寝込んでたんだぞ」
「え?!」

 ハヤテ・クジョウは青い長髪をした陽気な青年だ。
 少し前までアントリアに留学していたことがあり、最近は水の島と火の島を伝令役として、行ったり来たりしていたらしい。
 土の島リーブラにずっといたカズオミは友人が寝込んでいたと知らなかった。
 
「お見舞い?! 知ってたら僕、もっと気の利いた物を買ってきたのに!」
「まあ、もうベッドにはいないし、外を出歩いてるから大丈夫だろ」

 果物か何かを持ってくれば良かったと後悔するカズオミに、ハヤテは気にするなと手を振った。
 三人は火山の中腹へ山道を登る。
 獣道のような細い道をたどり、大きな岩が転がっている場所を乗り越えると、緑に染まったなだらかな山肌が見えてきた。

「わあ……」

 そこは風のおだやかな花畑だった。
 背の低い雑草がおいしげっていて、ところどころに白や黄色の花が咲いている。
 暖かな風が吹いて、草がさらさらと葉擦れの音を立てる。
 細かな花びらが風に舞い踊った。

 花畑では三人の男女が談笑している。
 
 一人は銀の髪を滝のように伸ばした美しい女性。
 もう一人は、深紅の髪と琥珀の瞳を持つ、竜を肩に乗せた青年。
 最後の一人は黒髪の紅玉の瞳の、友人のアサヒだった。

「アサヒ!」
「……あ、カズオミ。戻ってきたのか。土産は何? 煎餅?」

 振り返ったアサヒが笑う。
 病み上がりだという話だが回復しているのか、元気そうな様子にカズオミは安心した。
 
「土竜王様が、アサヒによろしく、だって。近い内に、5つの島の竜王でそろって話をしよう、って」

 言いながら、カズオミは心臓が高鳴るのを感じた。
 空飛ぶ島の歴史が始まってから、5つの島の竜王が集まったことは数えるほどしかない。
 しかもこんな近くで5つの島を浮かべるなんて初めてではないだろうか。
 島の間の距離が短くなったことで、今、竜や飛行船の行き来が簡単になっている。
 目ざとい商人の中には飛行船を用意して交易を始めようとしている者もいた。
 新しい時代が始まろうとしている。
 
「話って、もしかしてピクシスに集まるのかよ。あいつら、自分の島に他の竜王を呼ぼうとは思わないんだな」

 アサヒは何でもないように言って、面倒くさそうにした。
 
「コローナの光竜王も来るのか? 賠償の話がうやむやになっているぞ、アサヒ。光竜王とはきっちり話を付けて、損害の分を取り返さねばなるまい」
「分かった。分かったから、そううるさく言うなよ、ヒズミ!」

 腕組みして深紅の髪の青年、ヒズミ・コノエが威圧感のある声を出す。
 彼がアサヒの兄だということは一部の関係者の間では周知の事実だった。
 
「そういえば」

 ハヤテが無遠慮に兄弟の会話に割って入る。

「アウリガは今日、新女王の戴冠式らしいな」
「え?! それ、早く言えよ! 新女王ってユエリ? お祝いに行かないと!」

 余計なことを、とヒズミが目だけでハヤテを睨むが、ハヤテはどこ吹く風で明後日を向いた。
 急に慌てだしたアサヒは、ポケットを探って小さな蜥蜴とかげのような姿をした相棒を取り出す。

「ちょ、い、今から行くの?!」
「善は急げって言うだろ」
「待てアサヒ、お前の今日の予定は」
「キャンセルで!」

 周囲が引き留めるのを無視してヤモリを竜に変身させると、身軽に竜に飛び乗るアサヒ。
 ヒズミが慌てて指示を出す。

「おいハヤテ、貴様が責任をとってアサヒに付いていけ!」
「はいはい」

 みるみる内に上昇して遠くなる4枚の翼の漆黒の竜王に、ハヤテの青い竜が追いすがる。
 カズオミが呆気にとられている間に友人は行ってしまった。

「あーあ。久しぶりに会えたのに、ちっとも話せなかったや」
「すまないな、クガ。しかし困ったものだ。今日はミツキとの約束でここに来ているというのに」

 管理責任を感じているのかヒズミが何故か謝る。
 話題にあがった銀髪の巫女姫ミツキは、くすくすと笑った。

「別に良いわよ。もう花畑で遊ぶような年齢でもないし、また一緒にここに来られただけで十分だわ」

 カズオミは竜が飛び立ったせいで、花びらが散って風に乗って巻きあがっていく空を見上げる。
 きっとユエリは突然あらわれたアサヒにびっくりするだろう。
 意地を張ってアサヒを拒絶するかもしれない。
 けれどアサヒが気にしないから、なんだかんだで付き合いが続くのではないだろうか。

 島と島が近くなって、人と人の距離も近くなる。
 今は反対する人も多いが5つの島が手をとりあって共存する未来がいつか訪れる。
 その日を思い描きながら青年は晴天に手を伸ばす。
 祝福するように柔らかな花びらが指をかすめて飛んでいった。



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