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学院編

13 炎竜王は誰だ

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 決闘で勝ったアサヒは、学院に入学して数日だというのに「卒業」を言い渡され、学院の外で竜で運搬を請け負う仕事を手伝うことになった。
 なぜか連帯責任だか何だかでカズオミも一緒にだ。

「ごめんな、カズオミ。結局お前まで巻き込んで」
「いいよ、気にしないで」
「カズオミ……お前って良い奴だな」

 アサヒは感動した。
 そうこうしている内に一等級ソレルの女子生徒ユエリが現れて、一緒にふもとの村アルザスまで行くことになった。
 アサヒ達の仕事は、アルザスの村から新鮮な野菜や魚を王都アケボノまで運んでくることらしい。
 三等級テラ出身の竜騎士の先輩と一緒に、アサヒ達は移動することになった。

 移動は竜に乗って空を飛ぶ。
 ここには先輩の竜と、アサヒとカズオミの竜がいる訳だが、バラバラに竜に騎乗すると説明が面倒になるということで、カズオミの竜に皆で乗ることになった。
 普段は羽が生えたイグアナのような姿でカズオミの肩に乗っている竜のゲルドだが、竜の姿に戻るとかなり巨大だ。
 ゲルドは、エメラルドグリーンの鱗に透明な薄くて平べったい四枚羽を持った、変わった姿の竜だった。蜥蜴とかげよりも昆虫、バッタの雰囲気がある。

「僕の竜は土属性なんだ」

 火竜より機動力がなく、のそのそ移動して平らな羽で滑空するゲルド。カズオミによると、竜の中では戦闘に向いていない種類なのだそうだ。
 竜の翼を持ってしても目的地の村までは二時間は掛かるらしい。
 同乗の先輩竜騎士から軽く説明を受けた後は、何もすることが無くなってしまった。
 暇を持て余したアサヒ達は世間話を始めた。

「……それにしてもヒズミ様は本当に伝説の炎竜王様なのかなあ」
「って言われても」

 カズオミの振ってきた話題は伝説の炎竜王についてだった。
 隣で黙っているユエリが反応して、興味深そうにこちらを見る。

「炎竜王と言えば慈悲深くて優しい、島の人間や竜を守ってくれる最強の竜騎士らしいんだけど。ヒズミ様は弱い者いじめする生徒を罰さないし、僕らみたいな無害な生徒を学院の外に放り出そうとしている」

 カズオミは寝ぐせで爆発している栗色の頭をかしげてみせる。

「ねえアサヒ、ヒズミ様は炎竜王だと思う?」

 聞かれてアサヒは眉間にしわを寄せた。

「俺に分かるわけないだろ。だいたいその炎竜王、ってのが何なのかも分からないのに」
「だよねえ……竜騎士なら竜王が誰か分かる、会えば特別なものを感じるって聞いたけど、本当なのかどうなのか。ピクシスにはここ百年以上、竜王がいないから誰にも分からない」

 空を見上げるカズオミ。
 ユエリが途中から口を挟んだ。

「でも、十数年前に炎竜王が生まれたという噂を聞いたわ。必ずどこかにいるはず。ヒズミ・コノエ以外に炎竜王らしい人物はいるの?」
「うーん。思い当たらないですね」

 彼女の疑問に答えるカズオミは困った顔をしている。

「……そもそもピクシスに竜王がいない理由は、栄光時代グロリアエイジの最後にある。二百年程前、光の島コローナが五島すべてを統一した時代があった。最初は素晴らしい政治をしたんだけど、段々傲慢になった光竜王に五島の人々は困り果てたんだ。その悪政に立ち上がって戦いを挑んだのが炎竜王。激しい戦いの末に炎竜王は光竜王と相打ちになって封印されたんだ。五島はバラバラになり、以降、炎竜王は姿を現さなくなった」
「封印?」
「そう。だから、ヒズミ様が炎竜王でないなら、本当の炎竜王様はどこかに封印されたままになっているかもね。噂だけで、誰も今代の炎竜王に会ったことが無いから」

 カズオミの解説は親切で分かりやすかった。
 だが、アサヒはうーんとうなる。

「……なんで炎竜王が必要なんだ?」
「え?」
「皆が頑張って生きていけるなら、それでいいじゃないか」

 アサヒは別世界の記憶を思い起こした。
 かの世界には竜王はおらず普通の人々が助け合って生きていた。竜王や魔法がなくても人は生きていける。アサヒはそれを知っていた。

「あなた何言ってるの? 竜王がいないと困るじゃない」
「そうだよアサヒ。ピクシスが弱っているのも竜王がいないからなんだよ」
「あー、分かった! 分かったよ!」

 ユエリとカズオミの両方にそう言われてアサヒは降参する。
 そうこうしているうちにアサヒ達は村に着いた。
 火山の麓の村アルザスは森に囲まれて小さな湖のある、自然豊かな村だった。農民らしい人々が農作物や魚を持って道を行き来している姿が見える。
 まだ空が明るい日中だったが運搬は明日の朝はじめるらしい。今日は運搬しやすいように、荷物をまとめて準備するのだそうだ。

「おい、お前、アサヒと言ったか。二等級ラーナに勝ったんだって?」

 村を見回していると、先輩の竜騎士の一人が近づいてくる。
 彼はニヤニヤ笑っていたがそれはどうも好意的な笑みではなかった。

「二等級に勝つくらいなら、荷物を運ぶくらい楽勝だよな! 俺の分も頼むよ」
「え?」
「よしよーし、良い後輩を持って俺は幸せだなあ!」

 勝手なことを言って有無を言わさず仕事を押し付けると、その先輩は高笑いして去っていった。
 無表情な顔をした村人が「ではこちらの荷物も明日の朝届けてください」とアサヒ達の前に荷物を置いていく。

「ど、どうするんだよアサヒ!」

 積み上げられた大量の荷物を前に、カズオミは頬に手をあててムンクの叫びのようになった。
 アサヒは腕組みしてニヤリと笑う。

「なんとかなるだろ」
「なる訳ないだろーーっ」
「なるって。カズオミ、お前、工具を持ってきてたよな。ユエリ、この村で丈夫な紐を作っているところ、知ってるか?」

 聞かれたユエリは、出発直前の会話もあってすぐにアサヒの言葉の意図を察した。

「あなた、まさか……」
「工夫すれば力が弱くても何とでもなるって教えてやるよ」

 楽しそうに笑ったアサヒは、使える道具や材料が無いか探すため、カズオミとユエリと一緒に村の中を歩き始めた。


 
 
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