異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第四章 光と闇

02 王子様と精霊

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 エターニア王宮から詩乃と猫を助け出した樹達。
 白い竜に見えるイタチの精霊クレパスに飛び乗り、エルフの住む森オレイリアを目指して飛行中なのだが……

「というか、このお子様は誰なんだ?」

 クレパスの背中には予定外の搭乗員が乗っていた。
 上質の素材を使った飾りの多い服を着た、金髪碧眼の少年だ。
 英司が改めて不思議そうにする。この少年は、詩乃と一緒に付いて来てしまったのだ。
 詩乃が慌てて少年を紹介する。

「ちょっと英司、この子は王子様よ! アルファード王子!」
「控えよ、が高い」

 少年はえっへんと威張る。

「お前は騎士団の関係者か。僕をなんと心得る」

 少年の目線の先にいた英司は肩をすくめた。
 エターニアの騎士団に所属していた英司は、正騎士では無いものの紺色の軍服を着ている。しかし一時的に騎士団にいたと言っても、地球は日本出身の英司にとっては身分差などどうでもいいことだ。
 英司は樹に話を振った。

「王子様か。へー、樹、どうする?」

 樹は、大空を飛行中の白い竜に寄り添うように、光の翅を広げて一緒に飛行していた。
 クレパスの背中には英司・詩乃・ソフィー・少年の四人が乗っている。
 さすがに樹まで乗り込むと定員オーバーなので、樹は自前の翼で空を飛ぶことにしたのだ。
 飛行の邪魔になるので樹は眼鏡を外していた。翠玉の瞳を露にして八枚の光の翅を広げる青年は、一種神々しい空気を纏っていて普段よりずっと精霊らしい。
 少年をちらりと見ると、樹は王子だからと畏まったりせずに、いつも通りの調子で答えた。

「初めてリアルな王子を見たな。絶滅危惧種に会った気分だ」
「レッドリストかよ。だけど樹、珍しさで言えばお前の方が上だと思うぞ」
「英司、君だって王子よりは珍しい存在だっただろう」
「あー、その話は止めようぜ。この王子様は連れてくしかないよな?」
「そうだな」

 英司と樹は、二人にしか分からない会話をする。
 樹はこの世界に二体しかいない最高位の精霊で、英司は元とはいえ天空神ラフテルに召喚された勇者だ。樹も英司も、実はただの王族よりずっと身分が高い。
 詩乃はそういった事情を知らないので、訳が分からずに呆けていた。
 会話を聞いていたアルファード王子は眉根を寄せる。

「お前達、僕をどこに連れていくつもりだ。先ほどはオレイリアと言っていたが、あそこは魔物が住む森だろう。僕を生け贄にするつもりか?!」
「オレイリアに魔物?」

 少年の指摘に、エルフの少女ソフィーが反応する。
 この世界のエルフは金髪にウサギ耳をした美しい種族だ。百年ほど前までオレイリアはエルフの里として知られていた。

「ソフィー、落ち着いて聞いてくれ。今の世界では精霊と魔物が混同されているみたいなんだ。そして現在のオレイリアの森は人間が入れないようになっていて、エルフの出入りも無く、中の様子が分からないらしい」

 樹が静かに説明する。
 説明を聞いたソフィーが不安そうにした。

「そんな……」
「精霊が魔物だって? 今の世界には精霊魔法の使い手がいなくなってるのか?」

 英司が腕組みして唸る。
 精霊魔法と聞いて、詩乃とアルファード王子がきょとんとした。

「精霊魔法?」
「地水火風みたいな自然に宿る精霊の力を借りて行使する魔法のことだよ。アルファード王子、貴方は精霊魔法を知らないのか?」

 英司の補足に、王子はゆるゆると首を横に振った。

「……私が教わったのは、精霊は形を持たない魔物の一種で、魔晶石に封じ込めて初めてその力を使うことが可能だと……」
「だいぶ偏った知識を植え付けられてるんだな」
「英司、精霊って何? 猫さんも精霊だって、カノン王が言ってたけど」

 詩乃が赤い毛並みの猫を抱えこみながら問いかける。
 その問いかけに英司は少し躊躇したが、結局詩乃ではなく王子の方に向き直る。彼は白い竜と、竜に寄り添って飛ぶ樹を示しながら、アルファード王子に言った。

「王子様、俺達が今乗っている竜も、そこにいる樹も、精霊だ。こいつらは魔物に見えるか?」

 少年は静かに自分を見る樹と視線を合わせ、息を呑んだ。
 光の翅を広げる青年は、王宮で教えられてきたような邪悪な存在にはとても見えない。むしろ、それとは真逆の神聖な存在に見える。
 思わず黙り込んでしまった王子に代わって詩乃が声を上げた。

「え? 樹君って精霊なの?」
「詩乃さん。僕が精霊だったら何か不都合があるかい」
「いえ、ないけど……」

 にっこり有無を言わさず疑問を封殺する樹。
 釈然としないものを感じながら、詩乃は白い竜に乗る面々を眺めた。
 先ほどから英司は元勇者としての発言をしている。そのため事情を知らない詩乃は困惑していたが、勇者の仕事を黒歴史だと思っている英司は、幼なじみに自分の過去を話すつもりが無かった。

「あ、あそこらへんがオレイリアですよねっ」

 ソフィーが地上の森が続く一角を示した。
 会話している間にだいぶ南下していたらしく、既にエターニアの国土は見えなくなっている。前方に海と山脈、その手前に広がる広大な森が見えてきていた。

「よし、森へ降りよう。クレパス!」
『がってん承知!』

 やたら活きの良い返事をして白い竜は下降を始める。
 ソフィーが不安そうに呟いた。

「皆、今、どうしているのでしょうか……」
「大丈夫さ。エルフの皆はまだ、あそこにいる」
「イツキ?」

 樹の翠玉の瞳には、普通の人間や一般のエルフにも見えない、森を覆う結界が見えている。
 結界があるということは、エルフ達は健在だということだ。
 一行を乗せた白い竜は、樹海の木々が途切れた場所に向かって静かに降りていった。


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