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(第二部)第三章 ここからもう一度
07 サトウキビ栽培、実は……
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次々と流れ星が街に落ちていく。
ソフィーは樹の腕をぎゅっと握った。
「街の人を助けなくていいんですか……?」
「下手に手を出すと話がややこしくなる」
動かずに成り行きを見守る樹だったが、流れ星のひとつが落ちた方向を見て、顔をしかめた。
「あそこはまさか……まずい」
「イツキ?」
「ごめんソフィー、ちょっとここを離れるけど、じっとしててくれるか」
「え?!」
樹はソフィーの手をやんわりふりほどき、流れ星の落ちた方向へ走り出す。
誤解のないように断っておくと、今、樹が走っているのは人助けのためではない。
実は流れ星が落ちた方向には、樹の秘密の実験場があったのだ。
モンブラン伯爵家から老婆の家に移った樹とソフィー。
老婆の家の庭は一般人にしてはそこそこ広いが、それでも大量の薬草を育てるには無理がある。
そこで樹は王都のあちこちで使っていない農地や庭を借りて、別の場所でも薬草を育てていた。流れ星が落ちたと思われる場所は、その農地のひとつで特別な場所。
樹がこっそりと、新種のサトウキビを開発する実験をしている場所だった。
実は、英司には話したサトウキビの栽培だが、ソフィーには秘密にしていた。
サトウキビの開発が思い通りに進んでいないのがその理由だ。
新しい世界樹とつながって本当の精霊の力を手にしてから、樹は影で力の使い方について試行錯誤していた。なにしろ神に匹敵する世界樹の精霊の力は強力すぎて、力の調節が難しい。
新しい生命を創造できるという夢のような能力を持っているのに、なかなかうまくいかない。
地球のサトウキビをイメージしているのだが、いったいどうしてこうなってしまったのか。
「うっ……やっぱり」
巨大な人骨を模したような怪物が、樹の作った畑に踏み入ろうとしている。
怪物は日本の妖怪「がしゃどくろ」のような姿をしていた。
畑が怪物に荒らされそうになっているのだが、樹の懸念点はそこではない。
怪物の足元で、畑に植わっているカブのような植物が「もこっ」と動いた。
地面がもこっと盛り上がって、緑の葉っぱの下から真っ白い球体の根が姿を現す。丸々と太った根には……円らな目があって小さな足が生えていた。まるでマスコットキャラか、地球のゲームで登場するデフォルメされた可愛いモンスターのよう。
足の生えた植物は、迫りくる怪物を前に、すたこらさっさと自力で逃げ出そうとしている。
「ああ、なんでこんなものが出来ちゃったんだ……」
樹は額に手をあてて苦悩した。
最近の樹の悩み事、それは新種のサトウキビを作ろうと育てた作物が、なぜか手足が生えたりして動き出すモンスターもどきになってしまうことだった。
ちなみに樹の作った作物は人を襲わない。そこだけは安心な点だ。
「……わああっ!」
畑の中で叫び声が上がる。
よく見ると、逃げる作物の中に、腰を抜かした少年が倒れていた。
少年の脇にはトマトが数個転がっている。
こんな夜中に他人の畑で野菜を摘むなど普通はしない。どうやら野菜泥棒をしようとしていたところ、巻き込まれてしまったらしい。
畑に足を踏み入れた怪物は、中身の無い頭蓋骨の眼窩で少年を見下ろしている。
「仕方ないな」
樹は自分の精霊武器を召喚する。
銀色の刀身を持つシンプルな装飾の片手剣がその手に現れた。
「そこは、立ち入り禁止だ!」
骨の怪物に世界樹の剣を叩きつける。
怪物の背骨が砕け、次の瞬間、ばらばらの骨の残骸になって畑に降りそそいだ。
骨は肥料になるだろうか、と一瞬、樹はどうでも良いことを考えた。
「君、大丈夫か」
腰を抜かしている少年に手を差し伸べる。
訳が分からない様子で頷く少年に、樹はふと思いついて、かたわらを走り抜けようとしてカブもどきを掴み上げた。
茫然とする少年の腕にカブもどきを押し付ける。
カブもどきは小さな足をバタバタさせて抵抗したが、力が弱いので子供でも捕獲可能だ。
「これ、食べられるから」
カブもどきを贈られた少年は口をぱくぱくさせたが、樹の言葉に含まれた謎の圧力に、最終的にはカブもどきを抱えて畑を去っていった。……貧民だったその少年がおかしな植物を持っていたおかげで、その後、街の人に保護されて食べ物に困らない生活ができるようになったのは、また別の話である。樹の畑から逃げ出した作物がエターニア周辺の一部で自生する珍しい植物になって、高値で取引されるようになるのも別の話だ。
骨の怪物を倒し、部外者の少年を追い出した樹は、やれやれと額の汗をぬぐった。
静寂が戻った夜の空気に安堵する。
後片付けをしようと思っていた樹の背に、声が掛かる。
「……さすがだな。やっぱりイツキ殿だ」
振り返った先に立っていたのは、地球に戻る前に別れた吸血鬼の青年だった。
ソフィーは樹の腕をぎゅっと握った。
「街の人を助けなくていいんですか……?」
「下手に手を出すと話がややこしくなる」
動かずに成り行きを見守る樹だったが、流れ星のひとつが落ちた方向を見て、顔をしかめた。
「あそこはまさか……まずい」
「イツキ?」
「ごめんソフィー、ちょっとここを離れるけど、じっとしててくれるか」
「え?!」
樹はソフィーの手をやんわりふりほどき、流れ星の落ちた方向へ走り出す。
誤解のないように断っておくと、今、樹が走っているのは人助けのためではない。
実は流れ星が落ちた方向には、樹の秘密の実験場があったのだ。
モンブラン伯爵家から老婆の家に移った樹とソフィー。
老婆の家の庭は一般人にしてはそこそこ広いが、それでも大量の薬草を育てるには無理がある。
そこで樹は王都のあちこちで使っていない農地や庭を借りて、別の場所でも薬草を育てていた。流れ星が落ちたと思われる場所は、その農地のひとつで特別な場所。
樹がこっそりと、新種のサトウキビを開発する実験をしている場所だった。
実は、英司には話したサトウキビの栽培だが、ソフィーには秘密にしていた。
サトウキビの開発が思い通りに進んでいないのがその理由だ。
新しい世界樹とつながって本当の精霊の力を手にしてから、樹は影で力の使い方について試行錯誤していた。なにしろ神に匹敵する世界樹の精霊の力は強力すぎて、力の調節が難しい。
新しい生命を創造できるという夢のような能力を持っているのに、なかなかうまくいかない。
地球のサトウキビをイメージしているのだが、いったいどうしてこうなってしまったのか。
「うっ……やっぱり」
巨大な人骨を模したような怪物が、樹の作った畑に踏み入ろうとしている。
怪物は日本の妖怪「がしゃどくろ」のような姿をしていた。
畑が怪物に荒らされそうになっているのだが、樹の懸念点はそこではない。
怪物の足元で、畑に植わっているカブのような植物が「もこっ」と動いた。
地面がもこっと盛り上がって、緑の葉っぱの下から真っ白い球体の根が姿を現す。丸々と太った根には……円らな目があって小さな足が生えていた。まるでマスコットキャラか、地球のゲームで登場するデフォルメされた可愛いモンスターのよう。
足の生えた植物は、迫りくる怪物を前に、すたこらさっさと自力で逃げ出そうとしている。
「ああ、なんでこんなものが出来ちゃったんだ……」
樹は額に手をあてて苦悩した。
最近の樹の悩み事、それは新種のサトウキビを作ろうと育てた作物が、なぜか手足が生えたりして動き出すモンスターもどきになってしまうことだった。
ちなみに樹の作った作物は人を襲わない。そこだけは安心な点だ。
「……わああっ!」
畑の中で叫び声が上がる。
よく見ると、逃げる作物の中に、腰を抜かした少年が倒れていた。
少年の脇にはトマトが数個転がっている。
こんな夜中に他人の畑で野菜を摘むなど普通はしない。どうやら野菜泥棒をしようとしていたところ、巻き込まれてしまったらしい。
畑に足を踏み入れた怪物は、中身の無い頭蓋骨の眼窩で少年を見下ろしている。
「仕方ないな」
樹は自分の精霊武器を召喚する。
銀色の刀身を持つシンプルな装飾の片手剣がその手に現れた。
「そこは、立ち入り禁止だ!」
骨の怪物に世界樹の剣を叩きつける。
怪物の背骨が砕け、次の瞬間、ばらばらの骨の残骸になって畑に降りそそいだ。
骨は肥料になるだろうか、と一瞬、樹はどうでも良いことを考えた。
「君、大丈夫か」
腰を抜かしている少年に手を差し伸べる。
訳が分からない様子で頷く少年に、樹はふと思いついて、かたわらを走り抜けようとしてカブもどきを掴み上げた。
茫然とする少年の腕にカブもどきを押し付ける。
カブもどきは小さな足をバタバタさせて抵抗したが、力が弱いので子供でも捕獲可能だ。
「これ、食べられるから」
カブもどきを贈られた少年は口をぱくぱくさせたが、樹の言葉に含まれた謎の圧力に、最終的にはカブもどきを抱えて畑を去っていった。……貧民だったその少年がおかしな植物を持っていたおかげで、その後、街の人に保護されて食べ物に困らない生活ができるようになったのは、また別の話である。樹の畑から逃げ出した作物がエターニア周辺の一部で自生する珍しい植物になって、高値で取引されるようになるのも別の話だ。
骨の怪物を倒し、部外者の少年を追い出した樹は、やれやれと額の汗をぬぐった。
静寂が戻った夜の空気に安堵する。
後片付けをしようと思っていた樹の背に、声が掛かる。
「……さすがだな。やっぱりイツキ殿だ」
振り返った先に立っていたのは、地球に戻る前に別れた吸血鬼の青年だった。
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