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(第二部)第二章 出会いと別れ
06 それぞれの答え
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フード付きパーカーをソフィーに着せると、結菜は樹と待ち合わせの喫茶店に向かった。パーカーの裾からソフィーの輝くような金髪や、細くて白い手足がのぞいている。しかし、繁華街は外国人の姿もあるので、殊更じろじろ見てくる人はいなかった。
目標の喫茶店はパフェが美味しいと人気の店だ。一度来てみたいと思っていた。
店の前で待っていた樹は、着替えるのが面倒だったのか学生服のままだった。
「結菜、目的はスペシャル苺パフェか?」
「そうよ。ソフィーちゃんの面倒みたお礼、してくれるよね」
「仕方ないな……」
結菜の狙い通り、支払いは樹が持ってくれるようだ。
「ソフィーちゃん、今日は沢山食べようね!」
「いいんですかぁ?!」
「君達、ちょっとは遠慮しようよ」
三人は並んで洒落た喫茶店に入った。
喫茶店の店員は、日本人離れしたソフィーの金髪碧眼に白い肌を見てびっくりしたようだが、教育が行き届いているらしく騒いだりはしなかった。
メニューを見てそれぞれ注文をする。
結菜は、季節のフルーツ山盛りパフェ。
ソフィーは、特大マンゴーパフェ。
樹は、ショートケーキと紅茶のセットだ。
「しっかり食べておけよ、ソフィー。もうすぐ僕らは異世界に戻るんだから」
注文が終わった後、樹が言った台詞に、結菜は驚いた。
「異世界に戻る? どうやって?」
「方法を見つけたんだ。それを使って、僕とソフィーとアウルは、異世界に戻る」
結菜たちは、いつも天空神からの召喚で異世界転移していた。
だから他の方法と言われても、どんな方法か皆目見当が付かない。
「ソフィーとフクロウさんはともかく、樹くんまで……どうして?」
異世界の住民であるソフィーとアウルが、元いた世界に戻りたい理由は理解できる。
しかし、地球人の樹まで異世界へ行く理由が分からない。
「平たく言うと僕は半分、異世界の住人なんだよ。前に世界樹の精霊だと自己紹介したろ。あの世界の世界樹が、僕の本体なんだ。僕の運命は異世界と共にある」
「嘘……」
改めて説明され、結菜は勇者である自分たちと、精霊である樹は違うのだと気付く。
「君たちが天空神ラフテルの勇者をやるなら、僕は一緒には行けないんだ。天空神は僕の敵かもしれないから」
「……」
「だから、僕たちだけで異世界に行く」
どう返事したものか分からず、言葉を失っている結菜の前に、注文したパフェが運ばれてくる。
ソフィーの前にも、花弁を模して厚切りになったマンゴーが盛られたパフェが置かれた。
「うわあ、すごい!」
「どれどれ」
樹は平然とした顔でフォークを伸ばし、ソフィーの前から一切れマンゴーをさらった。
「……うまいな」
「ひどいですぅ!」
堂々とつまみ食いされてソフィーが涙目になる。
樹はふっと笑い「君のものは僕のもの」と言って、またフォークでマンゴーをうばった。
そのまま自分の口に入れると思いきや、涙目のソフィーの前に差し出す。
「はい」
「……ふああ! おいしい……」
ソフィーは素直に口を開き、樹のフォークからマンゴーを食べる。
隣で見ていた結菜は真っ赤になった。
これでは恋人同士の「あーん」そのものではないか。
樹はともかく地球の文化を知らないソフィーは自覚がないようだ。
次々と差し出されるマンゴーを受け取って満足そうにしている。
頬杖をついた樹は楽しそうな様子だ。
「馬鹿っぷる……」
「何か言ったか、結菜」
「いいえ」
結菜は胸やけするような光景から目をそらし、自分のパフェを食べることにした。
しばらく三人は食事に集中して無言になる。
やがて食後にコーヒーを飲んで一息付いた結菜に、樹は言った。
「もし、君たちが自分の意思で異世界に行きたくなったら、そうできるように、方法を伝えておくよ」
「これは」
樹がそっと白い便せんを取り出し、結菜に渡す。
「その時が来たら使ってくれ。僕は智輝も結菜も、大切な友達だと思ってる」
「当たり前よ……」
便せんを握りしめ、結菜は不意に泣きそうな気持ちになって、あわてて涙をこらえた。
次は、英司と話す番だ。
樹は放課後、学校の帰りに英司と公園で待ち合わせた。
お互い学校の制服を着た格好だ。英司は上着を羽織ってネクタイをしめていたが、樹は上着を荷物に放り込んで、白シャツ姿だった。
二人はボールを投げあう子供達を眺めながら、遊具に腰かける。
「……あの鏡は異世界につながっている。僕の力を使えば、鏡に異世界へのゲートを開くことが可能だ。僕とソフィーはあの猫を連れて異世界へ戻るよ。君はどうする?」
肝試しは思わぬ成果があった。
学校の七不思議の鏡に樹の力を合わせれば、異世界への扉が開くことが分かったのだ。
樹はソフィーたちを連れて異世界に戻るつもりだった。
念のため、英司はどうするか、聞いてみる。
「俺は、この世界に残るよ」
英司は複雑な表情で答えた。
「俺達は今まで、胡散臭い神様に言われるまま、たいして理由もなく、おだてられて勇者をやっていた。俺達自身は何の力もない子供なのに良い気になって。この間の薔薇の魔王との戦いで思い知ったよ。俺達は勇者でも何でもなかったんだ」
「英司……」
「ちょうど良かったんだと思うよ。そろそろ夢から覚める時だ」
その答えを聞いて、樹は少し寂しく感じた。
英司は現実を受け入れて異世界の勇者という立場を捨てようとしている。
「君は」
「ん?」
「君はもう一度、異世界へ行きたいと思わないのか」
未練はないのか、と問うと、英司は苦笑いした。
「普通の生活が一番大事だよ、俺は」
それが英司の答えなら、樹にはどうすることもできない。
密かな落胆を表に出さないように気を付けながら、話題を変える。
「ところで詩乃さんを説得できたのか」
「あー、自分で猫さんを帰しに行きたいの、一点張りでな。いざとなったら詩乃から猫をひっぺがしてお前に渡すよ。ったく、異世界に行きたいだなんて頭がおかしいぜ」
彼は皮肉っぽい物言いでそう答えると、樹に向かって肩をすくめてみせた。
目標の喫茶店はパフェが美味しいと人気の店だ。一度来てみたいと思っていた。
店の前で待っていた樹は、着替えるのが面倒だったのか学生服のままだった。
「結菜、目的はスペシャル苺パフェか?」
「そうよ。ソフィーちゃんの面倒みたお礼、してくれるよね」
「仕方ないな……」
結菜の狙い通り、支払いは樹が持ってくれるようだ。
「ソフィーちゃん、今日は沢山食べようね!」
「いいんですかぁ?!」
「君達、ちょっとは遠慮しようよ」
三人は並んで洒落た喫茶店に入った。
喫茶店の店員は、日本人離れしたソフィーの金髪碧眼に白い肌を見てびっくりしたようだが、教育が行き届いているらしく騒いだりはしなかった。
メニューを見てそれぞれ注文をする。
結菜は、季節のフルーツ山盛りパフェ。
ソフィーは、特大マンゴーパフェ。
樹は、ショートケーキと紅茶のセットだ。
「しっかり食べておけよ、ソフィー。もうすぐ僕らは異世界に戻るんだから」
注文が終わった後、樹が言った台詞に、結菜は驚いた。
「異世界に戻る? どうやって?」
「方法を見つけたんだ。それを使って、僕とソフィーとアウルは、異世界に戻る」
結菜たちは、いつも天空神からの召喚で異世界転移していた。
だから他の方法と言われても、どんな方法か皆目見当が付かない。
「ソフィーとフクロウさんはともかく、樹くんまで……どうして?」
異世界の住民であるソフィーとアウルが、元いた世界に戻りたい理由は理解できる。
しかし、地球人の樹まで異世界へ行く理由が分からない。
「平たく言うと僕は半分、異世界の住人なんだよ。前に世界樹の精霊だと自己紹介したろ。あの世界の世界樹が、僕の本体なんだ。僕の運命は異世界と共にある」
「嘘……」
改めて説明され、結菜は勇者である自分たちと、精霊である樹は違うのだと気付く。
「君たちが天空神ラフテルの勇者をやるなら、僕は一緒には行けないんだ。天空神は僕の敵かもしれないから」
「……」
「だから、僕たちだけで異世界に行く」
どう返事したものか分からず、言葉を失っている結菜の前に、注文したパフェが運ばれてくる。
ソフィーの前にも、花弁を模して厚切りになったマンゴーが盛られたパフェが置かれた。
「うわあ、すごい!」
「どれどれ」
樹は平然とした顔でフォークを伸ばし、ソフィーの前から一切れマンゴーをさらった。
「……うまいな」
「ひどいですぅ!」
堂々とつまみ食いされてソフィーが涙目になる。
樹はふっと笑い「君のものは僕のもの」と言って、またフォークでマンゴーをうばった。
そのまま自分の口に入れると思いきや、涙目のソフィーの前に差し出す。
「はい」
「……ふああ! おいしい……」
ソフィーは素直に口を開き、樹のフォークからマンゴーを食べる。
隣で見ていた結菜は真っ赤になった。
これでは恋人同士の「あーん」そのものではないか。
樹はともかく地球の文化を知らないソフィーは自覚がないようだ。
次々と差し出されるマンゴーを受け取って満足そうにしている。
頬杖をついた樹は楽しそうな様子だ。
「馬鹿っぷる……」
「何か言ったか、結菜」
「いいえ」
結菜は胸やけするような光景から目をそらし、自分のパフェを食べることにした。
しばらく三人は食事に集中して無言になる。
やがて食後にコーヒーを飲んで一息付いた結菜に、樹は言った。
「もし、君たちが自分の意思で異世界に行きたくなったら、そうできるように、方法を伝えておくよ」
「これは」
樹がそっと白い便せんを取り出し、結菜に渡す。
「その時が来たら使ってくれ。僕は智輝も結菜も、大切な友達だと思ってる」
「当たり前よ……」
便せんを握りしめ、結菜は不意に泣きそうな気持ちになって、あわてて涙をこらえた。
次は、英司と話す番だ。
樹は放課後、学校の帰りに英司と公園で待ち合わせた。
お互い学校の制服を着た格好だ。英司は上着を羽織ってネクタイをしめていたが、樹は上着を荷物に放り込んで、白シャツ姿だった。
二人はボールを投げあう子供達を眺めながら、遊具に腰かける。
「……あの鏡は異世界につながっている。僕の力を使えば、鏡に異世界へのゲートを開くことが可能だ。僕とソフィーはあの猫を連れて異世界へ戻るよ。君はどうする?」
肝試しは思わぬ成果があった。
学校の七不思議の鏡に樹の力を合わせれば、異世界への扉が開くことが分かったのだ。
樹はソフィーたちを連れて異世界に戻るつもりだった。
念のため、英司はどうするか、聞いてみる。
「俺は、この世界に残るよ」
英司は複雑な表情で答えた。
「俺達は今まで、胡散臭い神様に言われるまま、たいして理由もなく、おだてられて勇者をやっていた。俺達自身は何の力もない子供なのに良い気になって。この間の薔薇の魔王との戦いで思い知ったよ。俺達は勇者でも何でもなかったんだ」
「英司……」
「ちょうど良かったんだと思うよ。そろそろ夢から覚める時だ」
その答えを聞いて、樹は少し寂しく感じた。
英司は現実を受け入れて異世界の勇者という立場を捨てようとしている。
「君は」
「ん?」
「君はもう一度、異世界へ行きたいと思わないのか」
未練はないのか、と問うと、英司は苦笑いした。
「普通の生活が一番大事だよ、俺は」
それが英司の答えなら、樹にはどうすることもできない。
密かな落胆を表に出さないように気を付けながら、話題を変える。
「ところで詩乃さんを説得できたのか」
「あー、自分で猫さんを帰しに行きたいの、一点張りでな。いざとなったら詩乃から猫をひっぺがしてお前に渡すよ。ったく、異世界に行きたいだなんて頭がおかしいぜ」
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