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(第三部)第三章 囚われの王子を助けに行く姫

04 友達とキャッチボール

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 樹の計画には、召喚の媒体として植物の種が必要だった。
 この滅びのイメージで作られた世界に生えている植物は、まともな植物ではない。なので、この世界の種は使えない。現実の地球か、世界樹のある異世界から種を持ってくる必要がある。
 滅びのイメージの世界は、サマーキャンプで樹が侵略者メテオラに呑み込まれた場所を中心に作られている。ゆえに現実の地球の旅館が一番、時空が接近している場所だ。それ以外の場所は遠いので、人や物を呼び込むことは媒介なしでは難しい。

『ごめんなー、近藤』
「何が何やら」

 悪夢のような世界に取り込まれたたけしは呆然としている。
 その横でヒヨコのパドが、植物の種を確認している。

『種から何だか甘い匂いがするでしゅ……ぱくり』
『甘い匂い? これ、スイカの種じゃないか。食べるな、パド』

 夏休みの自由研究用のヒマワリや朝顔の種、のはずが何故かスイカの種だった。
 樹は種を食べるヒヨコを急いで止める。

『どうやって召喚の準備をすればいいかな』
『召喚のサークルを描くのでしゅ。イツキ様が召喚しようとしているものの大きさを考えると、侵略者(メテオラ)の塔を囲む形で種をまくのが良いと思うでしゅ!』

 ふむ、と樹は偽サグラダ・ファミリアを見上げた。
 建造物の周りを回りながら、地面に線を付けて、各所に種を植える作業をする必要がある。今は実体のない眼鏡の樹と、黄色い毛玉には不可能な仕事だった。

『……近藤、君に任せた!』
「これって肝試しの続きなのか? 何なんだよもう!」

 武はぶつくさ言いながらも、樹の指示に従って、地面に線を付け始める。姿が見えなくて樹の声だけ聞こえる異常事態にも、諦めて成り行きに任せるつもりのようだ。

「……そういえば各務」
『何?』

 途中で木の枝を拾って作業しながら、武は樹に話し掛けてきた。

「お前って、いつも理由つけて部活動サボってるよな」
『ぎく』

 いきなり思わぬ指摘を受けて、樹はおののいた。

「キャッチボール誘っても意外と断るし」
『き、気のせいだよ』
「結構、皆でわいわいやるの、苦手?」

 矢継ぎ早に突っ込まれる。
 こんなに距離の近い話をしたのは、これが初めてだ。
 今まで樹と武はあまり親しく接してこなかった。

『……苦手、かも』

 何でこういう話になっているのだろうと思いながら、樹は敗北を認めた。けっして同級生の中で独りを貫いている訳ではなく、気さくに皆と付き合っているつもりだ。だが、異世界のことを気軽に誰にも話せないことが、樹と同世代の子供たちの間で見えない壁になっていた。

「そっか。お前にも苦手なものがあるんだな」

 樹の答えに、武は嬉しそうに笑った。

「俺と友達になろうぜ、各務」
『……もう、友達のつもりだったけど』

 恥ずかしくなって、樹は眼鏡の中でもだえた。
 キャンプをきっかけに樹と親しくなりたかった、だから勇気を出してサマーキャンプに誘ったのだと言って、武は笑った。
 樹たちは雑談しながら歩いた。
 偽サグラダ・ファミリアの外側を一周するのは時間が掛かる。それでも樹たちは順調に作業をしながら、半周を突破していた。
 準備は後少しだ。
 その時、偽サグラダ・ファミリアの外壁で小規模な爆発が起こった。

「あれは……」

 塔の壁が吹き飛んで、内部から少女が吐き出される。
 死の精霊と共に偽サグラダ・ファミリアを攻略に向かった朱里だった。
 彼女は塔から落ちそうになっている。

『危ない!』

 樹は慌てた。
 空中に放り出された少女の身体に、鎖が巻き付く。
 鎖は柄の長い鎌の尻から伸びていた。鎌は空中で使い手なしに勝手に動いたかと思うと、刃を塔の外壁に打ち付ける。鎖を命綱にして、朱里は辛うじて墜落を免れたようだ。

『……近藤、ヒヨコと僕を、あそこへ放り投げて!』
「えっ」
『イツキ様、ましゃか』

 武は目を白黒させる。
 ヒヨコは動転して小さな羽をバタバタさせた。

「あそこって、あの塔の爆発起こったところへか? 無茶だよ、どれだけ距離があると思ってるんだ」
『僕の力を一時的に貸すから大丈夫! 後は近藤の、野球で鍛えたピッチングを見せてくれ』

 樹が言うと、武は両手で自分の頬をパンと叩いて、気合いを入れた。

「よーし。やったろうじゃないか!」

 やけくそ気味に叫ぶと、眼鏡をしっかり持ったヒヨコを握りしめ、武は野球のフォームをなぞって投球の姿勢を取った。

「行っけーーっ!」
『ひょああああああっ』

 武はヒヨコを思い切りぶん投げる。
 パドの悲鳴が空にこだました。

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