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(第三部)第三章 囚われの王子を助けに行く姫

02 眼鏡の精霊?

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 樹はヒヨコのフリーズが解けるのを待った。

『……か、考えてみればその通りでしゅ。なんで僕は気付かなかったでしゅか』

 鳥頭だから?
 口には出さない。さすがにヒヨコの小さな心が傷付きそうだ。
 ヒヨコを味方に付けるべく、樹は代わりに別のことを言った。

「だいたいメテオラに従って不死鳥フェニックスになっても、最高位の精霊である僕を裏切ったら、精霊界のつま弾き者になっちゃうよ?」
『ぎく』
「普通に僕を助けて、お礼に不死鳥フェニックスにしてもらった方が、他の霊鳥にも自慢できてメリットが多いと思うけどなー」
『……』

 ヒヨコの姿の霊鳥、パドは激しく冷や汗を流した。
 樹はヒヨコを握っている手が濡れるので、そろそろ覚悟を決めて乾いて欲しいと思った。

『……もちろん、僕は世界樹の精霊さまの味方でしゅ! 決まってるじゃないですか!』

 やけくそ気味にパドが叫んだので、樹は安心して手を離した。
 慈愛に満ちた微笑みをヒヨコに向ける。

「そうだよね。君は裏切ってないと信じてたよ」
『うう……』

 こうして樹は小さな味方を手にいれた。
 ヒヨコを味方にした樹は、いつまでも夢の世界にいられないと気持ちを切り替える。
 
「さてと。じゃあここから逃げ出そうか」
『まったまたー。イツキ様、侵略者メテオラから逃げ出せるアテがあるんでしゅか?』
「あるよ」

 確かに人間の樹の身体は、偽サグラダ・ファミリアの内部の壁に固定されてしまっている。精霊の力で一気に世界樹の元に飛ぼうとしても、侵略者メテオラによって、この世界は閉ざされていて不可能だ。
 だが、他にも手段はある。

「パド君、手伝ってくれるよね?」
『僕に出来ることなら何でもしましゅ!』

 だが、この直後に樹の計画を聞いたパドは、協力すると約束したことを後悔するのだった。



 パドは、一旦、樹の精神世界から出た。
 上司である侵略者メテオラに命じられた仕事の進捗を報告する。

『イツキは地球なんかどうでも良いけど、友達や家族は異世界に連れて行きたいと言ってるでしゅ!』
『ほう……』
『地球人の友達を連れてきて、説得するでしゅ!』

 偽サグラダ・ファミリアの外へ行って、樹の友達や家族を連れてくると、パドは申し出た。
 滅びのイメージで出来た世界から逃げ出す事はできないのだが、現実の地球から人間を引き込む事はできる。よく、怪談で気が付いたら悪夢の世界に迷い込んでいたシチュエーションの、誘拐側から見た発言だ。
 侵略者メテオラは、OKなのかNGなのか分からない相づちを打つ。
 不気味な仮面は、冷や汗を流すヒヨコの全身を観察した。

『ところでそれは何だ?』

 パドは樹の掛けていた眼鏡を、まんまるい胴体に装着していた。
 小さなヒヨコからは眼鏡が若干はみでている。
 
『ファッションでしゅ!』
『……』
『……格好いいでしょ?』

 どうにか誤魔化せないか、死にものぐるいでヒヨコは惚けた。
 道化師の仮面は重々しく同意した。

『……イカす眼鏡だな』
『でしゅよね?!』

 勢いで乗り切ろうとパドは思った。
 
『そういう訳で、行ってきますでしゅー!』

 有無を言わさず、窓から外に出る。
 ミッドナイトブルーの空へダイビングした。
 侵略者メテオラは追ってこない。
 偽サグラダ・ファミリアの外壁を滑り降りながら、パドは上手くいったと胸を撫で下ろす。

『……ぷはっ。何イカす眼鏡って。噴き出すかと思ったよ』

 お腹に掛けた眼鏡から声がした。
 くすくす笑う少年の気配がする。
 パドは『笑いごとじゃないでしゅよー』と抗議した。

『僕は真剣だったでしゅよ!』
『いや、どう見てもコントでしょ、あれ』

 答える樹の声。
 眼鏡の端がキラリンと光る。どうやら面白がっているようだ。

『……それにしてもイツキ様、眼鏡にとり憑くなんて、すごいでしゅね』
『すごい? 精霊の基本技だよ、これ』

 樹は何でもないように答える。
 精神生命体である精霊は、肉体が無いゆえの独特なスキルを持っている。ひとつは半実体化。動物や人間の姿をとって、普通の人間に見えるように実体を持つこと。もうひとつは、魂だけの状態で移動するスキルである。

『でもイツキ様は、人間でしゅよね?』
『異世界では精霊として生まれて、アウルや他の精霊たちに精霊の基本的な生活の仕方は教わったよ。精霊武器は教わらなかったけど』

 普通の人間の感覚では、魂だけの移動なんて理解できない。
 霊鳥であるパドもヒヨコの肉体を持っているので、その辺の感覚は人間に近かった。手や足が無い状態でどう移動するのか、分からないので想像するしかない。
 だが樹は慣れているという。

『世界樹に帰れたら話は簡単なんだけどな。最悪、人間の身体を取り戻せなくても、精霊として生きていける』
『良かったでしゅね、イツキ様の願いが叶うじゃないでしゅか』

 ヒヨコは楽観的に鳴く。
 樹は、異世界でずっといたいと流れ星に願っていた。

『冗談じゃない、人間の身体を捨てるってことだよ? しかも今回は、ほっといたら地球が滅んじゃうし』

 返事をしながら樹は、ふと思った。
 今さらだが、子供のまま死んだら異世界で精霊になれるのだ。
 もしすごく切羽詰まった状況で地球 に未練が無いのであれば、 死んで精霊になるというのはアリな選択肢だった。現実には両親や弟と不仲ではないので、選ばないのだが。

『何より自分の身体を捕られてると思うと気持ち悪いよ……あのインチキ仮面、僕の力が戻ったら今に見てろよ……!』
『あわわわ』

 世界樹の精霊は大層ご立腹のようだ。
 間に挟まれたパドは、無事に不死鳥フェニックスに進化できるか以前に、身の危険が半端ないことにようやく気付きつつあった。

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