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魔術と天使様
第44話 あっという間に解決ですか
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ネーヴェは、すぐシエロに事態を説明しようとした。
しかし、狼と巨大鶏の方が黙っていなかった。
『天使、ネーヴェを我に渡す』
グリンカムビは、シエロに向かって威嚇する。
宥めようとしたネーヴェだが、シエロに視線で制される。
「鳴刻の神鳥よ。俺とネーヴェは、あくまで親しい人間同士の関係だ。あなたとネーヴェの契約を邪魔するつもりはない」
『……』
「ネーヴェを俺に預けてくれないか」
落ち着いた声でシエロがそう伝えると、グリンカムビは考え込むようだった。
『……我、ネーヴェ、落とした』
「故意ではないと、ネーヴェも分かっている」
『仕方ない。天使、後は任せる』
その言葉を最後に、巨大鶏は金色の光の粒となり、空気に溶けるように消えた。元いた場所に還ったのだろうか。
後に残るのは、狼だけだ。
シエロは、そちらに視線を向ける。
「金枝の森の妖精よ。俺は押し入るつもりはない。お前たちの王に、フォレスタの女王と天使が訪問したいと伝えてくれ」
『……承知した』
狼は後退りすると、森の暗闇に飛び込んで去る。
こんがらがっていた事態が、彼のおかげで、あっという間に解決した。
ネーヴェは状況に付いていくのでやっとだ。
「シエロ様は、あの大きなニワトリが何か知っているのですか」
思い付くまま、疑問を口にする。
シエロはグリンカムビの正体を知っているような口振りだった。
質問すると、頭上で苦笑する気配。再会してから気恥ずかしくて、目を合わせないネーヴェを面白がっているようだ。
「ああ、あれは上層界にある世界樹の天辺で時を告げる神鳥だ。お前とどういう縁があるか知らないが、とんでもないものを召喚してくれる」
俺より高位のものを喚んでどうする、制御できないぞとぼやかれ、ネーヴェは「そ、そうなのですね」と冷や汗をかく。
鶏なのに、神……普通に大きな鶏だと思っていた。
「あの、先にアイーダとルイ殿下を探して頂けますか」
冷静な思考が戻ってくると、途中でいなくなった二人が気になる。
「やはり……狙いは妖精の鏡か」
シエロは眉をしかめる。
彼は、おおよその事情が分かっているらしい。
「妖精の森の中は、歩いていくしかない。下に降りるぞ」
ネーヴェを抱えたまま、シエロはふわっと森の中に着地する。
地面に降ろされたネーヴェは、自分で歩こうとして、足首に痛みを感じ、つんのめった。
「っ!」
「やはり、怪我をしているではないか」
シエロは心配そうだ。
どうやらグリンカムビの背中で踏ん張っていた時に、足をひねったらしい。興奮が醒めてくると、体のあちこちが鈍く傷んだ。
「川辺に行って休憩しよう」
「ですが」
「妖精の鏡よりも、お前の方が大事だ。鏡は、別に奪われても国が滅びる訳ではないだろう」
そう言われてみると、その通りだった。
シエロは戸惑うネーヴェの膝裏をすくい上げ、再び抱き上げる。
そして、川のせせらぎを目指し、森の中を歩き始めた。
しかし、狼と巨大鶏の方が黙っていなかった。
『天使、ネーヴェを我に渡す』
グリンカムビは、シエロに向かって威嚇する。
宥めようとしたネーヴェだが、シエロに視線で制される。
「鳴刻の神鳥よ。俺とネーヴェは、あくまで親しい人間同士の関係だ。あなたとネーヴェの契約を邪魔するつもりはない」
『……』
「ネーヴェを俺に預けてくれないか」
落ち着いた声でシエロがそう伝えると、グリンカムビは考え込むようだった。
『……我、ネーヴェ、落とした』
「故意ではないと、ネーヴェも分かっている」
『仕方ない。天使、後は任せる』
その言葉を最後に、巨大鶏は金色の光の粒となり、空気に溶けるように消えた。元いた場所に還ったのだろうか。
後に残るのは、狼だけだ。
シエロは、そちらに視線を向ける。
「金枝の森の妖精よ。俺は押し入るつもりはない。お前たちの王に、フォレスタの女王と天使が訪問したいと伝えてくれ」
『……承知した』
狼は後退りすると、森の暗闇に飛び込んで去る。
こんがらがっていた事態が、彼のおかげで、あっという間に解決した。
ネーヴェは状況に付いていくのでやっとだ。
「シエロ様は、あの大きなニワトリが何か知っているのですか」
思い付くまま、疑問を口にする。
シエロはグリンカムビの正体を知っているような口振りだった。
質問すると、頭上で苦笑する気配。再会してから気恥ずかしくて、目を合わせないネーヴェを面白がっているようだ。
「ああ、あれは上層界にある世界樹の天辺で時を告げる神鳥だ。お前とどういう縁があるか知らないが、とんでもないものを召喚してくれる」
俺より高位のものを喚んでどうする、制御できないぞとぼやかれ、ネーヴェは「そ、そうなのですね」と冷や汗をかく。
鶏なのに、神……普通に大きな鶏だと思っていた。
「あの、先にアイーダとルイ殿下を探して頂けますか」
冷静な思考が戻ってくると、途中でいなくなった二人が気になる。
「やはり……狙いは妖精の鏡か」
シエロは眉をしかめる。
彼は、おおよその事情が分かっているらしい。
「妖精の森の中は、歩いていくしかない。下に降りるぞ」
ネーヴェを抱えたまま、シエロはふわっと森の中に着地する。
地面に降ろされたネーヴェは、自分で歩こうとして、足首に痛みを感じ、つんのめった。
「っ!」
「やはり、怪我をしているではないか」
シエロは心配そうだ。
どうやらグリンカムビの背中で踏ん張っていた時に、足をひねったらしい。興奮が醒めてくると、体のあちこちが鈍く傷んだ。
「川辺に行って休憩しよう」
「ですが」
「妖精の鏡よりも、お前の方が大事だ。鏡は、別に奪われても国が滅びる訳ではないだろう」
そう言われてみると、その通りだった。
シエロは戸惑うネーヴェの膝裏をすくい上げ、再び抱き上げる。
そして、川のせせらぎを目指し、森の中を歩き始めた。
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