上 下
139 / 169
魔術と天使様

第44話 あっという間に解決ですか

しおりを挟む
 ネーヴェは、すぐシエロに事態を説明しようとした。
 しかし、狼と巨大鶏の方が黙っていなかった。

『天使、ネーヴェを我に渡す』
 
 グリンカムビは、シエロに向かって威嚇する。
 宥めようとしたネーヴェだが、シエロに視線で制される。

「鳴刻の神鳥よ。俺とネーヴェは、あくまで親しい人間同士の関係だ。あなたとネーヴェの契約を邪魔するつもりはない」
『……』
「ネーヴェを俺に預けてくれないか」
 
 落ち着いた声でシエロがそう伝えると、グリンカムビは考え込むようだった。

『……我、ネーヴェ、落とした』
「故意ではないと、ネーヴェも分かっている」
『仕方ない。天使、後は任せる』
 
 その言葉を最後に、巨大鶏は金色の光の粒となり、空気に溶けるように消えた。元いた場所に還ったのだろうか。
 後に残るのは、狼だけだ。
 シエロは、そちらに視線を向ける。

「金枝の森の妖精よ。俺は押し入るつもりはない。お前たちの王に、フォレスタの女王と天使が訪問したいと伝えてくれ」
『……承知した』
 
 狼は後退りすると、森の暗闇に飛び込んで去る。
 こんがらがっていた事態が、彼のおかげで、あっという間に解決した。
 ネーヴェは状況に付いていくのでやっとだ。

「シエロ様は、あの大きなニワトリが何か知っているのですか」
 
 思い付くまま、疑問を口にする。
 シエロはグリンカムビの正体を知っているような口振りだった。
 質問すると、頭上で苦笑する気配。再会してから気恥ずかしくて、目を合わせないネーヴェを面白がっているようだ。

「ああ、あれは上層界にある世界樹の天辺で時を告げる神鳥だ。お前とどういう縁があるか知らないが、とんでもないものを召喚してくれる」
 
 俺より高位のものを喚んでどうする、制御できないぞとぼやかれ、ネーヴェは「そ、そうなのですね」と冷や汗をかく。
 鶏なのに、神……普通に大きな鶏だと思っていた。

「あの、先にアイーダとルイ殿下を探して頂けますか」
 
 冷静な思考が戻ってくると、途中でいなくなった二人が気になる。

「やはり……狙いは妖精の鏡か」

 シエロは眉をしかめる。
 彼は、おおよその事情が分かっているらしい。
 
「妖精の森の中は、歩いていくしかない。下に降りるぞ」

 ネーヴェを抱えたまま、シエロはふわっと森の中に着地する。
 地面に降ろされたネーヴェは、自分で歩こうとして、足首に痛みを感じ、つんのめった。

「っ!」
「やはり、怪我をしているではないか」

 シエロは心配そうだ。
 どうやらグリンカムビの背中で踏ん張っていた時に、足をひねったらしい。興奮が醒めてくると、体のあちこちが鈍く傷んだ。

「川辺に行って休憩しよう」
「ですが」
「妖精の鏡よりも、お前の方が大事だ。鏡は、別に奪われても国が滅びる訳ではないだろう」
 
 そう言われてみると、その通りだった。
 シエロは戸惑うネーヴェの膝裏をすくい上げ、再び抱き上げる。
 そして、川のせせらぎを目指し、森の中を歩き始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】「王太子だった俺がドキドキする理由」

まほりろ
恋愛
眉目秀麗で文武両道の王太子は美しい平民の少女と恋に落ち、身分の差を乗り越えて結婚し幸せに暮らしました…………では終わらない物語。 ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...