122 / 169
魔術と天使様
第28話 アウラの天使
しおりを挟む
その天使は、白一色で、眼だけが紅かった。
人間で言えば、歳の頃は十代後半に見える。透明感のある肌に、長い銀髪。灰銀の簡易甲冑を身に付け、鎧の下からは白いスカートがひるがえる。
剣を振るうさまは、北の国の伝説に聞く戦乙女のようだ。
「俺から離れろ」
シエロは、ネーヴェを柔らかく自分から突き放し、距離を取る。
そして、向かってくる剣先を回避した。
「避けるな!」
「無茶を言う」
女性の天使の剣先を、シエロはひょいひょいと容易くかわしている。
ネーヴェは急いで室内に戻り、置物になっていた剣を手に取った。
走って外に出る。
「シエロ様!」
鞘に入ったままの剣を、放り投げる。
シエロは女性の天使から視線を外さないまま、器用に片手で剣を掴み取ると、流れるような動作で抜剣した。
キン、と澄んだ音が鳴る。
一瞬の出来事だった。
シエロは相手の剣を自分の剣で絡めとり、ひねって弾き飛ばす。
女性の手元から離れた剣は、弧を描いて飛び、近くの地面に突き刺さった。
「何のつもりだ、セラフィ」
気だるい様子で剣を下段に構え、シエロが女性に尋ねる。
セラフィと呼ばれた天使は、悔しそうな表情で、空っぽになった手をさすった。
「……天使は人間を傷付けられないから、人間相手では剣の修行ができない。だが、天使同士なら戦えるだろう」
「意味が分からん」
はぁ、と重い溜め息を吐くシエロ。
状況はよく分からないが、困ったちゃんの天使なのね、とネーヴェは色々察した。
「なぜアウラから、はるばる飛んできて、俺に突っかかる。適当に帝国の天使にでも喧嘩を売れば良いだろう」
「帝国の天使は、剣で戦ってくれない……」
「当たり前だ」
「お前は戦いに秀でた天使だと有名だから」
セラフィは甘えるように唇を尖らせる。
その親しげな様子に、ざらりと不快感が沸き上がった。
二人だけの会話を眺めていたくない。
シエロが剣を鞘に収めたので、ネーヴェはそろそろ話しかけても良さそうだと判断する。
「シエロ様、お知り合いですか?」
聞きながら、ゆっくり歩み寄る。
シエロはそっけなく答えた。
「知り合いというか……そいつは、アウラの守護天使だ」
「まあ」
交換留学の話をしている相手の国の天使様だった。
ネーヴェは、本音はともかく、仲良くなった方が良い相手だと判断する。
「遠方から、よくいらっしゃいました。フォレスタにようこそ、アウラの天使様」
「……ああ」
セラフィという名前らしい天使は、ネーヴェの存在に今気付いた様子で頷く。
「いったい、どうして我が国に? 個人的に、シエロ様を訪ねていらっしゃったのですか」
「すっかり本題を忘れていた!」
ネーヴェの質問に、セラフィは我にかえったような表情になる。
「ルイを知らないか? アウラを出てから、行方が掴めないんだ!」
「ルイ……もしかして、アウラの第二王子の?」
アウラの第二王子が行方不明?
思わぬ展開に、ネーヴェはシエロと顔を見合わせた。
人間で言えば、歳の頃は十代後半に見える。透明感のある肌に、長い銀髪。灰銀の簡易甲冑を身に付け、鎧の下からは白いスカートがひるがえる。
剣を振るうさまは、北の国の伝説に聞く戦乙女のようだ。
「俺から離れろ」
シエロは、ネーヴェを柔らかく自分から突き放し、距離を取る。
そして、向かってくる剣先を回避した。
「避けるな!」
「無茶を言う」
女性の天使の剣先を、シエロはひょいひょいと容易くかわしている。
ネーヴェは急いで室内に戻り、置物になっていた剣を手に取った。
走って外に出る。
「シエロ様!」
鞘に入ったままの剣を、放り投げる。
シエロは女性の天使から視線を外さないまま、器用に片手で剣を掴み取ると、流れるような動作で抜剣した。
キン、と澄んだ音が鳴る。
一瞬の出来事だった。
シエロは相手の剣を自分の剣で絡めとり、ひねって弾き飛ばす。
女性の手元から離れた剣は、弧を描いて飛び、近くの地面に突き刺さった。
「何のつもりだ、セラフィ」
気だるい様子で剣を下段に構え、シエロが女性に尋ねる。
セラフィと呼ばれた天使は、悔しそうな表情で、空っぽになった手をさすった。
「……天使は人間を傷付けられないから、人間相手では剣の修行ができない。だが、天使同士なら戦えるだろう」
「意味が分からん」
はぁ、と重い溜め息を吐くシエロ。
状況はよく分からないが、困ったちゃんの天使なのね、とネーヴェは色々察した。
「なぜアウラから、はるばる飛んできて、俺に突っかかる。適当に帝国の天使にでも喧嘩を売れば良いだろう」
「帝国の天使は、剣で戦ってくれない……」
「当たり前だ」
「お前は戦いに秀でた天使だと有名だから」
セラフィは甘えるように唇を尖らせる。
その親しげな様子に、ざらりと不快感が沸き上がった。
二人だけの会話を眺めていたくない。
シエロが剣を鞘に収めたので、ネーヴェはそろそろ話しかけても良さそうだと判断する。
「シエロ様、お知り合いですか?」
聞きながら、ゆっくり歩み寄る。
シエロはそっけなく答えた。
「知り合いというか……そいつは、アウラの守護天使だ」
「まあ」
交換留学の話をしている相手の国の天使様だった。
ネーヴェは、本音はともかく、仲良くなった方が良い相手だと判断する。
「遠方から、よくいらっしゃいました。フォレスタにようこそ、アウラの天使様」
「……ああ」
セラフィという名前らしい天使は、ネーヴェの存在に今気付いた様子で頷く。
「いったい、どうして我が国に? 個人的に、シエロ様を訪ねていらっしゃったのですか」
「すっかり本題を忘れていた!」
ネーヴェの質問に、セラフィは我にかえったような表情になる。
「ルイを知らないか? アウラを出てから、行方が掴めないんだ!」
「ルイ……もしかして、アウラの第二王子の?」
アウラの第二王子が行方不明?
思わぬ展開に、ネーヴェはシエロと顔を見合わせた。
13
お気に入りに追加
289
あなたにおすすめの小説
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
【完結】王太子は、鎖国したいようです。【再録】
仲村 嘉高
恋愛
側妃を正妃にしたい……そんな理由で離婚を自身の結婚記念の儀で宣言した王太子。
成人の儀は終えているので、もう子供の戯言では済まされません。
「たかが辺境伯の娘のくせに、今まで王太子妃として贅沢してきたんだ、充分だろう」
あぁ、陛下が頭を抱えております。
可哀想に……次代の王は、鎖国したいようですわね。
※R15は、ざまぁ?用の保険です。
※なろうに移行した作品ですが、自作の中では緩いざまぁ作品をR18指定され、非公開措置とされました(笑)
それに伴い、全作品引き下げる事にしたので、こちらに移行します。
昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。
※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる