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魔術と天使様
第22話 私も魔術が使えるようになるのかしら
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帝国は、多数の小国が統合されて出来た大きな国だが、フォレスタをはじめとする幾つかの周辺国は、その統合を免れて独立を保っている。
魔術の国アウラは、帝国とは海を隔てた島国であるがゆえに侵略されにくいという地の理と、アウラ独自の魔術によって独立を維持していた。
アウラは山の上にあるフォレスタからは遠い国で、今まで親交があまり無かった。
しかし、ネーヴェが進めている国策の一つに、魔術の知識を国内に普及させることがある。魔術の国アウラとは帝国から独立を保っている国同士で、先方もフォレスタに好意的だ。交換留学の話は、前向きに検討するという返事だった。
そしてつい先日、アウラの王子が使者として来ることが決定した。ネーヴェは魔術に詳しい友人のアイーダを呼んで、どうもてなすか相談しようとしていた。
「今回、アウラの第二王子ルイ様がいらっしゃるのは、ラニエリ様の働きかけによるものですわ」
と、サボル侯爵の娘アイーダは、不満そうに言った。
彼女は、黒一色のゴシックドレスに身を包んだ風変わりな女性だ。高位貴族らしく優雅で気品のある所作だが、どこか危険で妖しい雰囲気がある。
「ラニエリ様の働きかけ?」
ネーヴェは、アフタヌーンティーに用意されたマリトッツォをつまみながら、アイーダに聞き返す。マリトッツォは、丸い小さな柔らかいパンに、たっぷりの生クリームとオレンジピールを挟んだふわふわの菓子だ。
アイーダも菓子をつまみながら答える。
「もともと私の提案なので、私からアウラに書簡を送っていたのですが、結局、決め手はラニエリ様だったのですわ。なんでも、ラニエリ様が帝国に留学中に、お忍びのアウラの第二王子様と仲良くなっていたらしく」
「まあ」
あの陰気な男に、外国の王子と親しくなる社交性があるとは驚きだ。もっとも、ラニエリはああ見えて仕事が出来る男だと、ネーヴェも評価している。
「悔しいですわ。私の方が魔術に詳しいのに……」
アイーダには魔女という二つ名がある。
本人も魔術にこだわりがあるのか、アイーダは先を越されたと不満そうだ。
「ねえ、アイーダ。そもそも魔術とは何でしょう。アウラの王子を迎えるのに、私も詳しいことが知りたいわ」
ネーヴェは本題に入った。
フォレスタは、魔術が普及していない国だ。魔術については物語や噂で聞くくらいで、魔術を使って生活している者は少ない。魔物などの災いは天使様が遠ざけて下さっているので、魔術を使わなければならない事件もない。
お隣の帝国も、天使に守られている国柄、積極的に魔術を使わない。むしろ、魔術は悪魔の力を借りる技だと忌避している。
「魔術とは、妖精や魔物などの人外のものと契約し、その力を借りて奇跡を行使する技ですわ」
アイーダは、初心者のネーヴェのために、丁寧に説明してくれる。
「人外のものと契約すれば、誰でも魔術が使えるようになるのかしら。魔術は一般人でも会得できる?」
特別な血筋でないと魔術師になれないなら、国内で魔術を学ぶ者を増やすことは難しくなる。
ネーヴェは、フォレスタ人の魔術師を育てたかった。
「もちろん。人外と仲良くなれば誰でも魔術を使えますわよ。ある意味、陛下も魔術師と言えるのですわ。天使様と契約しているのですから」
「え?」
にこにこ笑顔で言ったアイーダに、ネーヴェは呆気に取られた。
「……俺を女子会に呼んだのは、その話をするためか」
それまで黙っていたシエロが、口を挟む。
アイーダが「天使様とお話したく」と言うので、今日の会談は、ネーヴェとアイーダとシエロの三人で行っている。
先日、元王子のエミリオに会ったが、シエロが呼べば来てくれると聞いて驚いていた。以前の彼は、本当に王城に来ることはなかったらしい。
閑話休題。
魔術の話だからか天使様相手にも遠慮せず、アイーダは身を乗り出して「そうですわ!」と畳み掛けた。
「広義で言えば、天使様も人外! つまり、契約により」
「霊的な知覚が解放されると言うのだろう。説明しなくても良い。知っている」
シエロは渋面で、ちょっと引き気味に答えた。
「だいたい人間の魔術は、結果を重視し過ぎて繊細さに欠ける。俺は魔術に関しては、他の天使と同じ意見だ」
「でも陛下は戴冠前に、魔術の知識を一般人に啓蒙した方が良いと仰いましたわ」
言った。王になると決めた時に、虫害の犯人だった魔術師対策としてどうかと口にしたのだ。あの時シエロは反対しなかった。
「国は天使のものではなく、人間のものだ。俺は、お前たちが決めたことを支援する……ところで、ネーヴェ。お前は魔術を学んでみたいのか?」
シエロはアイーダの指摘を受け流し、ネーヴェに視線を移す。
魔術か。興味が無いと言ったら嘘になる。
「私も、魔術師になれるのですか?」
「理論的には。ただ、天使は妖精や魔物とは毛色が違うから、俺と契約したお前に何ができるか分からない。気になるなら、アウラの王子から聞いてみれば良い。あそこは天使が守護する国の中で唯一、魔術を使う王族がいる国だ」
長生きの天使だからか、シエロは魔術に詳しいようだった。
アウラの第二王子、ルイはどんな人物なのだろうか。
魔術の国アウラは、帝国とは海を隔てた島国であるがゆえに侵略されにくいという地の理と、アウラ独自の魔術によって独立を維持していた。
アウラは山の上にあるフォレスタからは遠い国で、今まで親交があまり無かった。
しかし、ネーヴェが進めている国策の一つに、魔術の知識を国内に普及させることがある。魔術の国アウラとは帝国から独立を保っている国同士で、先方もフォレスタに好意的だ。交換留学の話は、前向きに検討するという返事だった。
そしてつい先日、アウラの王子が使者として来ることが決定した。ネーヴェは魔術に詳しい友人のアイーダを呼んで、どうもてなすか相談しようとしていた。
「今回、アウラの第二王子ルイ様がいらっしゃるのは、ラニエリ様の働きかけによるものですわ」
と、サボル侯爵の娘アイーダは、不満そうに言った。
彼女は、黒一色のゴシックドレスに身を包んだ風変わりな女性だ。高位貴族らしく優雅で気品のある所作だが、どこか危険で妖しい雰囲気がある。
「ラニエリ様の働きかけ?」
ネーヴェは、アフタヌーンティーに用意されたマリトッツォをつまみながら、アイーダに聞き返す。マリトッツォは、丸い小さな柔らかいパンに、たっぷりの生クリームとオレンジピールを挟んだふわふわの菓子だ。
アイーダも菓子をつまみながら答える。
「もともと私の提案なので、私からアウラに書簡を送っていたのですが、結局、決め手はラニエリ様だったのですわ。なんでも、ラニエリ様が帝国に留学中に、お忍びのアウラの第二王子様と仲良くなっていたらしく」
「まあ」
あの陰気な男に、外国の王子と親しくなる社交性があるとは驚きだ。もっとも、ラニエリはああ見えて仕事が出来る男だと、ネーヴェも評価している。
「悔しいですわ。私の方が魔術に詳しいのに……」
アイーダには魔女という二つ名がある。
本人も魔術にこだわりがあるのか、アイーダは先を越されたと不満そうだ。
「ねえ、アイーダ。そもそも魔術とは何でしょう。アウラの王子を迎えるのに、私も詳しいことが知りたいわ」
ネーヴェは本題に入った。
フォレスタは、魔術が普及していない国だ。魔術については物語や噂で聞くくらいで、魔術を使って生活している者は少ない。魔物などの災いは天使様が遠ざけて下さっているので、魔術を使わなければならない事件もない。
お隣の帝国も、天使に守られている国柄、積極的に魔術を使わない。むしろ、魔術は悪魔の力を借りる技だと忌避している。
「魔術とは、妖精や魔物などの人外のものと契約し、その力を借りて奇跡を行使する技ですわ」
アイーダは、初心者のネーヴェのために、丁寧に説明してくれる。
「人外のものと契約すれば、誰でも魔術が使えるようになるのかしら。魔術は一般人でも会得できる?」
特別な血筋でないと魔術師になれないなら、国内で魔術を学ぶ者を増やすことは難しくなる。
ネーヴェは、フォレスタ人の魔術師を育てたかった。
「もちろん。人外と仲良くなれば誰でも魔術を使えますわよ。ある意味、陛下も魔術師と言えるのですわ。天使様と契約しているのですから」
「え?」
にこにこ笑顔で言ったアイーダに、ネーヴェは呆気に取られた。
「……俺を女子会に呼んだのは、その話をするためか」
それまで黙っていたシエロが、口を挟む。
アイーダが「天使様とお話したく」と言うので、今日の会談は、ネーヴェとアイーダとシエロの三人で行っている。
先日、元王子のエミリオに会ったが、シエロが呼べば来てくれると聞いて驚いていた。以前の彼は、本当に王城に来ることはなかったらしい。
閑話休題。
魔術の話だからか天使様相手にも遠慮せず、アイーダは身を乗り出して「そうですわ!」と畳み掛けた。
「広義で言えば、天使様も人外! つまり、契約により」
「霊的な知覚が解放されると言うのだろう。説明しなくても良い。知っている」
シエロは渋面で、ちょっと引き気味に答えた。
「だいたい人間の魔術は、結果を重視し過ぎて繊細さに欠ける。俺は魔術に関しては、他の天使と同じ意見だ」
「でも陛下は戴冠前に、魔術の知識を一般人に啓蒙した方が良いと仰いましたわ」
言った。王になると決めた時に、虫害の犯人だった魔術師対策としてどうかと口にしたのだ。あの時シエロは反対しなかった。
「国は天使のものではなく、人間のものだ。俺は、お前たちが決めたことを支援する……ところで、ネーヴェ。お前は魔術を学んでみたいのか?」
シエロはアイーダの指摘を受け流し、ネーヴェに視線を移す。
魔術か。興味が無いと言ったら嘘になる。
「私も、魔術師になれるのですか?」
「理論的には。ただ、天使は妖精や魔物とは毛色が違うから、俺と契約したお前に何ができるか分からない。気になるなら、アウラの王子から聞いてみれば良い。あそこは天使が守護する国の中で唯一、魔術を使う王族がいる国だ」
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