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【第二幕開始】天使様の嫉妬
第7話 知らないことばかり
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ここからどうすれば?! と内心、混乱しているネーヴェをよそに、シエロの方は、くっくっと愉快そうに喉で笑う。
「お前の叔母は面白い方だな。俺は若くないんだが」
「そうでしたね……」
目の前の男は、外見だけ見れば二十代の若者のようにも見えるが、その佇まいは洗練されており、泰然としている。
その正体は、ここフォレスタを守護する偉大な天使様だ。
彼が建国の伝説の天使なら、二百年以上生きている計算になる。
ネーヴェは、ティーカップをもてあそぶ男の顔を見つめた。
彼について知らないことが山のようにあり、何から質問すればいいか、分からないくらいだ。
「いろいろ、聞きたいことがあるのですが」
「なんでも聞くと良い。お前相手に、代償は求めない」
シエロは微笑したが、ネーヴェはなんだかそれが悪魔の笑みのようにも見えた。天使様には謎が多すぎる。
「ではまず、単刀直入に年齢について。おいくつですか?」
「フォレスタの王国歴に十八年足した年齢だな。二百年ちょっとか? 先ほどは若くないと言ったが、不老長寿の天使としては若者の部類に入るな」
さらっと言ったが、年の差がありすぎるではないか。
しかも、天使と人間で、種族も違う。
ネーヴェは分かっていたつもりだが、自分の恋愛は普通と違うと、改めて実感した。
「それだけ人生経験がおありなら、女性とデートした経験もあるのでは?」
「いや…デート……好意を抱いている娘と、ただ仲を深めるためだけに街中を散策するようなことは、したことがないな」
シエロはふっと遠い眼差しになり、自分の過去を振り返ったようだった。
「フォレスタ建国時は忙しくて、初代の王が死んだ後も動乱で気を抜く暇がなかった。国内が安定した後は、田舎を転々としていた。あまり人間と関わっていない時期もあったな。女性と親しくなるなど、考えもしない二百年だった」
仕事熱心な男性は、恋愛に興味を持たない者もいると、女性の友人から聞いたことがあるが、シエロはそういうタイプらしい。
「だから、デートはお前が初めてだ」
最後にそう締めくくって甘く微笑まれると、その美貌を見慣れているネーヴェも心臓に悪い。どきどきするので、まっすぐ見ないで欲しい。
「そ、そうですか。それはようございました」
「もう少し質疑応答を続けたいところだが、お前は明日に備えて寝た方が良いだろう。俺も、そろそろ帰るとしよう」
かたり、とカップをソーサーに置き、シエロは腰を上げる。
それを見て、ネーヴェは急に引き留めたい気持ちになった。しかし、どうやって引き留めれば良いだろう。
腰を上げたシエロは、急にもじもじするネーヴェを面白そうに見る。
「どうした? 寝台の上で続きをしたいのか?」
「下品なことを仰らないで下さい!」
ネーヴェが膨れっ面で文句を言うと、シエロは明るい笑い声を上げた。
「どこに行きたいか、考えておけ。続きは、また明日以降、暇な時に礼拝堂で話せば良い」
シエロは表の身分、大司教として週に数日、城内の礼拝堂に勤務している。仕事は主に、城内の悩み相談だ。天翼教会は、悩める子羊たちが駆け込む場所である。
「おやすみ」
軽やかな足取りで、ベランダから外に出る。
バサリと翼が羽ばたく音がして、すぐに人の気配は去った。
風に揺れるカーテンを見つめ、ネーヴェは自分の胸に手をあてる。
天使様の来訪は、いつも心臓に悪い。
「お前の叔母は面白い方だな。俺は若くないんだが」
「そうでしたね……」
目の前の男は、外見だけ見れば二十代の若者のようにも見えるが、その佇まいは洗練されており、泰然としている。
その正体は、ここフォレスタを守護する偉大な天使様だ。
彼が建国の伝説の天使なら、二百年以上生きている計算になる。
ネーヴェは、ティーカップをもてあそぶ男の顔を見つめた。
彼について知らないことが山のようにあり、何から質問すればいいか、分からないくらいだ。
「いろいろ、聞きたいことがあるのですが」
「なんでも聞くと良い。お前相手に、代償は求めない」
シエロは微笑したが、ネーヴェはなんだかそれが悪魔の笑みのようにも見えた。天使様には謎が多すぎる。
「ではまず、単刀直入に年齢について。おいくつですか?」
「フォレスタの王国歴に十八年足した年齢だな。二百年ちょっとか? 先ほどは若くないと言ったが、不老長寿の天使としては若者の部類に入るな」
さらっと言ったが、年の差がありすぎるではないか。
しかも、天使と人間で、種族も違う。
ネーヴェは分かっていたつもりだが、自分の恋愛は普通と違うと、改めて実感した。
「それだけ人生経験がおありなら、女性とデートした経験もあるのでは?」
「いや…デート……好意を抱いている娘と、ただ仲を深めるためだけに街中を散策するようなことは、したことがないな」
シエロはふっと遠い眼差しになり、自分の過去を振り返ったようだった。
「フォレスタ建国時は忙しくて、初代の王が死んだ後も動乱で気を抜く暇がなかった。国内が安定した後は、田舎を転々としていた。あまり人間と関わっていない時期もあったな。女性と親しくなるなど、考えもしない二百年だった」
仕事熱心な男性は、恋愛に興味を持たない者もいると、女性の友人から聞いたことがあるが、シエロはそういうタイプらしい。
「だから、デートはお前が初めてだ」
最後にそう締めくくって甘く微笑まれると、その美貌を見慣れているネーヴェも心臓に悪い。どきどきするので、まっすぐ見ないで欲しい。
「そ、そうですか。それはようございました」
「もう少し質疑応答を続けたいところだが、お前は明日に備えて寝た方が良いだろう。俺も、そろそろ帰るとしよう」
かたり、とカップをソーサーに置き、シエロは腰を上げる。
それを見て、ネーヴェは急に引き留めたい気持ちになった。しかし、どうやって引き留めれば良いだろう。
腰を上げたシエロは、急にもじもじするネーヴェを面白そうに見る。
「どうした? 寝台の上で続きをしたいのか?」
「下品なことを仰らないで下さい!」
ネーヴェが膨れっ面で文句を言うと、シエロは明るい笑い声を上げた。
「どこに行きたいか、考えておけ。続きは、また明日以降、暇な時に礼拝堂で話せば良い」
シエロは表の身分、大司教として週に数日、城内の礼拝堂に勤務している。仕事は主に、城内の悩み相談だ。天翼教会は、悩める子羊たちが駆け込む場所である。
「おやすみ」
軽やかな足取りで、ベランダから外に出る。
バサリと翼が羽ばたく音がして、すぐに人の気配は去った。
風に揺れるカーテンを見つめ、ネーヴェは自分の胸に手をあてる。
天使様の来訪は、いつも心臓に悪い。
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