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【第二幕開始】天使様の嫉妬
第3話 悪気はないのです
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ロスモンド伯爵には、野望がある。新国王が若い娘であったので、結婚すれば言うことを聞かせられると、女たらしの次男ノルベルトを近衛騎士に送り込んだ。
同じことを考える貴族は多いので、実はネーヴェは多方面から狙われていたりする。
「ネーヴェ様、何か私に手伝えることはありませんか?」
「では、踏み台を支えてくれるかしら」
ネーヴェは近衛騎士ノルベルトに踏み台を持って来させた。
城の外壁に面する窓は、外敵の狙撃に使うためガラスが入っていないが、王族の居住区にある明り取りの窓は、細工をほどこした美しいガラスの円盤が嵌められている。
天窓は高い位置にあるため、ネーヴェは踏み台に登って窓ガラスを拭こうとした。
「無理しないでね……」
角灯《カンテラ》をかざして、ディアマンテは心配そうだ。
初回なので彼女も同行している。ノルベルトが大丈夫そうなら、ディアマンテは次回以降は同行しなくなる予定だった。
夜の王城は、巡回の兵士が見回るほかは、人がおらず静まりかえっている。
「……」
ノルベルトは、よこしまなことを考えていた。
侍女頭の視線がネーヴェの手元に集中している間に、踏み台をずらすのだ。そうするとネーヴェは降りてくる時に、ノルベルトを踏み台にせざるをえなくなる。
逞《たくま》しいノルベルトが頼りがいのあるところを見せて受けとめれば、株爆上がり、恋に落ちてくれるに違いない。
おりしも、ネーヴェは隣の窓を拭くため、壁の突起を伝って移動しようとしていた。
ノルベルトは、さりげなく踏み台をずらす。
そして、ネーヴェが布巾を取り替えるため、下に降りようとして踏み外すタイミングを待った。
「あら?」
「ネーヴェ様、どうぞ、私の胸に飛び降りて下さい!」
両腕を広げて立つ男の姿が見えたネーヴェは、さくっと無視して、えいやっと床に飛び降りた。
野山を駆け回っていた昔とった杵柄《きねづか》で、ひらりと優雅に着地する。子供の頃は、木に登って高いところから飛び降りて遊んでいた。
「……」
見事に空振ったノルベルトは、硬直した。
「ノルベルト、踏み台を支えて欲しいと、お願いしたのですが……職務怠慢ではありませんか」
ネーヴェはそんな彼に、絶対零度の視線を浴びせた。
氷薔薇姫の二つ名で呼ばれる通り、ネーヴェは整った顔が冷たい印象を与える美女だ。無表情で見つめられると、大の男も圧倒される。
ノルベルトは視線を受けて硬直した。その視線が、おろおろしている侍女頭に移動して安堵するや否や、厳しい評価が降ってくる。
「ディアマンテ、別の騎士に変えましょう」
「そんなっ!!」
たった一度のミスでクビになったノルベルトは、ショックを隠しきれない。
だがネーヴェは前言撤回するつもりはなかった。
顔面が良かろうが、仕事ができない男に用は無い。
同じことを考える貴族は多いので、実はネーヴェは多方面から狙われていたりする。
「ネーヴェ様、何か私に手伝えることはありませんか?」
「では、踏み台を支えてくれるかしら」
ネーヴェは近衛騎士ノルベルトに踏み台を持って来させた。
城の外壁に面する窓は、外敵の狙撃に使うためガラスが入っていないが、王族の居住区にある明り取りの窓は、細工をほどこした美しいガラスの円盤が嵌められている。
天窓は高い位置にあるため、ネーヴェは踏み台に登って窓ガラスを拭こうとした。
「無理しないでね……」
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初回なので彼女も同行している。ノルベルトが大丈夫そうなら、ディアマンテは次回以降は同行しなくなる予定だった。
夜の王城は、巡回の兵士が見回るほかは、人がおらず静まりかえっている。
「……」
ノルベルトは、よこしまなことを考えていた。
侍女頭の視線がネーヴェの手元に集中している間に、踏み台をずらすのだ。そうするとネーヴェは降りてくる時に、ノルベルトを踏み台にせざるをえなくなる。
逞《たくま》しいノルベルトが頼りがいのあるところを見せて受けとめれば、株爆上がり、恋に落ちてくれるに違いない。
おりしも、ネーヴェは隣の窓を拭くため、壁の突起を伝って移動しようとしていた。
ノルベルトは、さりげなく踏み台をずらす。
そして、ネーヴェが布巾を取り替えるため、下に降りようとして踏み外すタイミングを待った。
「あら?」
「ネーヴェ様、どうぞ、私の胸に飛び降りて下さい!」
両腕を広げて立つ男の姿が見えたネーヴェは、さくっと無視して、えいやっと床に飛び降りた。
野山を駆け回っていた昔とった杵柄《きねづか》で、ひらりと優雅に着地する。子供の頃は、木に登って高いところから飛び降りて遊んでいた。
「……」
見事に空振ったノルベルトは、硬直した。
「ノルベルト、踏み台を支えて欲しいと、お願いしたのですが……職務怠慢ではありませんか」
ネーヴェはそんな彼に、絶対零度の視線を浴びせた。
氷薔薇姫の二つ名で呼ばれる通り、ネーヴェは整った顔が冷たい印象を与える美女だ。無表情で見つめられると、大の男も圧倒される。
ノルベルトは視線を受けて硬直した。その視線が、おろおろしている侍女頭に移動して安堵するや否や、厳しい評価が降ってくる。
「ディアマンテ、別の騎士に変えましょう」
「そんなっ!!」
たった一度のミスでクビになったノルベルトは、ショックを隠しきれない。
だがネーヴェは前言撤回するつもりはなかった。
顔面が良かろうが、仕事ができない男に用は無い。
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