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【第二幕開始】天使様の嫉妬
第2話 城中を制覇してやりますわ
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ネーヴェの戴冠式は、初春に行われた。
フォレスタは山の上にある高原の国で、冬は積雪のため通行止めになりやすい。外国から貴賓を招くにあたり、雪の季節は避ける必要があった。冬の間、ネーヴェは現国王と共に、収穫が少ない地域、主にフェラーラ侯が治める南部のフォローを行った。税の引き下げや物資の支援をすると共に、復興への道筋を付けるため、貴族の有力者や専門業者を呼び寄せてさまざまな施策を検討した。
春の訪れと共に女王に就任したネーヴェは、これでやっと城を思い通りに出来ると意気込んだ。
「掃除する範囲も広げられますわね!」
もとは由緒正しい伯爵令嬢、氷薔薇姫という華麗な二つ名を持つ、新しい女王の個人的な趣味―――それは、家事全般、特に掃除であった。
およそ貴族に似つかわしくない実用的な趣味である。伯爵といっても極貧な家に生まれ育ったネーヴェは、氷細工の薔薇のような女性らしい見た目と裏腹に、雑草のような根性と趣味を持ち合わせていた。
「あらあら~。王室の家事妖精が、城のあちこちに出没するようになったと、噂が広まってしまいますわ」
侍女頭のディアマンテが、おっとりした口調で呟いた。
ディアマンテは白髪混じりの上品な老婦人で、実はネーヴェの叔母である。娘が暫定国王になったのに驚愕したクラヴィーア伯爵が、せめて身内を側に付けてやろうと急遽送り込んだのだ。
自分の部屋だけ、ちょっといじらせて欲しい。そのようなネーヴェの願いを聞いたディアマンテは、ストレス解消になるのならと許可した。しかし、夜中にネーヴェが、こそこそ掃除するようになった結果、彼女の部屋付近だけ異様に綺麗になり「夜中に家事手伝いをする妖精さんがいる」と噂になってしまった。
ここフォレスタは、妖精の伝承が残る地域でもある。妖精は人前に姿を現すことは滅多にないが、いざという時にこっそり助けてくれる……そのような伝承が語り継がれている。
こうして、新女王の密かな趣味は、妖精さんのお手伝いとして、微笑ましく城中に受け入れられていたのである。
それを良いことに、戴冠したネーヴェは掃除の範囲を城中に広げようとしていた。
「ネーヴェちゃ…様、いくら城の中でも、夜中に一人で出歩くのは不用心ですよ。近衛騎士を伴に付けない?」
ディアマンテの指摘はもっともだった。趣味を公にしたくないネーヴェだったが、周囲の理解を得ないと続けられないことは想像できた。
こうして選ばれたのは、ロスモンド伯爵の次男だという若い騎士ノルベルトである。
騎士は、ネーヴェの前に跪《ひざまづ》いて誓った。
「けっして口外いたしませんゆえ、御身を守らせて下さい」
気障《きざ》な台詞も嫌みにならない、黒髪のイケメンだった。貴族出身だけあって身なりに気を使っており、薔薇《ばら》でも差し出しそうな雰囲気がある。
普通の女性なら頬を染めるところだが、ネーヴェは綺麗にスルーした。
「ありがとうございます。掃除を見ているだけで良いので、よろしくお願いしますね」
「はっ」
夜中に男同伴でこそこそ城内をうろつくなど、付き合っている彼氏が聞いたら気を悪くすると普通は想像できる。しかし、ネーヴェは掃除のことしか頭になかった。そして、ディアマンテは可愛い姪っ子に付き合っている男がいることを知らなかったので、わざわざ指摘したりしなかったのである。
フォレスタは山の上にある高原の国で、冬は積雪のため通行止めになりやすい。外国から貴賓を招くにあたり、雪の季節は避ける必要があった。冬の間、ネーヴェは現国王と共に、収穫が少ない地域、主にフェラーラ侯が治める南部のフォローを行った。税の引き下げや物資の支援をすると共に、復興への道筋を付けるため、貴族の有力者や専門業者を呼び寄せてさまざまな施策を検討した。
春の訪れと共に女王に就任したネーヴェは、これでやっと城を思い通りに出来ると意気込んだ。
「掃除する範囲も広げられますわね!」
もとは由緒正しい伯爵令嬢、氷薔薇姫という華麗な二つ名を持つ、新しい女王の個人的な趣味―――それは、家事全般、特に掃除であった。
およそ貴族に似つかわしくない実用的な趣味である。伯爵といっても極貧な家に生まれ育ったネーヴェは、氷細工の薔薇のような女性らしい見た目と裏腹に、雑草のような根性と趣味を持ち合わせていた。
「あらあら~。王室の家事妖精が、城のあちこちに出没するようになったと、噂が広まってしまいますわ」
侍女頭のディアマンテが、おっとりした口調で呟いた。
ディアマンテは白髪混じりの上品な老婦人で、実はネーヴェの叔母である。娘が暫定国王になったのに驚愕したクラヴィーア伯爵が、せめて身内を側に付けてやろうと急遽送り込んだのだ。
自分の部屋だけ、ちょっといじらせて欲しい。そのようなネーヴェの願いを聞いたディアマンテは、ストレス解消になるのならと許可した。しかし、夜中にネーヴェが、こそこそ掃除するようになった結果、彼女の部屋付近だけ異様に綺麗になり「夜中に家事手伝いをする妖精さんがいる」と噂になってしまった。
ここフォレスタは、妖精の伝承が残る地域でもある。妖精は人前に姿を現すことは滅多にないが、いざという時にこっそり助けてくれる……そのような伝承が語り継がれている。
こうして、新女王の密かな趣味は、妖精さんのお手伝いとして、微笑ましく城中に受け入れられていたのである。
それを良いことに、戴冠したネーヴェは掃除の範囲を城中に広げようとしていた。
「ネーヴェちゃ…様、いくら城の中でも、夜中に一人で出歩くのは不用心ですよ。近衛騎士を伴に付けない?」
ディアマンテの指摘はもっともだった。趣味を公にしたくないネーヴェだったが、周囲の理解を得ないと続けられないことは想像できた。
こうして選ばれたのは、ロスモンド伯爵の次男だという若い騎士ノルベルトである。
騎士は、ネーヴェの前に跪《ひざまづ》いて誓った。
「けっして口外いたしませんゆえ、御身を守らせて下さい」
気障《きざ》な台詞も嫌みにならない、黒髪のイケメンだった。貴族出身だけあって身なりに気を使っており、薔薇《ばら》でも差し出しそうな雰囲気がある。
普通の女性なら頬を染めるところだが、ネーヴェは綺麗にスルーした。
「ありがとうございます。掃除を見ているだけで良いので、よろしくお願いしますね」
「はっ」
夜中に男同伴でこそこそ城内をうろつくなど、付き合っている彼氏が聞いたら気を悪くすると普通は想像できる。しかし、ネーヴェは掃除のことしか頭になかった。そして、ディアマンテは可愛い姪っ子に付き合っている男がいることを知らなかったので、わざわざ指摘したりしなかったのである。
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