実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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私の天使様

第74話 それはきっと「愛している」と同じ意味

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 彼が堂々と夜這いだと宣言したので、ネーヴェは呆気にとられた。
 
「天使様がそんなことをしてよろしいんですの?」
「世の中では、天使は清廉潔白というイメージで通っているらしいな。まあ、事情があって天使側がそう振舞っている面もあるが。俺に関しては例外だ。必要以上に上品に振舞うつもりはない」
 
 シエロは軽やかに笑って言う。
 いや、天使様の清らかなイメージはぜひ死守してほしいものだ。主にネーヴェの貞操のために。
 恋心を自覚したネーヴェだが、デレるつもりはない。
 この男は、自分の野望のために、ネーヴェを思い切り利用したのだ。

「翼が生えているとはいえ、殿方を部屋に入れる訳にはいきませんわ」
「怒っているか? 無理やり王位につけたことを」
 
 つんと顔を背けると、シエロが追うように近づいてくる。
 心臓が高鳴るので、そんな接近しないでほしい。

「シエロ様は政治が分かっているようですし、適当な王を置いて裏から統治しても良かったのではありませんこと?」
 
 我ながら可愛くない女だ。
 文句を垂れると、シエロは意外なことを言った。

「そう出来る事と、そうしたいかは別だ。ネーヴェ、俺を助けてほしい」
「!」
「フォレスタは小国とはいえ、一人きりで永遠に支えていくことは不可能だ。俺ひとりでは、どうしようもないこともある」
 
 哀願するような低い声を聞いていると、ほだされそうになる。
 この男はずるい。弱みの使い方を心得ている。

「お前も分かっていると思うが、天使も王も位が高いだけで、ろくでもない役回りだ。さっさと引退するに限る。きっと、お前と一緒なら俺も心安く天使を辞められる」
「天使は辞められるものですの?」
「方法はある。俺を人の世界に戻してくれ、ネーヴェ」
 
 謎めいたことを言いながら、こちらを見下ろすシエロの深海色の瞳には、不安の影が揺れている。まるで答えに怯える子供のように。
 その縋《すが》るような眼差しに、きゅんと胸が高鳴る。
 仕方ないと、ネーヴェは思った。
 腕をあげ、男の頬に手を伸ばす。指で触れて温もりを伝え、安心させてあげたいと無意識に思った。
 
「分かりました。シエロ様のお願いを叶える約束ですからね」
 
 石鹸の材料を求めて帝国を旅する間に、ネーヴェは何度も欲しいものはないか、シエロに聞いていた。結局ごまかされてしまっていたけれど、彼の欲しいものがなんであっても、ネーヴェは借りを返すために努力するつもりだ。
 王になり、引退するために頑張る。
 引退後は、シエロと田舎で畑を耕すのだ。よく分からないけれど、シエロが言っているのは、おそらくそういう意味だと思う。おおむね、この解釈は間違っていないはず。

「これからよろしくお願いします。私の天使様」
 
 微笑むと、シエロは頬に伸ばされたネーヴェの手をつかみ、目を細める。 
 そして、安心したような、嬉しそうな様子で目じりをゆるめ、甘い響きでささやいた。

「ああ、そうだな……俺はお前のものだ。ネーヴェ」
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