実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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恋心の自覚

第62話 これから大詰めですわよ

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 会談後、サフワノの街で休んでいたネーヴェの元に、ある報告が届けられた。
 魔物の虫が群れを為して、とある古城に集結しているという。
 知らせてくれたのはアイーダだ。彼女は王都から早馬に乗り、ネーヴェの元に駆けつけてきた。

「場所は、マントヴァ公の領地にある人里から離れた古城ですわ。どうやら、魔物だけでなく人も集められているようでして」
「人も?」
「女子供がさらわれて、古城に集められているそうですわ。妻を探して森に入った猟師が、虫の魔物を目撃したのです」
 
 きな臭い話だと、ネーヴェは眉をひそめる。

「その浚われた人々は、無事なのかしら……?」
「魔術師が儀式のにえにするつもりかもしれませんね」
 
 魔女の異名を持つアイーダがそう言うと、確証が無いのに本当にそうなりそうな気がする。
 ネーヴェは頬に二本指をあてながら思案した。

「調査隊が派遣されるかどうかマントヴァ公の心ひとつとは、何とも都合が良すぎる話ですわね。マントヴァ公が魔術師の支援をしていたのかもしれません。ラニエリ様の動きとは矛盾していますが」
 
 ラニエリは陰気そうな男だが、話した感じ仕事一筋で薄情なだけのように見えた。大それた野望を抱いて行動するタイプには思えない。
 だが、今ここで悩んだところで結論は出まい。

「お姉さま、調査に参りますか?」
「ええ」
 
 くだんの古城を偵察に行こうと、立ち上がる。
 ネーヴェはアイーダと、カルメラを含めた少数の護衛を連れ、サフワノの街を出ようとした。
 
「……おい、お前ら、どこへ行く!」
 
 そこへ、白馬に乗ったグラートが追い付いてくる。白馬というと優雅な印象だが、白髪のグラートに合わせてのことだろう。案外に美的センスがあると、ネーヴェは全く関係ない部分で感心した。

「ちょっと、そこまでお花摘みですわ」
「花摘みってか、虫狩りだろう。俺を護衛に連れていけ」
 
 グラートの提案に、ネーヴェは思わず馬を止めて振り返る。

「グラート様が、護衛? グラート様の護衛を貸して頂くのではなく?」
「部下たちは、商品運ばせてんだから、暇なのは俺だけだろ」
 
 商談は成立し、取り急ぎプーリアン州に冬を越すための支援物資を送る手配をしていたところだった。
 ネーヴェが見返すと、グラートは「面白そうだから、一枚噛ませろよ」と笑う。

「ではご助力いただきましょう。でも、私に同行するのであれば、私の指示に従って下さいね」
「はははっ、俺に指示とは、豪気な姫だ。爺様が気に入るのも納得だぜ」
 
 先頭で青毛の馬を進ませるネーヴェに、カルメラが馬を並べて耳打ちする。

「ねえ、ちょっと姫。自然に合流してるけど、凄いメンツが揃ってない? 北のサボル侯爵の娘さんと、南の当代フェラーラ侯爵……どゆこと?」
「気のせいですわ」
「……」
「気のせいですわ」
 
 大事なので、ネーヴェは二度言った。
 確かに錚々たる顔ぶれだが、伝説の天使様ほどではない。あれより恐れ多いものは、存在しないはずなのだ。
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