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旅館経営、そして実りの秋へ
第27話 氷薔薇姫のファン
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リグリス州のパルニーヤ地方は、州侯サボルの愛娘アイーダが領主として治めている場所だ。サボル侯爵は、オリーブ豊かなこの地を娘に与え、実地で統治を学ばせていた。
そのアイーダは、ネーヴェにとって王都の学園で共に学んだ同級生である。
「ネーヴェお姉さま! お会いしたかったわぁ!」
波打つ黒髪に琥珀色の瞳をしたアイーダは、まるで狼のように危険な雰囲気を持つ女性だ。髪に合わせた漆黒のゴシックドレスに身を包み、不思議な化粧を施している。
彼女は化粧が得意だが、普通の令嬢と違い、自分よりも他人を綺麗にすることが好きという変わった趣味を持っていた。
見た目どおりの変わり者ではあるが、ネーヴェは彼女の気質を好ましく思っており、それは向こうも同じようだった。
突然、領主の屋敷を訪れたネーヴェ達をすぐさま応接室に通し、アイーダ自ら対応に現れたのだ。
「ああ、お肌が荒れておりますわ。どこか日差しの強い場所に行かれましたか? いけません、お姉さまの白雪のように繊細なお肌が壊れてしまいます。この化粧水を使って下さい!」
「ありがとう、アイーダ。でも良いの? 私は辺境に追放された身よ」
「ふっ、要らぬ心配ですわ。我がサボル家は、フォレスタ王族に忠誠を誓っていませんもの」
アイーダは含み笑いをする。
サボル家は独立自治主義の強い貴族で、王族からの命令も平気で無視をすることで有名だった。
「でも、けじめは必要です。迷惑なら、そう言って頂いて結構ですからね」
友人の負担になってはいけないと、ネーヴェは念押しする。
しかし、アイーダは優雅に黒い扇子を広げてみせた。
「お姉さま、どうかそう言わず命令なさって。氷薔薇姫は、クールで優雅で気高い女王のようであるべきですわ!」
彼女いわく、ネーヴェは推しであるらしい。
あるいは、熱心なファンなのだそうだ。
ネーヴェはふぅっと溜め息を吐いた。王族への反逆に問われるかもしれないのに協力してくれる友人に、せめてサービスしてしかるべきだろう。
「では。アイーダ、氷薔薇姫が命じます。旅館経営に適した空き物件を、可及的速やかに紹介なさい」
「はい、喜んで!!!」
後ろのカルメラとシエロが引いているが、ネーヴェは頑張って友人の望む通りに振る舞った。
そのアイーダは、ネーヴェにとって王都の学園で共に学んだ同級生である。
「ネーヴェお姉さま! お会いしたかったわぁ!」
波打つ黒髪に琥珀色の瞳をしたアイーダは、まるで狼のように危険な雰囲気を持つ女性だ。髪に合わせた漆黒のゴシックドレスに身を包み、不思議な化粧を施している。
彼女は化粧が得意だが、普通の令嬢と違い、自分よりも他人を綺麗にすることが好きという変わった趣味を持っていた。
見た目どおりの変わり者ではあるが、ネーヴェは彼女の気質を好ましく思っており、それは向こうも同じようだった。
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「ああ、お肌が荒れておりますわ。どこか日差しの強い場所に行かれましたか? いけません、お姉さまの白雪のように繊細なお肌が壊れてしまいます。この化粧水を使って下さい!」
「ありがとう、アイーダ。でも良いの? 私は辺境に追放された身よ」
「ふっ、要らぬ心配ですわ。我がサボル家は、フォレスタ王族に忠誠を誓っていませんもの」
アイーダは含み笑いをする。
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「でも、けじめは必要です。迷惑なら、そう言って頂いて結構ですからね」
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しかし、アイーダは優雅に黒い扇子を広げてみせた。
「お姉さま、どうかそう言わず命令なさって。氷薔薇姫は、クールで優雅で気高い女王のようであるべきですわ!」
彼女いわく、ネーヴェは推しであるらしい。
あるいは、熱心なファンなのだそうだ。
ネーヴェはふぅっと溜め息を吐いた。王族への反逆に問われるかもしれないのに協力してくれる友人に、せめてサービスしてしかるべきだろう。
「では。アイーダ、氷薔薇姫が命じます。旅館経営に適した空き物件を、可及的速やかに紹介なさい」
「はい、喜んで!!!」
後ろのカルメラとシエロが引いているが、ネーヴェは頑張って友人の望む通りに振る舞った。
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