4 / 278
氷薔薇姫の追放
第3話 運命に翻弄されて
しおりを挟む
夜会の醜聞は、国王の耳にも届いたらしい。
ネーヴェの振る舞いに問題があったとして、王家から婚約破棄する通達があった。もともと位が高いとは言えない、伯爵令嬢である。父である伯爵にも、どうにもできない。氷薔薇姫ネーヴェは、その美しさからエミリオに見初められた。よって、エミリオの心一つで行き先が変わってしまうのだ。
婚約破棄と共に、辺境の地で謹慎を命じられた。
「お前もミヤビの苦しみを味わえ。令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
エミリオの幼稚な意趣返しで、ネーヴェは西の辺境モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ここに住めと、荒れ放題の幽霊屋敷。
何代か前の領主の家らしいが、使われなくなって久しい。
敷地は広いが庭は雑草が生い茂り、煉瓦の壁は崩れ、蜘蛛があちこち巣を張っている。屋敷の二階の窓から、ボロボロのカーテンが物悲しくなびいているのが見えた。
「どどど、どうしましょうネーヴェ様! こんなところに住めないですよ! ゆ、幽霊も出るって話ですよ」
侍従のシェーマンが怯えている。
ネーヴェの世話のため付けられたのは、頼りない若い男シェーマン一人きりだった。実家から付いてきた者は、エミリオの手回しで遠ざけられたため、見ず知らずのシェーマンしか供はいない。
氷薔薇姫を貶めるためだけに急遽用意された侍従、シェーマンは気の弱い男だった。
幽霊の噂があると恐怖するシェーマンに、ネーヴェは淡々と言う。
「幽霊などというものは、この世に存在しません。いるとしたら、それは只の魔物です」
「魔物は十分脅威ですよぅ」
「雨風がしのげる壁があるだけ、十分でしょう」
これでまた、氷薔薇姫は心まで氷だと言われるのだろう。
ネーヴェは幽霊屋敷を自ら掃除することにした。
生家であるクラヴィーナ家は貧乏だったため、出来ることは自分でするのが普通だった。幼い頃、美貌を活かして夜の街に身売りするか、真剣に考えた事がある。エミリオ王子に一目惚れされたことで、花街の女王になるという夢は潰えたが。
「水を汲んできて、シェーマン」
「本気ですかっ、姫様~~っ」
大袈裟に嘆く侍従は、それでも要望どおり水を運んでくれた。
まず、住む部屋を整えるところから始めよう。
ネーヴェの振る舞いに問題があったとして、王家から婚約破棄する通達があった。もともと位が高いとは言えない、伯爵令嬢である。父である伯爵にも、どうにもできない。氷薔薇姫ネーヴェは、その美しさからエミリオに見初められた。よって、エミリオの心一つで行き先が変わってしまうのだ。
婚約破棄と共に、辺境の地で謹慎を命じられた。
「お前もミヤビの苦しみを味わえ。令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
エミリオの幼稚な意趣返しで、ネーヴェは西の辺境モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ここに住めと、荒れ放題の幽霊屋敷。
何代か前の領主の家らしいが、使われなくなって久しい。
敷地は広いが庭は雑草が生い茂り、煉瓦の壁は崩れ、蜘蛛があちこち巣を張っている。屋敷の二階の窓から、ボロボロのカーテンが物悲しくなびいているのが見えた。
「どどど、どうしましょうネーヴェ様! こんなところに住めないですよ! ゆ、幽霊も出るって話ですよ」
侍従のシェーマンが怯えている。
ネーヴェの世話のため付けられたのは、頼りない若い男シェーマン一人きりだった。実家から付いてきた者は、エミリオの手回しで遠ざけられたため、見ず知らずのシェーマンしか供はいない。
氷薔薇姫を貶めるためだけに急遽用意された侍従、シェーマンは気の弱い男だった。
幽霊の噂があると恐怖するシェーマンに、ネーヴェは淡々と言う。
「幽霊などというものは、この世に存在しません。いるとしたら、それは只の魔物です」
「魔物は十分脅威ですよぅ」
「雨風がしのげる壁があるだけ、十分でしょう」
これでまた、氷薔薇姫は心まで氷だと言われるのだろう。
ネーヴェは幽霊屋敷を自ら掃除することにした。
生家であるクラヴィーナ家は貧乏だったため、出来ることは自分でするのが普通だった。幼い頃、美貌を活かして夜の街に身売りするか、真剣に考えた事がある。エミリオ王子に一目惚れされたことで、花街の女王になるという夢は潰えたが。
「水を汲んできて、シェーマン」
「本気ですかっ、姫様~~っ」
大袈裟に嘆く侍従は、それでも要望どおり水を運んでくれた。
まず、住む部屋を整えるところから始めよう。
1,618
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる