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氷薔薇姫の追放

第1話 聖女召喚

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 九代目国王エルネストは、決断を迫られていた。
 この小さな国は、さまざまな困難を乗り越え、ここまで続いてきた。一番困っていたのは、隣国であるオセアーノ帝国の侵略であるが、天使の翼の守護のおかげで、今までその侵略を撥ね退けてきた。
 しかし、今回の困難は、今まで経験したことのない災害である。
 小さな虫の魔物が大繁殖し、農作物を枯らしているのだ。
 その上、枯れかけた農作物を口にした人間も、衰弱して死に至る。手を尽くしても止まらぬ災害に、毎日のように民から陳情が上ってくる。

「聖女を召喚すれば、すべて解決するでしょう」
 
 外国からやってきた魔術師は、そう王に進言した。

「聖女とな。それは、いかなる存在か」
「私の祖国で崇拝されている、花の女神プロセルピナの祝福を受けた乙女です。異世界から清い乙女を召喚し、この地の一番尊い男と結婚させることで、女神の祝福を地に根付かせます」
 
 エルネストは、自分は老齢だから乙女などめとれぬと思った。
 息子のエミリオ王子にあてがうしかないが、すでに婚約者がいる。
 いや、そもそも、異国の神をこの地に召喚するのは、いかがなものか。この地には、天使の守護があるというのに。

「天使様は、災害を救ってくださいましたか」
「……」

 魔術師の言葉は甘く誘惑に満ちている。
 国王は悩んだ。魔術師の進言を、絵空事と断ることはできなかった。この頃、国王は頭痛がひどく、魔術師の処方する異国の薬は頭痛を楽にしてくれたからだ。
 
「聖女の召喚をすることは許す。しかし、結婚は当人同士が決めることだ。その神とやらも、乙女が幸せになれないことは喜ばんだろう」
「もちろん、もちろんですとも。聖女はこの地に降り立つだけで、祝福をもたらすことでしょう」
 
 魔術師の言うがままに、聖女召還を支援した。
 国王は頭痛と疲労が酷く、楽になる方法があればわらにでもすがりたい気持ちだったのだ。
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