19 / 29
もう別れよう
しおりを挟む
急にこれまでに感じていたアキとのズレがどんどん思い返され気分が悪くなっていく。考えてみれば最初からおかしかった。病室にアキが来た時からひどく一方的だった。それでも段々とアキの隣が心地良いと感じて、その違和感は感じなくなってた。しかし、感じなくなっていただけだったのだ。常に違和感は隣にあって、俺がそれに蓋をした。
溢れた違和感はもう止められない。
「…………もういい」
「え」
「もう、別れよ」
その言葉を聞いた瞬間、アキの瞳に暗い影が落ちた。それでも構わず俺は続ける。
「浮気するほど俺のことどうでも良かったみたいだし」
「違う。浮気なんてしてない」
「訂正おせーよ」
今更だ。別に這いつくばって許しをこうアキが見たかったわけじゃない。ただすぐに否定して欲しかった。乃亜とは何の関係もないと、一言言ってくれるだけで良かった。
それだけで、俺は、アキの事を信じられたのに。
「そういうわけだから、今後は友達として……」
「いや、だ」
「せっかく仲良くなれたんだから友達になれたらって思ったけど、やっぱ嫌だよな」
こんな状況になってもアキと離れるのが惜しいと感じてしまい、中途半端な提案で濁そうとしたが、アキにすぐ却下されてしまう。よくよく考えれば虫のいい話で嫌がられるのも当然だ。そもそもアキは俺に興味が無くなって浮気をしたのに。
「ごめん、もう会わないから」
俺はそれだけ言うと、テーブルの上に広げっぱなしだった課題を片付け始めた。すぐでもここから逃げ出したい一心で乱暴にカバンに詰め込む。途中、学校に提出するプリントが破れた音がしたが構わず続けた。
「いやだ」
ぼそりとアキが呟く。俺に向けて言ったと言うよりは誰もいない空間に向かって溢す。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……」
段々とアキの激情は膨れ上がって、その分声も大きくなる。こんなに大きな声を出すアキを初めて目の当たりにし、思わず片付ける手が止まる。
「嫌だ、絶対に別れない」
アキは急に俺の手首を掴むと痛いぐらい締め上げた。
「アキ! 痛い!」
「絶対、離さない」
体格は俺の方が良いはずなのに、アキの気迫に押されてか、身体に力が入らず振り解けない。
「アキ! 離せって!」
「嫌だ!」
アキは俺の手首を引っ張り、乱暴にベッドへと押し倒した。パイプで組み立てられた簡素なベッドは男2人分の重みで軋み、鈍い音を立てて揺れた。
背中に衝撃を感じ、痛みに顔を歪ませているといつの間にか俺の両手はアキに片手でまとめ上げられていた。下半身はアキの脚で固定されていて微動だにしない。いくら俺の方が体格が良いとは言え、上背のあるアキにのし掛かられてしまえばもう身動きは取れない。
俺はせめてもの抵抗でアキを睨んだ。
「離せ」
「嫌だ」
嫌だ、としか言わないアキは困ったような苦しそうな顔をしている。
グッと両手に力を入れて手を振り解こうとするが、案の定びくともしない。
「アキ」
「嫌だ」
話し合いすら出来ない空気の中、アキは息を吐いた。どこか自暴自棄な空気を孕みながら呼吸を繰り返す。
「リュージは僕のことが好きだって言ったのに、なんで別れようなんて言うの……」
驚き過ぎて思わず気が抜けた。自分がした事を全部棚に上げて、まるでこの状況を全部俺が引き起こしたかのように言う。
「そんなの、アキが浮気したからだろ!」
あまりにも頭にき過ぎて声を荒げてしまった。
「だからしてない!!!!」
俺以上に荒げた声でアキが叫んだ。
これ以上話してもイタチごっこだと思った。浮気云々よりも、アキを怖いと思ってしまったことの方が堪えた。
アキは興奮しているのか目が血走り、いつもの落ち着きは影も形もない。折角のかっこいい顔も歪んでいて見るに堪えない。
「ッ……」
アキは一瞬、一層顔を歪めると、俺の目を見た。そして、乱暴に俺のシャツの襟ぐりを引っ張った。留めていたボタンが数個飛び散って音を立てて転がっていった。
「は? アキ? 何して──」
確認する間も無く、アキは俺の首に噛み付いてきた。突然の鈍い痛みに身体が強張る。続けざまに噛み付いた箇所を舌でなぞられ、違った感覚が押し寄せる。
「やめ──」
拒否の言葉を発しようとすると、今度は口を塞がれた。口内に侵入してくる違和感に目尻に涙が浮かぶ。
アキは性急に空いている方の手を俺のベルトまで伸ばしてきた。
俺は必死に抑えていた涙が頬を伝うのを感じながら、カチャカチャとベルトが解かれていく音を聞いた。
アキは一旦唇を離すと俺の顔を見た。
不意に、アキの力が弱まるのを感じた。
その一瞬の隙に俺は出来る限りの力でアキの手を振り払い、拘束から逃れると、アキの上半身を思い切り突き飛ばし立ち上がった。無我夢中で自分の荷物を拾い集め、突き飛ばされてから微動だにしないアキを視界に入れないように部屋から飛び出した。
溢れた違和感はもう止められない。
「…………もういい」
「え」
「もう、別れよ」
その言葉を聞いた瞬間、アキの瞳に暗い影が落ちた。それでも構わず俺は続ける。
「浮気するほど俺のことどうでも良かったみたいだし」
「違う。浮気なんてしてない」
「訂正おせーよ」
今更だ。別に這いつくばって許しをこうアキが見たかったわけじゃない。ただすぐに否定して欲しかった。乃亜とは何の関係もないと、一言言ってくれるだけで良かった。
それだけで、俺は、アキの事を信じられたのに。
「そういうわけだから、今後は友達として……」
「いや、だ」
「せっかく仲良くなれたんだから友達になれたらって思ったけど、やっぱ嫌だよな」
こんな状況になってもアキと離れるのが惜しいと感じてしまい、中途半端な提案で濁そうとしたが、アキにすぐ却下されてしまう。よくよく考えれば虫のいい話で嫌がられるのも当然だ。そもそもアキは俺に興味が無くなって浮気をしたのに。
「ごめん、もう会わないから」
俺はそれだけ言うと、テーブルの上に広げっぱなしだった課題を片付け始めた。すぐでもここから逃げ出したい一心で乱暴にカバンに詰め込む。途中、学校に提出するプリントが破れた音がしたが構わず続けた。
「いやだ」
ぼそりとアキが呟く。俺に向けて言ったと言うよりは誰もいない空間に向かって溢す。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……」
段々とアキの激情は膨れ上がって、その分声も大きくなる。こんなに大きな声を出すアキを初めて目の当たりにし、思わず片付ける手が止まる。
「嫌だ、絶対に別れない」
アキは急に俺の手首を掴むと痛いぐらい締め上げた。
「アキ! 痛い!」
「絶対、離さない」
体格は俺の方が良いはずなのに、アキの気迫に押されてか、身体に力が入らず振り解けない。
「アキ! 離せって!」
「嫌だ!」
アキは俺の手首を引っ張り、乱暴にベッドへと押し倒した。パイプで組み立てられた簡素なベッドは男2人分の重みで軋み、鈍い音を立てて揺れた。
背中に衝撃を感じ、痛みに顔を歪ませているといつの間にか俺の両手はアキに片手でまとめ上げられていた。下半身はアキの脚で固定されていて微動だにしない。いくら俺の方が体格が良いとは言え、上背のあるアキにのし掛かられてしまえばもう身動きは取れない。
俺はせめてもの抵抗でアキを睨んだ。
「離せ」
「嫌だ」
嫌だ、としか言わないアキは困ったような苦しそうな顔をしている。
グッと両手に力を入れて手を振り解こうとするが、案の定びくともしない。
「アキ」
「嫌だ」
話し合いすら出来ない空気の中、アキは息を吐いた。どこか自暴自棄な空気を孕みながら呼吸を繰り返す。
「リュージは僕のことが好きだって言ったのに、なんで別れようなんて言うの……」
驚き過ぎて思わず気が抜けた。自分がした事を全部棚に上げて、まるでこの状況を全部俺が引き起こしたかのように言う。
「そんなの、アキが浮気したからだろ!」
あまりにも頭にき過ぎて声を荒げてしまった。
「だからしてない!!!!」
俺以上に荒げた声でアキが叫んだ。
これ以上話してもイタチごっこだと思った。浮気云々よりも、アキを怖いと思ってしまったことの方が堪えた。
アキは興奮しているのか目が血走り、いつもの落ち着きは影も形もない。折角のかっこいい顔も歪んでいて見るに堪えない。
「ッ……」
アキは一瞬、一層顔を歪めると、俺の目を見た。そして、乱暴に俺のシャツの襟ぐりを引っ張った。留めていたボタンが数個飛び散って音を立てて転がっていった。
「は? アキ? 何して──」
確認する間も無く、アキは俺の首に噛み付いてきた。突然の鈍い痛みに身体が強張る。続けざまに噛み付いた箇所を舌でなぞられ、違った感覚が押し寄せる。
「やめ──」
拒否の言葉を発しようとすると、今度は口を塞がれた。口内に侵入してくる違和感に目尻に涙が浮かぶ。
アキは性急に空いている方の手を俺のベルトまで伸ばしてきた。
俺は必死に抑えていた涙が頬を伝うのを感じながら、カチャカチャとベルトが解かれていく音を聞いた。
アキは一旦唇を離すと俺の顔を見た。
不意に、アキの力が弱まるのを感じた。
その一瞬の隙に俺は出来る限りの力でアキの手を振り払い、拘束から逃れると、アキの上半身を思い切り突き飛ばし立ち上がった。無我夢中で自分の荷物を拾い集め、突き飛ばされてから微動だにしないアキを視界に入れないように部屋から飛び出した。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説

笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています


俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる