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いわゆる逆ナン
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「はあ~~生き返る~~」
俺は出されたジュースを一気飲みすると、テーブルにもたれかかった。まだお昼には早い時間のせいか、海の家はそれほど混雑しておらず、すんなりと入ることができた。取り敢えず何か冷たい物、と頼んだジュースが一瞬で無くなってしまった。
「アキもだいぶ顔色良くなったみたいで良かった」
「心配かけてごめん」
アキが少し落ち込んだように見えて、俺はテーブルに乗り出してアキの頭を両手で掴み、まるで犬を撫でるかのように頭を撫でた。アキは大きく目を見開き俺を見た。
「リュージ……!」
香奈にもよく同じ事をするが、いつも鬱陶しそうにされる。アキにも同じ反応をされるかと思いきや、思いの外大人しかった。
「鬱陶しくない?」
「いや? むしろ気持ちいい」
香奈と感想が180度違い少し驚く。そしてなんだか照れ臭くなってきた。パッと手を離すと素早く自分の席に戻った。
「あー、えーと……アキの前髪って暑そうだよなー」
どうでもいいことで話を逸らそうとする。アキは上目遣いに自分の前髪を確認してから、そう?と聞き返してきた。
「アキぐらい前髪長いと結べそうだよな…………あ! そういえばいいもん持ってた!」
俺は思い立ってカバンの中を漁る。そこには今朝、香奈に渡しそびれた髪ゴムがあった。
「ちょっとこっち来て」
俺はアキの顔を引き寄せると、前髪を頭上で縛った。所謂ちょんまげ状態だ。
「これで涼しいだろ!」
「えー…………」
俺の雑な縛り方に不服そうなアキだったが、涼しいことには変わりなかったようで、そのまま話を続けた。
「ってか本当にごめん! 今日本当は勉強会のはずだったのに……!」
「ん? あぁ、別にいいよ。それに僕的には一緒に来れて嬉しいし」
そう言いながら何故かアキは周囲を見回した。知り合いでも居るのかと思ったがそうではないらしい。
「? …………また今度、勉強会しような」
「そうだね」
アキは俺の方に向き直るとにっこり笑った。と、瞬間、空気がざわついた気がした。不審に思って周囲を確認するとやけにこちらを向いている人が多い。しかも全員が女の人だ。盗み見るようにチラチラと視線を向けられ、コソコソと何かを喋っている。
「アキ、なんか──」
この違和感を共有しようとアキに声をかけようとした時、1人の女の人に声を掛けられた。
「あの、良かったら、この後一緒に遊びませんか?」
「え、」
女の人は普通の姿の俺ではなく、ちょんまげ姿のアキに声を掛けた。
ここで初めて周囲の違和感の正体に気がついた。アキの顔を隠していた前髪が俺によって纏められ、その素顔に周囲が気が付いたのだ。顔が見えた途端にこの反応。今までアキはずっとここに居たのに、と思うとなんだかやり切れない気持ちになってきた。まるでアキの顔にしか興味が無いような、そんな対応をされて、アキはどう思うのだろうか。
「…………どうする? リュージ」
「えっ」
断ってくれるものだと思っていたのに、アキはよりにもよって俺に聞いてきた。前にも同じような状況でアキの前で失態を見せてしまった身としてはこの件に触れたくなかった。
あの時、アキは嫉妬だと言ったが、確かに今もモヤモヤする気持ちが無いとは言い切れない。でもこれが嫉妬かと言われれば、自分の気持ちに向き合うのが怖くてあやふやな答えしか出てこない。ひとつだけ言えるのは、もうアキの前で感情を剥き出しにしたくないという事だけだった。
「お、俺は良いと思うよ! 2人で遊んできなよ!」
「えっ! リュー……」
アキの言葉を聞きたくなくて、出来るだけ明るくそう答えると、すばやくお金だけ置いて店を飛び出した。
「はあ~~生き返る~~」
俺は出されたジュースを一気飲みすると、テーブルにもたれかかった。まだお昼には早い時間のせいか、海の家はそれほど混雑しておらず、すんなりと入ることができた。取り敢えず何か冷たい物、と頼んだジュースが一瞬で無くなってしまった。
「アキもだいぶ顔色良くなったみたいで良かった」
「心配かけてごめん」
アキが少し落ち込んだように見えて、俺はテーブルに乗り出してアキの頭を両手で掴み、まるで犬を撫でるかのように頭を撫でた。アキは大きく目を見開き俺を見た。
「リュージ……!」
香奈にもよく同じ事をするが、いつも鬱陶しそうにされる。アキにも同じ反応をされるかと思いきや、思いの外大人しかった。
「鬱陶しくない?」
「いや? むしろ気持ちいい」
香奈と感想が180度違い少し驚く。そしてなんだか照れ臭くなってきた。パッと手を離すと素早く自分の席に戻った。
「あー、えーと……アキの前髪って暑そうだよなー」
どうでもいいことで話を逸らそうとする。アキは上目遣いに自分の前髪を確認してから、そう?と聞き返してきた。
「アキぐらい前髪長いと結べそうだよな…………あ! そういえばいいもん持ってた!」
俺は思い立ってカバンの中を漁る。そこには今朝、香奈に渡しそびれた髪ゴムがあった。
「ちょっとこっち来て」
俺はアキの顔を引き寄せると、前髪を頭上で縛った。所謂ちょんまげ状態だ。
「これで涼しいだろ!」
「えー…………」
俺の雑な縛り方に不服そうなアキだったが、涼しいことには変わりなかったようで、そのまま話を続けた。
「ってか本当にごめん! 今日本当は勉強会のはずだったのに……!」
「ん? あぁ、別にいいよ。それに僕的には一緒に来れて嬉しいし」
そう言いながら何故かアキは周囲を見回した。知り合いでも居るのかと思ったがそうではないらしい。
「? …………また今度、勉強会しような」
「そうだね」
アキは俺の方に向き直るとにっこり笑った。と、瞬間、空気がざわついた気がした。不審に思って周囲を確認するとやけにこちらを向いている人が多い。しかも全員が女の人だ。盗み見るようにチラチラと視線を向けられ、コソコソと何かを喋っている。
「アキ、なんか──」
この違和感を共有しようとアキに声をかけようとした時、1人の女の人に声を掛けられた。
「あの、良かったら、この後一緒に遊びませんか?」
「え、」
女の人は普通の姿の俺ではなく、ちょんまげ姿のアキに声を掛けた。
ここで初めて周囲の違和感の正体に気がついた。アキの顔を隠していた前髪が俺によって纏められ、その素顔に周囲が気が付いたのだ。顔が見えた途端にこの反応。今までアキはずっとここに居たのに、と思うとなんだかやり切れない気持ちになってきた。まるでアキの顔にしか興味が無いような、そんな対応をされて、アキはどう思うのだろうか。
「…………どうする? リュージ」
「えっ」
断ってくれるものだと思っていたのに、アキはよりにもよって俺に聞いてきた。前にも同じような状況でアキの前で失態を見せてしまった身としてはこの件に触れたくなかった。
あの時、アキは嫉妬だと言ったが、確かに今もモヤモヤする気持ちが無いとは言い切れない。でもこれが嫉妬かと言われれば、自分の気持ちに向き合うのが怖くてあやふやな答えしか出てこない。ひとつだけ言えるのは、もうアキの前で感情を剥き出しにしたくないという事だけだった。
「お、俺は良いと思うよ! 2人で遊んできなよ!」
「えっ! リュー……」
アキの言葉を聞きたくなくて、出来るだけ明るくそう答えると、すばやくお金だけ置いて店を飛び出した。
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