5 / 29
このままがいい
しおりを挟む
***
「やっぱ暑いな……」
「そうだね」
中庭に出てきて、しばらくあてもなく歩いていた。7月の野外はそれなりに暑くて歩いている人もまばらだった。と言っても木陰に入ってしまえば我慢できない程ではなく、時々吹く風が心地良いとさえ感じる程度だった。
「どっか日陰で休めるところないかなぁ」
俺は少し汗をかき始めていて、どこかで休みたかった。カフェに入るほどではないけど、座りたい。1週間動かなかっただけで体力が落ちてしまったのかと少し凹む。
「えーと」
アキは周囲を見渡して場所を探した。俺はアキの方を見て一緒に目線を動かした。
俺の隣で遠くを見るアキは表情は変わらないが少し頬を紅潮させていた。いつも青白い顔をしていて血の気の無さが気になっていたが、いつもと違う雰囲気に少しだけ唇を噛んだ。
「ごめん、暑いよな。もう帰ろっか」
自分のことばかり考えていたが、アキも暑そうだ。
「あ、いいとこがある」
アキは思いついた様に俺の方を見ると、俺の手を取った。
結局病室を出てすぐに離してしまった手が再び繋がってまた熱がこもる。
「行こ」
アキは俺の返事を待たずに手を引いて歩き出した。俺はつられるようにアキの後について行った。
「ここ、良くない?」
アキは大きな木の裏に設置されているベンチの前で止まった。普段みんなが通る道からは木の影に隠れていて存在すら分からない。こんなに奥まった場所まで来る必要があったかと聞かれれば首を傾げるが、折角アキが見つけてくれた場所なので休むことにする。
「はぁー久しぶりに歩いたから疲れたー」
俺はベンチに座るとパタパタと手で顔を仰いだ。
続いてアキが隣に腰掛けた。と、俺が真ん中寄りに座っていたせいでぴったりと密着するような形になった。
「あ、悪い」
俺は場所を移動しようとしたが、アキが制止した。
「このままがいい」
少しだけ含みのある言い方に状況を理解して急に距離が近いことを意識する。アキの方が背が高い分肩の位置も高くて自分と比べてしまう。すると、アキが首を傾けて俺の肩に乗せてきた。普段サイドに分けられている前髪が横になびき俺の肩に触れる。ぴったりと重なった部分が熱を帯び始めて気が気じゃない。暑さのせいだと思うが、それにしては鼓動が早い。
「あ、あの、アキ」
どうしたらいいか分からなくなってとりあえず名前を呼ぶと、アキは俺の肩から頭を離し、覗き込むように見上げてきた。
「なに?」
後に続く言葉を考えていなかった。やめろと言うのは流石にキツイだろうか。やんわりと暑いからと距離を取ってもらおうか。それともこのままでいいんだろうか。
完全に混乱した俺は上手く言葉が出せずにもごもごと口ごもった。アキはまた俺の肩に頭を戻し、戯れる様に俺の手に触れ始めた。存在を確かめるように指で撫でられむず痒くて鳥肌が立つ。
しばらく弄ばれた後、そろそろ本当に我慢ができないと思い始めた瞬間、アキが手を離した。
「リュージの手って僕よりいかついね」
さっきまでの妙な雰囲気を壊すようにアキは無邪気に笑った。
「え、あー、アキよりは俺の方ががたい良いし」
「背は僕の方が高いけどね」
「褒めてるのか貶してるのかどっちなんだよ」
友達の距離感に戻ったアキに少しほっとする。アキには悪いがまだアキを友達以上には思えない。さっきみたいに急に距離を詰められると反射的に拒否してしまいそうで怖い。
「もう戻るか」
夏で日が長くなっていて気付かなかったが、もういい時間だろう。
「そうだね」
アキは立ち上がるとまた手を差し出してきた。俺はその手を取らずに立ち上がり普通を装って笑顔を作った。
「もう大丈夫だから」
それだけ言うと歩き出した。アキの反応が怖くて後ろに続くアキの顔は見れなかった。
「やっぱ暑いな……」
「そうだね」
中庭に出てきて、しばらくあてもなく歩いていた。7月の野外はそれなりに暑くて歩いている人もまばらだった。と言っても木陰に入ってしまえば我慢できない程ではなく、時々吹く風が心地良いとさえ感じる程度だった。
「どっか日陰で休めるところないかなぁ」
俺は少し汗をかき始めていて、どこかで休みたかった。カフェに入るほどではないけど、座りたい。1週間動かなかっただけで体力が落ちてしまったのかと少し凹む。
「えーと」
アキは周囲を見渡して場所を探した。俺はアキの方を見て一緒に目線を動かした。
俺の隣で遠くを見るアキは表情は変わらないが少し頬を紅潮させていた。いつも青白い顔をしていて血の気の無さが気になっていたが、いつもと違う雰囲気に少しだけ唇を噛んだ。
「ごめん、暑いよな。もう帰ろっか」
自分のことばかり考えていたが、アキも暑そうだ。
「あ、いいとこがある」
アキは思いついた様に俺の方を見ると、俺の手を取った。
結局病室を出てすぐに離してしまった手が再び繋がってまた熱がこもる。
「行こ」
アキは俺の返事を待たずに手を引いて歩き出した。俺はつられるようにアキの後について行った。
「ここ、良くない?」
アキは大きな木の裏に設置されているベンチの前で止まった。普段みんなが通る道からは木の影に隠れていて存在すら分からない。こんなに奥まった場所まで来る必要があったかと聞かれれば首を傾げるが、折角アキが見つけてくれた場所なので休むことにする。
「はぁー久しぶりに歩いたから疲れたー」
俺はベンチに座るとパタパタと手で顔を仰いだ。
続いてアキが隣に腰掛けた。と、俺が真ん中寄りに座っていたせいでぴったりと密着するような形になった。
「あ、悪い」
俺は場所を移動しようとしたが、アキが制止した。
「このままがいい」
少しだけ含みのある言い方に状況を理解して急に距離が近いことを意識する。アキの方が背が高い分肩の位置も高くて自分と比べてしまう。すると、アキが首を傾けて俺の肩に乗せてきた。普段サイドに分けられている前髪が横になびき俺の肩に触れる。ぴったりと重なった部分が熱を帯び始めて気が気じゃない。暑さのせいだと思うが、それにしては鼓動が早い。
「あ、あの、アキ」
どうしたらいいか分からなくなってとりあえず名前を呼ぶと、アキは俺の肩から頭を離し、覗き込むように見上げてきた。
「なに?」
後に続く言葉を考えていなかった。やめろと言うのは流石にキツイだろうか。やんわりと暑いからと距離を取ってもらおうか。それともこのままでいいんだろうか。
完全に混乱した俺は上手く言葉が出せずにもごもごと口ごもった。アキはまた俺の肩に頭を戻し、戯れる様に俺の手に触れ始めた。存在を確かめるように指で撫でられむず痒くて鳥肌が立つ。
しばらく弄ばれた後、そろそろ本当に我慢ができないと思い始めた瞬間、アキが手を離した。
「リュージの手って僕よりいかついね」
さっきまでの妙な雰囲気を壊すようにアキは無邪気に笑った。
「え、あー、アキよりは俺の方ががたい良いし」
「背は僕の方が高いけどね」
「褒めてるのか貶してるのかどっちなんだよ」
友達の距離感に戻ったアキに少しほっとする。アキには悪いがまだアキを友達以上には思えない。さっきみたいに急に距離を詰められると反射的に拒否してしまいそうで怖い。
「もう戻るか」
夏で日が長くなっていて気付かなかったが、もういい時間だろう。
「そうだね」
アキは立ち上がるとまた手を差し出してきた。俺はその手を取らずに立ち上がり普通を装って笑顔を作った。
「もう大丈夫だから」
それだけ言うと歩き出した。アキの反応が怖くて後ろに続くアキの顔は見れなかった。
22
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い
たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」
真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…?
*本編:7話、番外編:4話でお届けします。
*別タイトルでpixivにも掲載しております。

サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。

王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる