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ことわ子

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トナミが好き【トナミ】

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 ゼンに連れ返されてから半日が経ち、夜になった。帰ってきてすぐに一緒にご飯を食べ、たわいもない会話をして過ごしていたらこんな時間になっていた。お互い核心には触れず、妙な空気感のまま時間だけが過ぎていく。

「よし」

 このまま何事も無かったかのように昼間のことは流すのかなと思い始めた頃、ゼンが突然立ち上がった。
 そして、オレにそこに座れと指示してきた。オレは言われた通りに、正座で床に座った。
 当然今から怒られるのだろうと覚悟して、反省の意味も込めて正座をしたのだが、何故かゼンも正座でオレの前に座ってきた。
 膝を突き合わせた状態のまま、また沈黙が始まった。
 ゼンの行動の意味が分からず、びくびくしながらゼンの様子を窺っていると、不意にゼンと目があった。気まずくて目を逸らすと、ゼンが僅かに動いた。

「あ、のさ、」

 後に続く言葉が怖い。オレはゼンの気持ちを無視して、指輪を渡しに行ってしまった。ギリギリで思い止まったものの、結果としてはゼンと芽依を引き合わせてしまい、ゼンを傷付けてしまった。

「とりあえず、指輪返してほしい」
「あ……うん」

 オレはポケットから指輪を出してゼンに渡した。すると、ゼンは躊躇いもなくそのままゴミ箱に放り込んだ。

「ちょ、なんで!?」
「捨てるって言っただろ」
「でも」

 あれはゼンの大事なもので、ヤケクソみたいに捨てていいものではないと思った。例え、相手に渡すことは叶わなくても、こんな手放し方をして欲しくなかった。

「俺さ、」

 しかし、こちらの心配をよそに、ゼンは話し始めてしまった。ゴミ箱から回収するタイミングを見失ってしまい、オレは浮かしかけたお尻を下ろした。

「芽依に会ったらまだしんどいだろうなって思ってた」
「…………」
「でも、会ったら意外と普通でさ」

 ゼンは淡々と言葉を紡ぐ。ゼンが何を言いたいのか分からずに、オレはただひたすらゼンの言葉を待った。

「なんでかなって思ったんだけど、トナミが隣にいてくれたからだって思ったらすごい腑に落ちて」
「え…………?」
「今日初めて心の底から芽依のこと、祝福できた」

 結婚おめでとう。
 ゼンは笑顔でそう言っていた。オレは無理をしているんだと思っていた。オレが無理に二人を引き合わせなければ、ゼンは無理をしなくて済んだんだと。

「だから、俺はもう可哀想じゃない」
「………………うん」

 なんとなく、ゼンの言いたいことは分かった。
 もう芽依への未練はないと、そうオレに伝えようとしてくれているのだと思った。

「あと、この流れじゃついでみたいに思うかもしれないけど、俺はトナミが好き」
「…………………………………………え!?」
「気付いたのは最近だけど」

 バツの悪そうなゼンの顔がまともに見られない。頭が混乱して真っ白になる。
 ゼンがオレのことを好きだと言ったように聞こえた。

「こんなこと、いきなり言われても困るかもしれないけど、」
「困らない!」

 思わず被せるように前のめりで叫んでしまった。言ってから、恥ずかしくなって身体を戻す。

「…………困らない、です……」

 何故か敬語になってしまい益々恥ずかしくなる。一方ゼンはオレの言っている意味が分かっていないのか不思議そうな顔でオレを見ている。

 ああ、もう!

 オレはゼンの胸に飛び込むと首に腕を回して唇を塞いだ。ゼンは身体を固くして動かなくなった。
 一生懸命、唇を甘噛みしていると、ゼンの大きな手がオレの後頭部に回された。包み込むように抑え込まれ、ゼンが首を傾けた。ゼンの舌が侵入してくる感覚に驚いて身を引こうとしたが、もう片方の腕で腰を押さえられてしまった。逃げても逃げても絡みついてくるゼンに息が続かなくなる。
 ようやく離れた時には全身の力が抜けてしまっていた。ゼンのキスでこんな風になるなんて思ってもみなかった。
 ゼンはオレを抱き上げるとベッドの上に下ろした。そして覆いかぶさるように両腕をつく。
 ゼンの顔がゆっくりと近づいてくる。オレはそれを受け入れようと、目を瞑ろうとして──止めた。

「……なに?」

 オレにジッと見られて気まずそうにしている。腰を折られて少しいじけている様子のゼンが可愛い。

「こういうのは、ちゃんと言っておかないとって思って」

 オレは両腕を伸ばしてゼンを抱きしめた。全身で思いを伝えるために。

「オレもゼンが好き」

 耳元で囁く。そして、あわよくば、ゼンの照れる顔が見れるかもしれないと、少し期待して耳を甘く噛んだ。

「ッ!」

 途端にゼンが顔を歪めた。そしてオレの太ももの辺りに妙な違和感を感じた。

「あ、あれ……?」

 もしかして、と思った瞬間、顔を真っ赤にしているゼンの顔が目に入った。

「ゼン、もしかして……」
「声に出して言わなくていいから!」

 愛の告白で呪いが解けるなんて、ロマンチックなゼンに相応しい、なんて、冗談でも言ってしまたら雰囲気が台無しになることくらい、オレにも分かる。だから、そのままオレは脚を浮かせて太ももでゆっくりとゼンを撫でた。

「トナミ、やめ……!」

 感じているゼンの顔が愛おしい。大好きなゼンを気持ち良くさせている事実に興奮して身体が熱くなってくる。
 オレは起き上がると、ゼンのズボンを脱がそうとベルトに手をかけた。ゼンは堪えるような顔でオレの動作を見守っていた。
 ズボンを膝まで下ろし、少しキツめのボクサーパンツのふちに手をかける。想像以上に膨らんでいて、見るからにキツそうだ。
 オレは一思いにパンツを下げた。瞬間。

「え……?」

 生温かい液体がオレの顔を濡らす。ねっとりとしたそれはゆっくりと時間をかけてオレの顔に白い痕を残した。

「~~~~ッ! ごめん!」

 慌てるゼンをよそに、オレは頬についた白濁液を手で掬い取って舐めた。

「は!? おい、やめろって!」
「ゼンの、どんな味がするのかなって思って」

 オレがそう言うと、ゼンはまた顔を真っ赤にして急いでタオルを取りに行った。
 ゴシゴシとまるで汚いものを拭き取るかのようにゼンが力強くオレの顔を拭いてくる。

「ゼ、ゼン……そんなに擦ったら肌荒れちゃうから……!」
「あ、あ、あごめん」

 跡形もなく拭かれてしまい、少し残念に感じた。
 オレの綺麗な顔が汚れるから、顔にかけられるのは嫌いだったはずなのに、全然嫌じゃなかった。
 ゼンはテンパっているのか、落ち着かない様子で目を泳がせている。

「久しぶりだったし仕方ないよ」

 オレとしては励ましたつもりだったのだが、ゼンは落ち込んでしまった。
 オレはゼンの股間に顔を埋めると、太ももの付け根を舐めた。

「大丈夫、すぐに復活させてあげるから」

 オレは自信満々にそう言い、ゼンに愛撫をし始めた。が。

「ゼン…………呪いは解けたんじゃなかったの……?」

 ゼンはそれきり全く反応しなくなってしまった。あまりの絶望感に勝手に想像していたロマンチック設定が口から漏れてしまう。

「俺に分かるわけないだろ……」

 ゼンは泣きそうな顔をしているが、オレだって泣きたい。

「せっかく両思いだって分かって、おまけにEDも治って、やっとゼンとえっち出来ると思ったのにおあずけ!? そんなことある!?」
「そういうこと、大声で言うな……」

 ゼンの注意も心なしか覇気がない。
 オレ以上に落ち込んでいるのはゼンなのだと思い直し、とにかくこの場をどうにかしようと思考を巡らせた。

「こういうのは焦れば焦るほど良くないし、今日はもう寝よう!」
「………………そうするか」

 すっかり意気消沈してしまったゼンは寝る支度を始めた。オレも慌てて支度を整えゼンと同時にベッドに入る。
 今までは遠慮してゼンには極力くっつかないようにして寝ていた。でも今日からはそんな配慮はいらない。
 オレは背中を向けて寝ているゼンを後ろから抱きしめて脚を絡めた。
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