18 / 25
一瞬の熱
しおりを挟む
***
夜になり、更に雨風は強くなってきた。
雨が叩きつけられる音で常に騒がしく、自然に声のボリュームも大きくなっていた。
相変わらず、筧はトキの横を陣取っていたが、想像していたよりは静かにしていて、何より俺への嫌味が一つも出てこなかった。
おそらく、態度を切り替えるのが得意なのだろう。それはそれで腹が立つなと思いながらも、大人しいに越したことはないと放っておいた。
「あー、俺、そろそろ寝るわ」
「え、もうそんな時間?」
母さんが時計を見て不思議そうな顔をする。
「まだ十時だけど……? 千秋いつも夜更かしするのに」
「今日は色々あって疲れたんだよ」
二十二時。この時間に寝るのは小学生ぶりかもしれない。
「千秋は自分の部屋で寝るよね? トキくんと巳波くんは和室にお布団敷いておいたから使ってね」
「ありがとうございます」
「え、ちょっと待って、二人一緒の部屋なの……?」
「? 当たり前でしょ? ウチは旅館じゃないんだから個室なんて用意できないわよ」
「そりゃそうなんだけど……」
なんとなく、引っかかる。
「トキくんと一緒に寝るの久しぶり~」
「子どもの頃の話でしょ」
「でも寝てたことには変わりないし」
なんだろう。今ものすごくマウントを取られたような気分になった。
別に、一緒に寝るくらい俺も翔としょっちゃうしていたし、何なら今でも夜通し翔とゲームして一緒に寝落ちしているし、大したことじゃないのは分かっているのに気に入らない。
「俺も和室で寝ようかな」
「え、なんで!? 三人だと狭くなっちゃうじゃない!」
「なんか……修学旅行みたいで楽しいかなっ
て」
少し強引だっただろうか。
筧は凄んでも全然鋭くならない丸い目で俺を睨んでいるし、トキはいつものきょとん顔で不思議そうに見ていた。
「でももうお布団敷くスペースが無くて……」
「あ、そっか……」
ウチは一般的な大きさの一軒家だ。家族三人、しかも父親は単身赴任に出ていて中々家にいないことを考えると、充分なスペースが確保できていた。しかし、男子高校生が二人増えただけで一気に手狭感が出てくる。和室は布団を二組敷くだけでいっぱいいっぱいになる広さだった。
「今のままで多分大丈夫です。巳波小柄だし」
そう言いながら、トキは何か言いたげな筧に視線を向ける。
確かに筧は小柄だが、小柄とはいえ歴とした男子高校生で、母さんよりは背もある。それに、トキの体格のことを考えると、やっぱり厳しいかもしれないと思った。
「俺も修学旅行気分味わってみたいんで」
鶴の一声だった。
筧は押し黙り、母さんはトキの笑顔にやられていた。
「じゃあ、もう、お母さんも寝ることにするね! 男の子同士積もる話もあるだろうし!」
何を想像しているのは、母さんははしゃぎながら階段を上がっていってしまった。この二人と積もる話なんかあるわけない。
修学旅行と言えば、布団に入ってからの男子トークは盛り上がるイベントだが、俺はそんなつもりはなく、すぐに寝ようとしていた。
「そう言えば、先輩って寝る時もネックウォーマー付けてるんですね、暑くないんですかそれ?」
巳波が不思議そうに俺を見た。これは嫌味というよりは純粋に疑問に思ったのだろう。
いつもは家にいる時は外している。けれど、今日はトキに加え巳波もいるせいで外せなくなっていた。
「巳波」
トキが名前を呼ぶと、筧はおしゃべりな口を閉じた。本当に従順な犬……というか従順なポメラニアンのように筧はトキの言うことならすぐに聞く。
俺と翔とは違う幼馴染の関係性に不思議な感覚を覚えた。
和室に通じる襖を開けると二組の布団がピッタリとくっついて敷かれていた。
「じゃあオレは真ん中で」
「えっ」
筧が布団の境目に寝転ぶ。俺が中学時代着ていた半袖のTシャツを貸していたが、肘が丸々隠れる長さになっていた。
てっきり、境目は身体が痛くなるから嫌だと拒否すると思っていたため意外だった。
「巳波は右側の布団使って。俺が真ん中に寝るから」
「えっ」
どうしてこうも真ん中の競争率が激しいのか。訳の分からない状況になんだか不安になってくる。
もしかして気を遣われてる……?
家主の俺を硬い場所で寝させないという優しさなのかもしれない。そうなると、本当なら二人で快適に寝られるはずだった場所に割り込んでしまった俺の責任は大きい。
「いや、俺が……」
「それは駄目」
「それは嫌」
二人の声が重なる。
結局、トキの押しが強く、俺、トキ、筧の順で寝ることになった。
電気を消して、無言になる。
もう寝ると言ったものの、流石に早すぎるのか眠気が全く来ない。むしろいつもと違う状況に興奮しているのか逆に目が冴えてきた。
なるべく音を立てないようにトキの方を盗み見る。すると、トキはぼんやりと天井を眺めていた。
「……トキ?」
小さな声で名前を呼んでみる。
「先輩? 起こしちゃいましたか?」
「いや、なんか眠れなくて……トキは?」
トキも俺と同じように眠れないんだろうか。
「寝るのもったいないなと思って」
もったいない……?
トキの心情が分からずに首を傾げると、小さく笑われた。
「先輩、やっぱり少しそっちに寄ってもいいですか……?」
囁くような声で言う。
「やっぱり境目は痛いよな……あんまりスペース無いけど、寄れるだけ寄って大丈夫だから」
「ありがとうございます」
トキは柔らかい顔で笑うと、俺の方に寄ってきた。思ったよりも距離が近くなってしまい慌てるが、拒否することもできずに受け入れる。
肩と肩がぶつかる近さに、自然と身体が固くなる。でもこの緊張は前とは違う気がした。
「先輩、さっきなんて言おうとしてたんですか?」
「さっき……?」
「先輩の髪を拭いた後に、先輩何か言おうとしてたので……」
「あ……」
すっかり忘れていた。
トキの方から話を振ってくれるとは思わず、絶好のチャンスに口を開くがまた閉じた。
一瞬、聞くのが怖いと思ってしまった。
「えと、トキの……怪我って、調子どう……?」
「もうだいぶ良くなってきました」
「そう……なんだ」
ずしん、と心に重いものがのし掛かる。
もう俺は必要ないのだと、突き付けられたような気分になった。
「先輩に沢山迷惑かけちゃいましたよね、すみません」
「別に、俺は迷惑だなんて──」
嘘だ。最初は迷惑だと思っていた。
現に今日も面倒くさいと思っていた。でもそれはトキとの関係が続くと信じて疑わなかったからだ。
「もう俺は大丈夫なんで……今までありがとうございました」
まるで別れの言葉に聞こえる。
実際、この件が終わったら、トキとこうやって会話することは無くなるだろう。幼馴染でもない、友達でもない人間との関係なんて縁が切れたらそこで終わりだ。
しかし、俺には何も言うことが出来なかった。
「良かったな、治って……」
そう吐き出すので精一杯だった。
多分、これでいいのだ。本来俺が思い描いていた薔薇色の人生に一歩近づいたことになるのだから。
トキとの関係が終わったら、彼女作って、沢山いちゃいちゃして、それで…………
きっと楽しいだろうなと思う。そう言い聞かせる。
「こんなに喋ってたら筧起きちゃうよな」
「巳波は一回寝たら朝まで起きないんで大丈夫だと思います」
そんなことまで知ってるんだな、と、ふと思った。幼馴染なのだから当たり前だけど。
「千秋先輩……?」
トキが名前を呼んでくる。
今はトキの声を聞きたくない。そう思うと、防衛本能なのか自然に眠気がやってくる。まるでシャッターを下ろしたかのように、周りの音が聞こえなくなってくる。
ウトウトとする俺をトキが見ている気配だけを感じ、夢と現実の間を彷徨う。
トキが僅かに起き上がる動きを感じても、今の俺にはどうでもいい。
意識を手放そうとした俺の口に何かが触れた。一瞬、熱を感じたような気がしたが、すぐに分からなくなる。またすぐに同じ熱を感じ、今度は少しの間留まっていた。
この熱がなんなのか、確かめる余裕もなく、俺は深い眠りへと落ちていった。
夜になり、更に雨風は強くなってきた。
雨が叩きつけられる音で常に騒がしく、自然に声のボリュームも大きくなっていた。
相変わらず、筧はトキの横を陣取っていたが、想像していたよりは静かにしていて、何より俺への嫌味が一つも出てこなかった。
おそらく、態度を切り替えるのが得意なのだろう。それはそれで腹が立つなと思いながらも、大人しいに越したことはないと放っておいた。
「あー、俺、そろそろ寝るわ」
「え、もうそんな時間?」
母さんが時計を見て不思議そうな顔をする。
「まだ十時だけど……? 千秋いつも夜更かしするのに」
「今日は色々あって疲れたんだよ」
二十二時。この時間に寝るのは小学生ぶりかもしれない。
「千秋は自分の部屋で寝るよね? トキくんと巳波くんは和室にお布団敷いておいたから使ってね」
「ありがとうございます」
「え、ちょっと待って、二人一緒の部屋なの……?」
「? 当たり前でしょ? ウチは旅館じゃないんだから個室なんて用意できないわよ」
「そりゃそうなんだけど……」
なんとなく、引っかかる。
「トキくんと一緒に寝るの久しぶり~」
「子どもの頃の話でしょ」
「でも寝てたことには変わりないし」
なんだろう。今ものすごくマウントを取られたような気分になった。
別に、一緒に寝るくらい俺も翔としょっちゃうしていたし、何なら今でも夜通し翔とゲームして一緒に寝落ちしているし、大したことじゃないのは分かっているのに気に入らない。
「俺も和室で寝ようかな」
「え、なんで!? 三人だと狭くなっちゃうじゃない!」
「なんか……修学旅行みたいで楽しいかなっ
て」
少し強引だっただろうか。
筧は凄んでも全然鋭くならない丸い目で俺を睨んでいるし、トキはいつものきょとん顔で不思議そうに見ていた。
「でももうお布団敷くスペースが無くて……」
「あ、そっか……」
ウチは一般的な大きさの一軒家だ。家族三人、しかも父親は単身赴任に出ていて中々家にいないことを考えると、充分なスペースが確保できていた。しかし、男子高校生が二人増えただけで一気に手狭感が出てくる。和室は布団を二組敷くだけでいっぱいいっぱいになる広さだった。
「今のままで多分大丈夫です。巳波小柄だし」
そう言いながら、トキは何か言いたげな筧に視線を向ける。
確かに筧は小柄だが、小柄とはいえ歴とした男子高校生で、母さんよりは背もある。それに、トキの体格のことを考えると、やっぱり厳しいかもしれないと思った。
「俺も修学旅行気分味わってみたいんで」
鶴の一声だった。
筧は押し黙り、母さんはトキの笑顔にやられていた。
「じゃあ、もう、お母さんも寝ることにするね! 男の子同士積もる話もあるだろうし!」
何を想像しているのは、母さんははしゃぎながら階段を上がっていってしまった。この二人と積もる話なんかあるわけない。
修学旅行と言えば、布団に入ってからの男子トークは盛り上がるイベントだが、俺はそんなつもりはなく、すぐに寝ようとしていた。
「そう言えば、先輩って寝る時もネックウォーマー付けてるんですね、暑くないんですかそれ?」
巳波が不思議そうに俺を見た。これは嫌味というよりは純粋に疑問に思ったのだろう。
いつもは家にいる時は外している。けれど、今日はトキに加え巳波もいるせいで外せなくなっていた。
「巳波」
トキが名前を呼ぶと、筧はおしゃべりな口を閉じた。本当に従順な犬……というか従順なポメラニアンのように筧はトキの言うことならすぐに聞く。
俺と翔とは違う幼馴染の関係性に不思議な感覚を覚えた。
和室に通じる襖を開けると二組の布団がピッタリとくっついて敷かれていた。
「じゃあオレは真ん中で」
「えっ」
筧が布団の境目に寝転ぶ。俺が中学時代着ていた半袖のTシャツを貸していたが、肘が丸々隠れる長さになっていた。
てっきり、境目は身体が痛くなるから嫌だと拒否すると思っていたため意外だった。
「巳波は右側の布団使って。俺が真ん中に寝るから」
「えっ」
どうしてこうも真ん中の競争率が激しいのか。訳の分からない状況になんだか不安になってくる。
もしかして気を遣われてる……?
家主の俺を硬い場所で寝させないという優しさなのかもしれない。そうなると、本当なら二人で快適に寝られるはずだった場所に割り込んでしまった俺の責任は大きい。
「いや、俺が……」
「それは駄目」
「それは嫌」
二人の声が重なる。
結局、トキの押しが強く、俺、トキ、筧の順で寝ることになった。
電気を消して、無言になる。
もう寝ると言ったものの、流石に早すぎるのか眠気が全く来ない。むしろいつもと違う状況に興奮しているのか逆に目が冴えてきた。
なるべく音を立てないようにトキの方を盗み見る。すると、トキはぼんやりと天井を眺めていた。
「……トキ?」
小さな声で名前を呼んでみる。
「先輩? 起こしちゃいましたか?」
「いや、なんか眠れなくて……トキは?」
トキも俺と同じように眠れないんだろうか。
「寝るのもったいないなと思って」
もったいない……?
トキの心情が分からずに首を傾げると、小さく笑われた。
「先輩、やっぱり少しそっちに寄ってもいいですか……?」
囁くような声で言う。
「やっぱり境目は痛いよな……あんまりスペース無いけど、寄れるだけ寄って大丈夫だから」
「ありがとうございます」
トキは柔らかい顔で笑うと、俺の方に寄ってきた。思ったよりも距離が近くなってしまい慌てるが、拒否することもできずに受け入れる。
肩と肩がぶつかる近さに、自然と身体が固くなる。でもこの緊張は前とは違う気がした。
「先輩、さっきなんて言おうとしてたんですか?」
「さっき……?」
「先輩の髪を拭いた後に、先輩何か言おうとしてたので……」
「あ……」
すっかり忘れていた。
トキの方から話を振ってくれるとは思わず、絶好のチャンスに口を開くがまた閉じた。
一瞬、聞くのが怖いと思ってしまった。
「えと、トキの……怪我って、調子どう……?」
「もうだいぶ良くなってきました」
「そう……なんだ」
ずしん、と心に重いものがのし掛かる。
もう俺は必要ないのだと、突き付けられたような気分になった。
「先輩に沢山迷惑かけちゃいましたよね、すみません」
「別に、俺は迷惑だなんて──」
嘘だ。最初は迷惑だと思っていた。
現に今日も面倒くさいと思っていた。でもそれはトキとの関係が続くと信じて疑わなかったからだ。
「もう俺は大丈夫なんで……今までありがとうございました」
まるで別れの言葉に聞こえる。
実際、この件が終わったら、トキとこうやって会話することは無くなるだろう。幼馴染でもない、友達でもない人間との関係なんて縁が切れたらそこで終わりだ。
しかし、俺には何も言うことが出来なかった。
「良かったな、治って……」
そう吐き出すので精一杯だった。
多分、これでいいのだ。本来俺が思い描いていた薔薇色の人生に一歩近づいたことになるのだから。
トキとの関係が終わったら、彼女作って、沢山いちゃいちゃして、それで…………
きっと楽しいだろうなと思う。そう言い聞かせる。
「こんなに喋ってたら筧起きちゃうよな」
「巳波は一回寝たら朝まで起きないんで大丈夫だと思います」
そんなことまで知ってるんだな、と、ふと思った。幼馴染なのだから当たり前だけど。
「千秋先輩……?」
トキが名前を呼んでくる。
今はトキの声を聞きたくない。そう思うと、防衛本能なのか自然に眠気がやってくる。まるでシャッターを下ろしたかのように、周りの音が聞こえなくなってくる。
ウトウトとする俺をトキが見ている気配だけを感じ、夢と現実の間を彷徨う。
トキが僅かに起き上がる動きを感じても、今の俺にはどうでもいい。
意識を手放そうとした俺の口に何かが触れた。一瞬、熱を感じたような気がしたが、すぐに分からなくなる。またすぐに同じ熱を感じ、今度は少しの間留まっていた。
この熱がなんなのか、確かめる余裕もなく、俺は深い眠りへと落ちていった。
46
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。


幸せになりたかった話
幡谷ナツキ
BL
このまま幸せでいたかった。
このまま幸せになりたかった。
このまま幸せにしたかった。
けれど、まあ、それと全部置いておいて。
「苦労もいつかは笑い話になるかもね」
そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる