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嫉妬の視線
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トラブル巻き込まれるのはもうごめんだ。そう思う時に限って災難は駆け寄って来る。
例えば、今。
相変わらずの嬉しそうな顔で手を振りながら、トキがこっちに向かって来ている。
トキが居た場所には他校の女子が数名、まるで見えない結界が張られているかのように、校門から学校の敷地内へ足を踏み入れられずにいた。
そして突き刺さる俺への悪意に満ちた視線。女の子恐怖症を治そうと頑張っているところにこの視線はキツい。
そんな俺の内心など全く知らないトキは、俺の目の前まで来ると一層笑顔を咲かせた。
「千秋先輩! お願いがあるんです」
「やだよ…………」
雰囲気からしてもう碌なお願いじゃないことだけは分かる。どうせあの女子たち絡みなんだろうなと盗み見ると、俺たち、と言うかトキの一挙一動を食い入るように見つめていた。
「俺、帰ろうと思ったら知らない女の子たちが待ち伏せしてて……この後、遊びに行こうってきかなくて……」
「お前、また口悪く断ったりしてないよな……?」
「してません。だって、先輩が敵作るようなことするなって言ってたんじゃないですか」
「それは……まぁ」
トキが冷たい態度を取ったわけでもないのに、女子たちのトキを奪った俺への嫉妬に身震いする。いくら、好きな人の前では可愛い姿を取り繕っていても、本性があれだと残念だなと思う。
「だから余計に押しが強くなっちゃって……先輩と一緒に帰るからって説明しちゃダメですか……?」
出来れば断りたい。
今の俺は嫉妬の視線に串刺しにされていて針山のようになっている。勿論人間の姿は保てていないし自己保身に走りたい。走りたいのだが、自分が敵を作るなと言った手前、このまま見捨てるのも気が引ける。
俺の名前を使うだけで丸く収まるならそれでいいだろう。
「…………分かった」
「ありがとうございます!」
トキは俺を伴って校門前でトキが来るのをジリジリと待っている女子たちの元へと移動した。
「わざわざ来てくれてありがとうございます。でもごめんなさい。今日はお世話になっている先輩と一緒に帰る約束があるので、また機会があれば……」
馬鹿、と声を出したくなった。また機会があれば、なんて社交辞令、狩りモードになった女子に通じるわけがない。十中八九明日も待ち伏せにやってくるだろう。今日はよくても、また明日困ることになる。
勉強が出来る分、処世術も上手そうだと思っていたのに、αは想像よりも世間知らずなのだろうか。
それに、女子たちに対する声がやけに優しく聞こえて、癪に触る。
「こいつ、今怪我してるから当分遊んだりとかは出来ないと思う」
トラブルはごめんだと思っていたのに、無意識に渦中に飛び込んでしまったと理解するのは言葉を発した後だった。
「え、怪我してるんですか?」
「え~~可哀想」
「じゃあ、私が毎日カバン持ってあげますね!」
「え、ずるい! あたしも持ちたい!」
「私が最初に言ったんだけど!?」
………………は?
女子たちの話が思わぬ方向に飛躍し始め、収集がつかなくなり始める。
助けるつもりだったが余計なことを言ってしまったと後悔してももう遅い。
トキはどうしたらいいのか分からず、目の前で小競り合いにまで発展している女子たちの表情に引いている。
もうこうなったら俺が全ての泥を被るしかない。
「俺が世話するって約束してるから」
「「「え、」」」
一番大きな声で疑問符を発したのはトキだった。トキが合わせてくれないとこの計画は成立しない。俺は焦ってトキの手から革製の重たいカバンを受け取ると、行くぞ、と声をかけた。
「そういうことだから、ごめんね?」
荒ぶる女子たちが俺のことを襲ってくるかと思ったが、トキに声をかけられた彼女たちは惚けたように立ち尽くしていた。
理由は分からないが、このまましばらく歩いていれば女子たちは撒けそうだと思った。
「先輩、助かりました」
すぐに追いついてきたトキは嬉しそうな顔で俺を見た。俺としては結構早足で歩いていたつもりだったのだが、悲しいことに脚のリーチの差ですぐに横並びになった。
「俺が余計なこと言っちゃったしな」
「そんなことないです。俺、ああいうこと今まで何回もあったんですけど、いつもどう接したらいいのか分からなくて……」
何回もあったのかよ、と突っ込みたいのをギリギリ抑え込む。
「まぁ……色々大変だよな」
どうしたら嫌味っぽく聞こえないかと考え、結局ぼやけた励ましになってしまった。
それでもトキが笑ったので、まぁいいか、と前を向いた。
しばらく道なりに二人横並びで進む。特に会話などは無く、かと言って気まずい空気でもなかった。
「もうそろそろいいだろ」
「え……?」
「流石に女子たちもここまでは追ってこないだろって話。じゃあ、はいこれ」
俺は手に持っていたトキのカバンを本人に返す。
思わず受け取ったトキだったが、きょとんとした顔で俺のことを見ている。
「じゃ、また明日の昼に」
「え、ちょっと待ってください!」
「ん? まだなんか用ある?」
女子たちは撒けたし、トキの腕の怪我は片方だけだし、これ以上一緒に帰る理由はない。
「用っていうか…………あ、先輩この辺詳しいですか?」
「まぁ……地元っちゃ地元だし、そこそこは……」
俺と翔の家は高校から歩いて30分程度の場所にあり、地元と言っていいのか微妙なラインだったが、面倒くさいので地元を自称していた。
「えっと、案内してもらえないですか?」
「……? なんで?」
「俺、駅までバス使ってるんですけど、時間によっては中々来ない時があって……時間潰せる場所とか知りたいなって思って」
「時間潰せる場所かぁ……あるかな……」
都内から電車で一時間はかかるベッドタウンにこの高校はある。ベッドタウン故に、スーパーやコンビニなどは不便しない程度にはあったが、男子高校生が暇を潰せるような場所は思いつかなかった。
「ん~~、無いな」
「無いんですか……」
「申し訳ないけど、無い」
きっぱりと言い放つ。
例えば、今。
相変わらずの嬉しそうな顔で手を振りながら、トキがこっちに向かって来ている。
トキが居た場所には他校の女子が数名、まるで見えない結界が張られているかのように、校門から学校の敷地内へ足を踏み入れられずにいた。
そして突き刺さる俺への悪意に満ちた視線。女の子恐怖症を治そうと頑張っているところにこの視線はキツい。
そんな俺の内心など全く知らないトキは、俺の目の前まで来ると一層笑顔を咲かせた。
「千秋先輩! お願いがあるんです」
「やだよ…………」
雰囲気からしてもう碌なお願いじゃないことだけは分かる。どうせあの女子たち絡みなんだろうなと盗み見ると、俺たち、と言うかトキの一挙一動を食い入るように見つめていた。
「俺、帰ろうと思ったら知らない女の子たちが待ち伏せしてて……この後、遊びに行こうってきかなくて……」
「お前、また口悪く断ったりしてないよな……?」
「してません。だって、先輩が敵作るようなことするなって言ってたんじゃないですか」
「それは……まぁ」
トキが冷たい態度を取ったわけでもないのに、女子たちのトキを奪った俺への嫉妬に身震いする。いくら、好きな人の前では可愛い姿を取り繕っていても、本性があれだと残念だなと思う。
「だから余計に押しが強くなっちゃって……先輩と一緒に帰るからって説明しちゃダメですか……?」
出来れば断りたい。
今の俺は嫉妬の視線に串刺しにされていて針山のようになっている。勿論人間の姿は保てていないし自己保身に走りたい。走りたいのだが、自分が敵を作るなと言った手前、このまま見捨てるのも気が引ける。
俺の名前を使うだけで丸く収まるならそれでいいだろう。
「…………分かった」
「ありがとうございます!」
トキは俺を伴って校門前でトキが来るのをジリジリと待っている女子たちの元へと移動した。
「わざわざ来てくれてありがとうございます。でもごめんなさい。今日はお世話になっている先輩と一緒に帰る約束があるので、また機会があれば……」
馬鹿、と声を出したくなった。また機会があれば、なんて社交辞令、狩りモードになった女子に通じるわけがない。十中八九明日も待ち伏せにやってくるだろう。今日はよくても、また明日困ることになる。
勉強が出来る分、処世術も上手そうだと思っていたのに、αは想像よりも世間知らずなのだろうか。
それに、女子たちに対する声がやけに優しく聞こえて、癪に触る。
「こいつ、今怪我してるから当分遊んだりとかは出来ないと思う」
トラブルはごめんだと思っていたのに、無意識に渦中に飛び込んでしまったと理解するのは言葉を発した後だった。
「え、怪我してるんですか?」
「え~~可哀想」
「じゃあ、私が毎日カバン持ってあげますね!」
「え、ずるい! あたしも持ちたい!」
「私が最初に言ったんだけど!?」
………………は?
女子たちの話が思わぬ方向に飛躍し始め、収集がつかなくなり始める。
助けるつもりだったが余計なことを言ってしまったと後悔してももう遅い。
トキはどうしたらいいのか分からず、目の前で小競り合いにまで発展している女子たちの表情に引いている。
もうこうなったら俺が全ての泥を被るしかない。
「俺が世話するって約束してるから」
「「「え、」」」
一番大きな声で疑問符を発したのはトキだった。トキが合わせてくれないとこの計画は成立しない。俺は焦ってトキの手から革製の重たいカバンを受け取ると、行くぞ、と声をかけた。
「そういうことだから、ごめんね?」
荒ぶる女子たちが俺のことを襲ってくるかと思ったが、トキに声をかけられた彼女たちは惚けたように立ち尽くしていた。
理由は分からないが、このまましばらく歩いていれば女子たちは撒けそうだと思った。
「先輩、助かりました」
すぐに追いついてきたトキは嬉しそうな顔で俺を見た。俺としては結構早足で歩いていたつもりだったのだが、悲しいことに脚のリーチの差ですぐに横並びになった。
「俺が余計なこと言っちゃったしな」
「そんなことないです。俺、ああいうこと今まで何回もあったんですけど、いつもどう接したらいいのか分からなくて……」
何回もあったのかよ、と突っ込みたいのをギリギリ抑え込む。
「まぁ……色々大変だよな」
どうしたら嫌味っぽく聞こえないかと考え、結局ぼやけた励ましになってしまった。
それでもトキが笑ったので、まぁいいか、と前を向いた。
しばらく道なりに二人横並びで進む。特に会話などは無く、かと言って気まずい空気でもなかった。
「もうそろそろいいだろ」
「え……?」
「流石に女子たちもここまでは追ってこないだろって話。じゃあ、はいこれ」
俺は手に持っていたトキのカバンを本人に返す。
思わず受け取ったトキだったが、きょとんとした顔で俺のことを見ている。
「じゃ、また明日の昼に」
「え、ちょっと待ってください!」
「ん? まだなんか用ある?」
女子たちは撒けたし、トキの腕の怪我は片方だけだし、これ以上一緒に帰る理由はない。
「用っていうか…………あ、先輩この辺詳しいですか?」
「まぁ……地元っちゃ地元だし、そこそこは……」
俺と翔の家は高校から歩いて30分程度の場所にあり、地元と言っていいのか微妙なラインだったが、面倒くさいので地元を自称していた。
「えっと、案内してもらえないですか?」
「……? なんで?」
「俺、駅までバス使ってるんですけど、時間によっては中々来ない時があって……時間潰せる場所とか知りたいなって思って」
「時間潰せる場所かぁ……あるかな……」
都内から電車で一時間はかかるベッドタウンにこの高校はある。ベッドタウン故に、スーパーやコンビニなどは不便しない程度にはあったが、男子高校生が暇を潰せるような場所は思いつかなかった。
「ん~~、無いな」
「無いんですか……」
「申し訳ないけど、無い」
きっぱりと言い放つ。
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