9 / 27
相槌を打たなかったキミへ【4‐1】
しおりを挟む
ホストクラブ『Lucida』の金色の看板が目の前に迫る。
思わず仰け反ってしまいそうになるのを必死で堪え、出来るだけ挙動不審にならないように周囲を確認する。
時刻は十九時。歌舞伎町は仕事帰りのサラリーマンやホスト通いの女の子たちで、徐々に活気が出はじめている。そんな道行く人の目を気にしながら、俺は一歩、また一歩と恐る恐る目的地まで近寄った。
他の店舗に比べると黒と金を基調にしたLucidaの外観は比較的大人しい部類に入るだろう。むしろ、辺り一面が派手なネオンと看板でごちゃごちゃとしているため、上品な佇まいにも見えてくる。
しかし、これが他の土地にあったらと考えると、どこに行っても浮いてしまうのが現実で、空気に飲まれて自分の認知が歪みそうになっているのを慌てて正す。
一瞬でも気を抜けば、街全体に取り込まれてしまいそうな雰囲気に、俺は早々に降参することにした。
…………後で、急用ができたって断りの連絡入れておこう……。
勇気を出して踏み出した足を、元来た道の方へと向ける。
苗加と江草さんには申し訳ないが、俺には敷居が色んな意味で高すぎる。
むしろここまで来たことを褒めてもらいたい、と開き直って情けない自分を誤魔化そうとするが、余計に恥ずかしくなってきた。
すごすごと撤退しようとすると、突然背後から腕を掴まれた。
「え!?」
間抜けな声が出て恥ずかしいと思うよりも先に言葉が出なくなる。
振りかえった先には俺よりも若い、下手をしたらまだ未成年のような顔をした男の子が立っていたからだ。
染めていない髪は天然パーマなのか若干爆発気味に乱れていて、服装もどこにでもいるような大学生のような出で立ちだった。
「もしかして、都井さんですか?」
「え?」
「あ、オレ、ヒロムさんに言われて迎えに来ました!」
ハキハキと愛想よく喋る声がどんどん遠のく。逃げようと思っていたのに一歩遅かったらしい。
「あー、えーと……用事が出来たから帰るって伝えといて貰っていい?」
「え! 困ります!」
「困る…………?」
間髪入れずにはっきりとそう言われ困惑する。
ここで俺が帰ってからといって、男の子が困るようなことにはならないだろう。
そう思うのだが、男の子は俺の袖を引っ張ってくる。この強引な雰囲気はまごうことなき苗加の店の従業員だろう。
小柄なせいで、俺を動かすまでには至っていないが、中々鬱陶しい。
「迷ってると困るから、ってヒロムさんにお願いされたんです……! オレ、ヒロムさんからお願い事されたのなんか初めてで、嬉しくなっちゃって、絶対に連れてきますって約束しちゃったんです……!」
苗加は客の女の子だけじゃなく、後輩にまで好かれているのか、と思う。
良いことだとは思うが、若干男の子の目が怖いのが気になる。なんというか、必死すぎる。
「分かったから、とりあえず袖離して貰っていいか?」
「あ、ごめんなさい……!」
男の子はすぐに離れると申し訳なさそうに上目づかいで俺を見た。その目から悪気がなかったのは充分伝わった。
俺は脱力しながらため息を吐くと、引っ張られて伸びていた襟ぐりを直した。
そもそも、今日の誘いを受けたのは他でもない自分の責任だ。だったら腹を括るしかない。
「じゃあ、案内してもらえる?」
「勿論です!」
男の子の全開の笑顔がまぶしくて、これ以上まぶしいものを浴びたら消えてしまうかもしれないと本気で思った。
思わず仰け反ってしまいそうになるのを必死で堪え、出来るだけ挙動不審にならないように周囲を確認する。
時刻は十九時。歌舞伎町は仕事帰りのサラリーマンやホスト通いの女の子たちで、徐々に活気が出はじめている。そんな道行く人の目を気にしながら、俺は一歩、また一歩と恐る恐る目的地まで近寄った。
他の店舗に比べると黒と金を基調にしたLucidaの外観は比較的大人しい部類に入るだろう。むしろ、辺り一面が派手なネオンと看板でごちゃごちゃとしているため、上品な佇まいにも見えてくる。
しかし、これが他の土地にあったらと考えると、どこに行っても浮いてしまうのが現実で、空気に飲まれて自分の認知が歪みそうになっているのを慌てて正す。
一瞬でも気を抜けば、街全体に取り込まれてしまいそうな雰囲気に、俺は早々に降参することにした。
…………後で、急用ができたって断りの連絡入れておこう……。
勇気を出して踏み出した足を、元来た道の方へと向ける。
苗加と江草さんには申し訳ないが、俺には敷居が色んな意味で高すぎる。
むしろここまで来たことを褒めてもらいたい、と開き直って情けない自分を誤魔化そうとするが、余計に恥ずかしくなってきた。
すごすごと撤退しようとすると、突然背後から腕を掴まれた。
「え!?」
間抜けな声が出て恥ずかしいと思うよりも先に言葉が出なくなる。
振りかえった先には俺よりも若い、下手をしたらまだ未成年のような顔をした男の子が立っていたからだ。
染めていない髪は天然パーマなのか若干爆発気味に乱れていて、服装もどこにでもいるような大学生のような出で立ちだった。
「もしかして、都井さんですか?」
「え?」
「あ、オレ、ヒロムさんに言われて迎えに来ました!」
ハキハキと愛想よく喋る声がどんどん遠のく。逃げようと思っていたのに一歩遅かったらしい。
「あー、えーと……用事が出来たから帰るって伝えといて貰っていい?」
「え! 困ります!」
「困る…………?」
間髪入れずにはっきりとそう言われ困惑する。
ここで俺が帰ってからといって、男の子が困るようなことにはならないだろう。
そう思うのだが、男の子は俺の袖を引っ張ってくる。この強引な雰囲気はまごうことなき苗加の店の従業員だろう。
小柄なせいで、俺を動かすまでには至っていないが、中々鬱陶しい。
「迷ってると困るから、ってヒロムさんにお願いされたんです……! オレ、ヒロムさんからお願い事されたのなんか初めてで、嬉しくなっちゃって、絶対に連れてきますって約束しちゃったんです……!」
苗加は客の女の子だけじゃなく、後輩にまで好かれているのか、と思う。
良いことだとは思うが、若干男の子の目が怖いのが気になる。なんというか、必死すぎる。
「分かったから、とりあえず袖離して貰っていいか?」
「あ、ごめんなさい……!」
男の子はすぐに離れると申し訳なさそうに上目づかいで俺を見た。その目から悪気がなかったのは充分伝わった。
俺は脱力しながらため息を吐くと、引っ張られて伸びていた襟ぐりを直した。
そもそも、今日の誘いを受けたのは他でもない自分の責任だ。だったら腹を括るしかない。
「じゃあ、案内してもらえる?」
「勿論です!」
男の子の全開の笑顔がまぶしくて、これ以上まぶしいものを浴びたら消えてしまうかもしれないと本気で思った。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】「+20キロ!?」〜優しい見た目ヤンキーとぽっちゃり男子のお話
天白
BL
田舎の高校に転校してきたのは都会からやってきた吉良真守(♂)。
ボサボサ頭に蚊の鳴くような小さい声、狸のようなでっぷりお腹に性格は根暗ときたもんだ。
第一印象は最悪。でもそれにはある秘密があって……
※拙作『+20kg!?』(オリジナル作品)を元に、コンテスト用に一から書き直しました♪
他投稿サイト「Blove」第2回BL短編小説コンテスト「嘘から始まる恋」応募作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
次元を歪めるほど愛してる
モカ
BL
白い世界で、俺は一人だった。
そこに新しい色を与えてくれたあの人。感謝してるし、大好きだった。俺に優しさをくれた優しい人たち。
それに報いたいと思っていた。けど、俺には何もなかったから…
「さぁ、我が贄よ。選ぶがいい」
でも見つけた。あの人たちに報いる方法を。俺の、存在の意味を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる