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花を手折る【1】
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「リシュ……?」
「夢みたいだって思って」
「え?」
「だって、僕はシセルのことが好きで、シセルも僕のことが好きなんて、こんな幸せなこと、あってもいいのかなって」
噛み締めながら話す僕にシセルは小さく吹き出した。
「何だそれ」
呆れたような声に優しさが混じっている。その優しさに甘えたくて、僕は衝動的にシセルの唇を塞いだ。
一瞬、シセルは身体を固くしたものの、すぐに力を抜き、僕を受け入れてくれた。
その様子が嬉しくて、触れるに止めようと思っていたキスはどんどん熱を帯び始めた。
唇全部でシセルを感じたい。そう思う度にもどかしさに身体が震える。
シセルの頭を押さえ込んで、自分から逸らせないようにする。息継ぎの仕方が分からず、限界の手前で口を離すと、二人の間を唾液が伝った。
お互い肩で息をし、瞳は蕩けている。なのに止まらない。
僕は再びシセルを引き寄せ、止まるところを知らない熱を移そうと舌を絡める。
好きな人との触れ合いは緊張するものだと思っていた。しかし、緊張する余裕もないくらい僕はシセルでいっぱいになった。
僕はシセルの胸に手を伸ばし、シャツのボタンを外そうとした。が。
ほとんど力の入っていない手で止められた。
不思議に思ってシセルを見ると、お互いの唾液で妖しく光る唇を拭いながら口を開いた。
「これ以上は、ここでは……」
「あ……」
シセルの思いを聞いて、思わず盛り上がってがっついてしまったが、シセルとここで一夜を共にすることは出来ない。しきたりに従い、改まった場で過ごさなくてはならないことをすっかり忘れていた。
それでなくとも、今夜の主役と準主役が二人揃って行方知れずは流石にマズい。
僕は自分の中の欲をどうにか収めると立ち上がった。そしてシセルに向けて手を伸ばす。
「一緒に帰ろう」
シセルは無言で頷くと、僕の手を取った。
***
つつがなく前夜祭は終わり、僕たちは僕の部屋のベッドの上で向き合っていた。
さっきまでの勢いはどこへいったのか、お互いに気恥ずかしさが勝り始め、どう切り出したらいいのか分からなくなっていた。
もうお互いすれ違いはない。歴とした、しきたりでの行為で邪魔する人間もいない。然るべき場所で然るべき時間を共にしているのに、どうにも身体が動かない。
緊張なんかしないと思った直後にこれだ。
シセルの顔を見れないほどの緊張が僕を飲み込み、おそらくシセルにも伝わっている。
この日を待ち望んでいたのに、今はもう少しだけ時間が欲しいと思ってしまう。
部屋に入る直前に見たパメラは親指を立てて僕たちを応援してくれていた。そんな彼女にも明日どんな顔で会ったらいいのかと今更恥ずかしくなってくる。
明日にはシセルは僕の花になっている。
信じられないような思いと、嬉しさで情緒がぐちゃぐちゃになる。
シセルはどんな思いでいるのだろうと盗み見ると、僕と同じく緊張に身体を強ばらせていた。
これはお互いダメなやつだ。
僕は意を決してシセルの名前を呼んだ。
「シセル」
「なん、だよ……」
「あ、あの、始めてもいい……?」
どうしても自信のなさから言葉尻が弱くなってしまう。
「そ、……そういうことは聞くなよ」
「わ、分かった、」
シセルの声もまた尻すぼみになっている。
お互いに同じような気持ちを抱えていると分かると、少しだけ緊張が和らいだ。
僕は優しくシセルの肩を押した。まったく抵抗を感じず、シセルはベッドの上に倒れ込んだ。それだけで、全身で受け入れてくれているのを強く感じて、欲が湧き上がってくる。
シセルの着ているシャツのボタンを一つ一つゆっくりと外す。途中、焦れるようにシセルが動いたが、緊張で手が震えて上手くボタンが外せなくなっていた僕はその抗議を無視することにした。
ようやく全てのボタンを外し終わると、唇を這わせようと顔を近づけた。
「あれ……?」
僕はシセルの肌に違和感を感じ、動きを止めた。
「夢みたいだって思って」
「え?」
「だって、僕はシセルのことが好きで、シセルも僕のことが好きなんて、こんな幸せなこと、あってもいいのかなって」
噛み締めながら話す僕にシセルは小さく吹き出した。
「何だそれ」
呆れたような声に優しさが混じっている。その優しさに甘えたくて、僕は衝動的にシセルの唇を塞いだ。
一瞬、シセルは身体を固くしたものの、すぐに力を抜き、僕を受け入れてくれた。
その様子が嬉しくて、触れるに止めようと思っていたキスはどんどん熱を帯び始めた。
唇全部でシセルを感じたい。そう思う度にもどかしさに身体が震える。
シセルの頭を押さえ込んで、自分から逸らせないようにする。息継ぎの仕方が分からず、限界の手前で口を離すと、二人の間を唾液が伝った。
お互い肩で息をし、瞳は蕩けている。なのに止まらない。
僕は再びシセルを引き寄せ、止まるところを知らない熱を移そうと舌を絡める。
好きな人との触れ合いは緊張するものだと思っていた。しかし、緊張する余裕もないくらい僕はシセルでいっぱいになった。
僕はシセルの胸に手を伸ばし、シャツのボタンを外そうとした。が。
ほとんど力の入っていない手で止められた。
不思議に思ってシセルを見ると、お互いの唾液で妖しく光る唇を拭いながら口を開いた。
「これ以上は、ここでは……」
「あ……」
シセルの思いを聞いて、思わず盛り上がってがっついてしまったが、シセルとここで一夜を共にすることは出来ない。しきたりに従い、改まった場で過ごさなくてはならないことをすっかり忘れていた。
それでなくとも、今夜の主役と準主役が二人揃って行方知れずは流石にマズい。
僕は自分の中の欲をどうにか収めると立ち上がった。そしてシセルに向けて手を伸ばす。
「一緒に帰ろう」
シセルは無言で頷くと、僕の手を取った。
***
つつがなく前夜祭は終わり、僕たちは僕の部屋のベッドの上で向き合っていた。
さっきまでの勢いはどこへいったのか、お互いに気恥ずかしさが勝り始め、どう切り出したらいいのか分からなくなっていた。
もうお互いすれ違いはない。歴とした、しきたりでの行為で邪魔する人間もいない。然るべき場所で然るべき時間を共にしているのに、どうにも身体が動かない。
緊張なんかしないと思った直後にこれだ。
シセルの顔を見れないほどの緊張が僕を飲み込み、おそらくシセルにも伝わっている。
この日を待ち望んでいたのに、今はもう少しだけ時間が欲しいと思ってしまう。
部屋に入る直前に見たパメラは親指を立てて僕たちを応援してくれていた。そんな彼女にも明日どんな顔で会ったらいいのかと今更恥ずかしくなってくる。
明日にはシセルは僕の花になっている。
信じられないような思いと、嬉しさで情緒がぐちゃぐちゃになる。
シセルはどんな思いでいるのだろうと盗み見ると、僕と同じく緊張に身体を強ばらせていた。
これはお互いダメなやつだ。
僕は意を決してシセルの名前を呼んだ。
「シセル」
「なん、だよ……」
「あ、あの、始めてもいい……?」
どうしても自信のなさから言葉尻が弱くなってしまう。
「そ、……そういうことは聞くなよ」
「わ、分かった、」
シセルの声もまた尻すぼみになっている。
お互いに同じような気持ちを抱えていると分かると、少しだけ緊張が和らいだ。
僕は優しくシセルの肩を押した。まったく抵抗を感じず、シセルはベッドの上に倒れ込んだ。それだけで、全身で受け入れてくれているのを強く感じて、欲が湧き上がってくる。
シセルの着ているシャツのボタンを一つ一つゆっくりと外す。途中、焦れるようにシセルが動いたが、緊張で手が震えて上手くボタンが外せなくなっていた僕はその抗議を無視することにした。
ようやく全てのボタンを外し終わると、唇を這わせようと顔を近づけた。
「あれ……?」
僕はシセルの肌に違和感を感じ、動きを止めた。
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