救世主はいつだってダサいもんだ

一作

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洗練された命。黒い乳首。

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ナナは肩でハアハア息をしていた。真っ黒な銃身から青黒い煙が出ている。火薬の匂いが、あたり一面に立ちこめた。



「お前・・・」膝から血が出ているらしい。足がヌルヌルする。



「ありがとう。」



ナナは浅黒い顔をちょっと赤く染めてひかえめにうなずいた。



「お前それ、どこから持ってきた?」俺は恐る恐る聞いてみた。



「この先に戦死者の墓があるの。そこには闘ってくれた彼らが使っていた武器がたくさん埋蔵されている。」



「そうか。助かったよ。ところで、なぜおまえさんはそんなこと知ってたんだ?」



「だって、埋めたの私たちだから。」ナナは真っ直ぐな眼をした、胸の小さい健康そうな女だった。



「なるほどな。」膝の痛みに顔をしかめながら、俺は来ていた服をちぎって包帯にしようと上着を脱ぎ始めた。



「ひどいケガ。ちょっと待ってて。」ミサトが言う。



そのまま3人に手当てをしてもらった。包帯や消毒薬も、例の墓から仕入れてきたものであるらしい。戦争が終わってまだ数年たったばかりである。用意された消毒薬や包帯はまだ使えるものばかりだった。



「そうだ、犬たちは?」



あたりを見回すと、ほとんどの犬はいなくなっていた。だが、よく目を凝らして見てみると、建物の陰から怨めしそうにこちらをじっと見つめる連中がちらほらいるのが分かった。



ここは危険だ。寝込みに何をされるか、わかったものではない。



「ナナ、その墓とやらに案内してくれ。」



彼女はしなやかにうなずいた。



「ミサトたちは他の女たちに状況を説明して、どこかに隠れておいてくれ。とりあえず、この場所から離れるぞ。」









墓は小高い丘の頂上にあった。狭い面積をなるべくフル活用しようとした努力の痕跡が見受けられる。間隔なく敷き詰められた棹石に、粗末に彫りつけられた名前。「小野寺 蓮」という名前や、「荻根沢 裕也」などという名前が目に入った。ほとんどの名前は男のものであった。



「ここよ。」ナナは墓場の隅っこに建ててある、非常に粗末な掘っ立て小屋に案内してくれた。



なるほど。これはすごい。おれはため息をついた。見渡す限りの銃や、手榴弾、ライフルなどの古典的な武器に加え、俺がついぞ目にしたことも無いような新しい武器が大量に置いてある。俺はその中の一つ、妙に重い真鍮製の球を手に取ってみた。



「それはダメ。危険よ。それは小型原爆で、ある一定のリズムで振動を与えると爆発する。それだけ小さくても町一つ破壊できるくらいの威力は持ってるわ。」



びっくりだ。そんなヤバい武器が、まるで小学校の体育館倉庫にあるバスケットボールみたいに無造作に積み上げられている。そりゃ、男が全員死ぬわけだ。やってることが残虐すぎるよ。



「この中で、動物どもを退治したり、狩りに使えそうなものを人数分持っていくぞ。小型原爆は無しだ。ここに置いていく。お前、持てるか?」



ナナはうなずいた。



とりあえず俺たちは武器の選別を行った。選ばれたのは、軽めのピストル6丁に、それの銃弾300発ほど。ナナは先ほど闘犬の頭をぶち抜いたライフルを持っていくという。俺は手にずっしりとくる銀色のハンドガンを持っていこうとしたが、ナナに止められた。



「あんた、銃持ったことないでしょ?これにしときな。」手渡されたのはさっき選んだ軽めのピストルよりもちょいと重めのハンドガンだった。



俺が選んだ銀色のハンドガンはあまりにも反動が強く、実戦には到底向かないのだという。なるほど、納得である。



ナナはいろんな話をしてくれた。戦前、彼女は自衛隊員をしていたのだという。俺が派遣社員やってたあの豊かな時代、周りの同級生がみんな大学に進学するのを尻目に、彼女は高卒で陸上自衛官に志願した。戦争にも、もちろん駆り出された。だが彼女は生き残った。その天才的な射撃の才能が国に買われて、彼女は最前線で闘う兵士の仲間には入れてもらえなかったのだという。主に遠くにいる重要人物を暗殺するスパイ兵として彼女は活動していた。女性という性を活かして、いろんな黒いミッションに参加したことがあるらしい。



「世界にはいろんな人がいた。唸るほどお金を持ってる人とも、脛から火を取るぐらい貧しい人とも関わってきたけど、本質はみんな同じね。みんな、生きていたいだけ。」彼女は言った。



「おかしいな。俺が派遣社員やってた時代には、死に場所を求めて彷徨ってる人間もたくさんいたぞ。」俺は言った。



「甘えているのよ。誰かが贅沢したりすると、私もできるはずだ、その権利はあるはずだって、誤解する。みんな一緒だって教えられてきてるから。でも、それは間違いよ。人間にはどうしようもないほどの差があるものよ。男も女もそうだわ。越えられないものだってあるし、どうしてもできないことだってある。それを無視して、お前にもできるはずだ、夢はかなうんだ、なんて無責任に洗脳するから、思い描いた未来と現実とのギャップに苦しむ羽目になる。まず初めにぶっ叩いて育てるべきだったのよ。お前は馬鹿だから、お前は体が弱いから、それ相応で生きていけるようにしろ。馬鹿な夢は見るなってね。それが人間にとって一番健康的なやり方なのよ。宗教だって、そのためにあるのよ。」

彼女は言った。気がつくと俺の手を握っていた。



彼女の乾いた唇に口づけをする。屈強かつ洗練された人格を持っているはずの彼女だが、俺の腕の中では水に溶ける食塩のように柔らかくもろもろと崩れていった。その輪郭が美しく崩壊し、最後に残った核には灼熱の炎が盛っている。黒色の乳首を舐めると、似つかわしくない可愛らしい喘ぎ声をあげる。まるで声を出すのをこらえているような、くぐもった喜悦の迸りに、俺の息子は張り裂けんばかりにその果肉を迎え入れた。どくどくと流れる白濁した液体が、彼女の王宮の中に居座り、やがて一人の希望、新たな歴史の始まりを生み出すことを願って・・・



「行きましょう。あの子たちが待ってるわ。」事が終わると彼女はあっさりと服を着て、ピストルを持った。



「そうだ、救急箱も必要だろ、持っていこう。どこにあるんだ?」俺は言った。



「ああ、それならもうミサトちゃんが持ってるわよ。」彼女は振り返らずに言った。









6人の女たちは教会の中にいた。錆びついたイエス・キリスト像が俺たち二人を迎え入れる。まっさきにミサトが駆け寄ってきた。



「大丈夫?ひどいケガだから、早く休んでね。」



俺はミサトの頬に軽くキスをすると、すぐに近くの長椅子に寝ころんだ。その様子を、キョウカがじっと眺めていた。
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