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ババ様の復讐
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女の名はミサトといった。唇が愛らしく膨らんでおり、外国のぬいぐるみみたいな可愛らしい見た目をしていた。
「俺は20年前の世界から、今のこの世界を救うために送られてきた男だ。」
ミサトは恥ずかしそうに顔を俯いていた。処女喪失の羞恥と安堵がこの娘の小さな心に立ち込めているようだった。
「とにかく話してくれ。お前たちはいったいどのように暮らしているんだ?今、女は何人いる?」
「わ・・・わたしたちは、その、ただ寄り集まって暮らしているだけです。ほとんどの人は死にました。ここに残っている人は、自分の親戚や友達にサバイバルに詳しくて自然の中でも生きていける人がいて、運よくその人についていくことができた人たちばかりです。」
「若い女は何人いるんだ?」
「6人でしょうか。中年の人たちが15人ほどいます。あとは高齢のおばあさんたちばかりで、全部で50人がここで生活しています。」
「なるほど。50人しかいないのか。これは思ったよりもよっぽどひどい状況になってるらしいな・・・」
ミサトは澄んだ目を潤ませて俺を見た。
「ここに住んでいるのは50人ですが、日本中のあちこちに数十人くらいの集落があります。女どうしがたくさん寄り集まって住むと、必ずイジメやイザコザが起こるので、住み分けることにしたのです。」
「日本人の女は全部で何人くらい生き残っているんだ?」
「1000人程度しかいません。そのほかの女は、みんな病気や飢えで死んでしまいました。」
俺の生きていた時代、ただでさえ健康な若い女よりもオバアチャンのほうが多い状態だったのだからそれはそうだろう。
「指揮系統はどうなってる?お前たちの中には長老みたいな役職の女がいるだろう?」
「はい。ババ様と言って、御年87歳になるおばあ様が私たちの集落を牛耳っています。ホントに厳しい人で、私たち若い女は毎日牛のようにこき使われて苦しい。たすけてください。うっ・・・。」
うるうるした眼で俺に助けを求めてくる。俺を頼りにしてくれる若くて可愛い女。その秋波に耐え切れず、俺は彼女の言葉が終わらないうちにまた唇を奪ってしまった。
「いいか。」俺は言った。
「まずはそのババ様とかいうのに会わせろ。」
俺とミサトは2人連れ立って再び皇居の門を叩いた。ミサトはずっと一人で顔を俯いて「殺される・・・」とかなんとか呟いていた。どうしたんだ?と聞いてみても首をウンウン横に振るだけで何も教えてくれない。
「おい、ババ様とかいうのを出してくれ!」
見張り所に立つオバハンは俺の顔を見ると卒倒しそうなくらい泡を吹いた。
「お、おtこ・・・」
「俺は過去の世界からやってきた。人間を絶滅させないために。ここの集落の一番偉いやつと話がしたい。『ババ様』とかいうのはどこにいる?」
オバハンはすぐに見張り所から出て、奥の方へと走っていく。
やがてカラカラカラ、と台車の車輪が転がる音がした。ババ様とやらの登場だ。
「あんたは男なのかえ?」
長い白髪をきれいなお団子に整え、雪のような白髪にはたくさんの飾り物がついている。この時代においてはもはや一切の価値がないであろうシャネルかなんかのコートを羽織り、すべての指に指輪を嵌めている。なにやら荘厳な雰囲気を身にまとってはいるが、そこかしこに胡散臭さを感じる。「もののけ姫」に出て来る、アシタカを追い出したババアみたいな奴だ。
「俺は男だ。過去の世界で、ある人に依頼されてお前たち女を救いに来た。俺が来たからにはもう安心していい。人類の、日本人の存続はもう大丈夫だ。さあ、子どもをつくろう。」
「ちょっと待ちなよ。あんた、急にきて何を言い出すんだい?子どもをつくる?ああ確かに、うちの孫は戦争で死んだ。ここにいるものはほとんど、息子や夫を戦争で失くした者ばかりだ。あんた、ハーレムを期待してるだろ?うちの女たちはあんたなんかに興味ないよ。」
沈黙が走る。
「どういうことだ?何を言ってるんだ、お前は?」
「あんたなんか必要ないんだよ。私がいろいろ指導してやったおかげでこの子たちは池で魚を獲り、山菜を探して食べ、鳥を撃って毛皮をはいで生きていくことを覚えた。そんな私が言う。この世界に、もう、人間なんか必要ない。」
「ちょ・・・お前・・・」
俺が何か言おうとしたとき、中年のオバハンたちが刃物を持って現れた。
「さあ、出て行っておくれ。ここにあんたの居場所はない。」
こうなるともう黙っちゃいられない。俺は腰に差さっているジジイからもらったナイフを抜くと、オバハンたちを脅しつけながらこう言った。
「俺が必要ない、だと?残念だな。悪いがそんな扱いにはもう慣れてんだよ。てめえらが息子や夫抱えて生きていたころから、散々俺のこと無視しやがって。俺もてめえらには用はない。俺が必要としているのは、てめえらみたいな年増女じゃねえ、子どもが産める若い女だ。ミサト!」
俺は振り返った。が、ミサトはいない。すぐに前を向くと、さるぐつわを嵌められ両手両足を縛り上げられたミサトがババアどもに連れ去られようとしているのが見えた。
「ミサト!!!!」
俺は目の前で刃物を振りかざすオバハンの足を思いっきり蹴り上げた。きゃあああああああという金切り声が上がる。
「おのれ女に手を出すとは。おい、あんたら、こいつ殺っちまいな!」
ババ様は後ろにわんさかいるオバハン軍団の方を向き、俺を指さして攻撃を指図した。
ババア。ババア。ババア。目を開けても閉じてもババア。上を見ても下を見てもババア。押し寄せてくるババア40人の軍団はなかなか手強かった。女でも集団で来られるとやはり恐ろしい。さらにこいつらは普段から魚を獲ったり肉体労働をしたりとかなり鍛えられているようで、いくらぶん殴っても次から次へと湧いてきやがる。人殺しはしたくない。ババアどももこの世界で生き残った大切な仲間の一人なのだから。
殴る。殴る。殴る。ババアをひたすら殴り、ようやく一息つけそうになって前の方を向いたとき、俺は自分の目を疑った。
ババ様が、ミサトの首を斬ろうとしている。
「ミサト!!!!いま、行くからな!」
俺はジジイのナイフを振りかざしてババ様に切りかかった。
「俺は20年前の世界から、今のこの世界を救うために送られてきた男だ。」
ミサトは恥ずかしそうに顔を俯いていた。処女喪失の羞恥と安堵がこの娘の小さな心に立ち込めているようだった。
「とにかく話してくれ。お前たちはいったいどのように暮らしているんだ?今、女は何人いる?」
「わ・・・わたしたちは、その、ただ寄り集まって暮らしているだけです。ほとんどの人は死にました。ここに残っている人は、自分の親戚や友達にサバイバルに詳しくて自然の中でも生きていける人がいて、運よくその人についていくことができた人たちばかりです。」
「若い女は何人いるんだ?」
「6人でしょうか。中年の人たちが15人ほどいます。あとは高齢のおばあさんたちばかりで、全部で50人がここで生活しています。」
「なるほど。50人しかいないのか。これは思ったよりもよっぽどひどい状況になってるらしいな・・・」
ミサトは澄んだ目を潤ませて俺を見た。
「ここに住んでいるのは50人ですが、日本中のあちこちに数十人くらいの集落があります。女どうしがたくさん寄り集まって住むと、必ずイジメやイザコザが起こるので、住み分けることにしたのです。」
「日本人の女は全部で何人くらい生き残っているんだ?」
「1000人程度しかいません。そのほかの女は、みんな病気や飢えで死んでしまいました。」
俺の生きていた時代、ただでさえ健康な若い女よりもオバアチャンのほうが多い状態だったのだからそれはそうだろう。
「指揮系統はどうなってる?お前たちの中には長老みたいな役職の女がいるだろう?」
「はい。ババ様と言って、御年87歳になるおばあ様が私たちの集落を牛耳っています。ホントに厳しい人で、私たち若い女は毎日牛のようにこき使われて苦しい。たすけてください。うっ・・・。」
うるうるした眼で俺に助けを求めてくる。俺を頼りにしてくれる若くて可愛い女。その秋波に耐え切れず、俺は彼女の言葉が終わらないうちにまた唇を奪ってしまった。
「いいか。」俺は言った。
「まずはそのババ様とかいうのに会わせろ。」
俺とミサトは2人連れ立って再び皇居の門を叩いた。ミサトはずっと一人で顔を俯いて「殺される・・・」とかなんとか呟いていた。どうしたんだ?と聞いてみても首をウンウン横に振るだけで何も教えてくれない。
「おい、ババ様とかいうのを出してくれ!」
見張り所に立つオバハンは俺の顔を見ると卒倒しそうなくらい泡を吹いた。
「お、おtこ・・・」
「俺は過去の世界からやってきた。人間を絶滅させないために。ここの集落の一番偉いやつと話がしたい。『ババ様』とかいうのはどこにいる?」
オバハンはすぐに見張り所から出て、奥の方へと走っていく。
やがてカラカラカラ、と台車の車輪が転がる音がした。ババ様とやらの登場だ。
「あんたは男なのかえ?」
長い白髪をきれいなお団子に整え、雪のような白髪にはたくさんの飾り物がついている。この時代においてはもはや一切の価値がないであろうシャネルかなんかのコートを羽織り、すべての指に指輪を嵌めている。なにやら荘厳な雰囲気を身にまとってはいるが、そこかしこに胡散臭さを感じる。「もののけ姫」に出て来る、アシタカを追い出したババアみたいな奴だ。
「俺は男だ。過去の世界で、ある人に依頼されてお前たち女を救いに来た。俺が来たからにはもう安心していい。人類の、日本人の存続はもう大丈夫だ。さあ、子どもをつくろう。」
「ちょっと待ちなよ。あんた、急にきて何を言い出すんだい?子どもをつくる?ああ確かに、うちの孫は戦争で死んだ。ここにいるものはほとんど、息子や夫を戦争で失くした者ばかりだ。あんた、ハーレムを期待してるだろ?うちの女たちはあんたなんかに興味ないよ。」
沈黙が走る。
「どういうことだ?何を言ってるんだ、お前は?」
「あんたなんか必要ないんだよ。私がいろいろ指導してやったおかげでこの子たちは池で魚を獲り、山菜を探して食べ、鳥を撃って毛皮をはいで生きていくことを覚えた。そんな私が言う。この世界に、もう、人間なんか必要ない。」
「ちょ・・・お前・・・」
俺が何か言おうとしたとき、中年のオバハンたちが刃物を持って現れた。
「さあ、出て行っておくれ。ここにあんたの居場所はない。」
こうなるともう黙っちゃいられない。俺は腰に差さっているジジイからもらったナイフを抜くと、オバハンたちを脅しつけながらこう言った。
「俺が必要ない、だと?残念だな。悪いがそんな扱いにはもう慣れてんだよ。てめえらが息子や夫抱えて生きていたころから、散々俺のこと無視しやがって。俺もてめえらには用はない。俺が必要としているのは、てめえらみたいな年増女じゃねえ、子どもが産める若い女だ。ミサト!」
俺は振り返った。が、ミサトはいない。すぐに前を向くと、さるぐつわを嵌められ両手両足を縛り上げられたミサトがババアどもに連れ去られようとしているのが見えた。
「ミサト!!!!」
俺は目の前で刃物を振りかざすオバハンの足を思いっきり蹴り上げた。きゃあああああああという金切り声が上がる。
「おのれ女に手を出すとは。おい、あんたら、こいつ殺っちまいな!」
ババ様は後ろにわんさかいるオバハン軍団の方を向き、俺を指さして攻撃を指図した。
ババア。ババア。ババア。目を開けても閉じてもババア。上を見ても下を見てもババア。押し寄せてくるババア40人の軍団はなかなか手強かった。女でも集団で来られるとやはり恐ろしい。さらにこいつらは普段から魚を獲ったり肉体労働をしたりとかなり鍛えられているようで、いくらぶん殴っても次から次へと湧いてきやがる。人殺しはしたくない。ババアどももこの世界で生き残った大切な仲間の一人なのだから。
殴る。殴る。殴る。ババアをひたすら殴り、ようやく一息つけそうになって前の方を向いたとき、俺は自分の目を疑った。
ババ様が、ミサトの首を斬ろうとしている。
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