6 / 14
ジジイの笑える過去
しおりを挟む
「お前、まさか・・・」俺は言った。
「そう、そのまさかだ。」ジジイの声がする。
「今お前が見ていたのは、いまから20年後の世界。男たちはみな死に絶え、わずかばかり生き残った女たちが細々と自然の中でくらしている、そんな時代だ。」
「おい、文明は?スマホは?飛行機は?どうなっちゃうんだ?」
「全部消えた。最後の最後まで、自分たちが作り出したありとあらゆるものを使って、男たちは闘った。最後に残った2人は錆びたフライパンとキーボードで殴り合っていたらしいな。」
「嘘だろ。信じられん。20年なんてあっという間じゃないか。こんなに、こんなに世界は変わってしまうのか?」
「もちろんそうだ。わずか1年、いや1か月あれば世界は変わる。俺たちはさ、実のところ時の流れという川の中であっちへ泳いだりこっちへ泳いだりしては、たまに流れてくる金の流木みたいなものをつかみ取ろうとあっぷあっぷしてるだけなんだ。」
「・・・・」
「ショックだったか?まあでも、お前ならあの世界でも生きていけるはずだ。いいか、見れば分かるだろうが、女たちは困っている。彼女たちにとって、男は必要なんだ。女の力だけでは木の実や魚しか獲れない。狩りができる女は生き残った者のうちホントに少数だけだ。今に人類は滅亡しちまう。お前が行って、人類の未来を作るんだ。」
「おれが・・・」
「いいか。これからすぐ出かけてもらう。お前の行先は、20年後の『東京』だった場所だ。さっきの地下室に来い。出発だ。」
俺が、俺が救うのか・・・。人類を・・・。
それにしても、今まで俺が積み上げてきた人生はなんだったのだろう?毎日仕事に行っては、夜家に帰って一人でシコるのだけを楽しみにして生きてきた。とにかく生きていくのが精一杯。飲み屋で周りの連中が、家族との関係がどうとか、嫁と仲が悪いとか話しているのを聞くたびになんだか自分が森の中で一人遭難しているような、たった一人で取り残されているような、えもいわれぬ悲しみを感じて一人で酒を飲んでいた。涙をこらえて飲むビールは妙に美味い。胃と肝臓が悲鳴を上げる。それでも俺は呑んだ。帰ってAV見てシコって寝た。それが俺の毎日だった。
すこしでも自分の未来について考えると死にたくなるので、俺は考えることを一切やめていた。楽しみは、涙をこらえて飲むスーパードライ、帰ったあとのAV鑑賞、たまに呼ぶデリヘル。どうしようもない人生だった。
地下室への階段を下りながら俺は考える。あのジジイ、いったい何者なんだろう?でもあいつのおかげで俺の人生はこれからめちゃくちゃ面白くなりそうだ。危険?もはや死んだっていい。俺は現在すでに生きながら死んでいるのだから。
ドアを開けるとまぶしい光が目に飛び込んでくる。サングラスをつけて俺は地下室に入った。
ジジイがいた。スパナを一生懸命動かして、タイム・マシンらしき球体の内部の装置をいじくっている。
「おい、ジジイ。」俺は声をかけた。
「この明るさはなんだ?」
「これはタイム・ストーンの微粒子だ。さっきお前に見せてやっただろう?こいつの微粒子が漂っている空間には、微粒子同士のブラウン運動がワームホールの4次元エネルギーと共鳴して超次元への移動を可能にさせるファイバー電磁波が起こる。こいつに毎秒1.9MJの磁気旋風を巻き起こしてやると、ワームホールが開いて俺たちを未来や過去に連れて行ってくれるっていう寸法だ。」
「・・・」
「ま、でもその辺の話はどうでもいいわな。お前はただ行って射精をしまくればいい。それだけだったら、まあ難しくはないわな。」
ジジイはムフムフ笑っている。
「なあ、ジジイ・・」
「なんだ?」
「なんで俺を選んだんだ?」
一瞬、ジジイは動きを止めた。
「さあな。」虚空を見つめながらジジイは答える。
「まあ、理由なんてないか。そんなもんだよな。うまくいったって落ちぶれたって、人生どんな風が吹こうが、そこに理由なんてない。そうでも思わねえと、生きていけねえわな。」俺は言った。
「お前はな、似てたんだ。」
「誰に?」
「昔の・・・俺に。」
フフッ。ふはははははははは。ふいに俺は笑ってしまった。
「何がおかしい?」ジジイもまたニヤニヤしていた。
「だってお前、財閥の息子なんだろ?なんで俺みたいに冴えない過去持ってんだ?お前なんて女も抱き放題だし、飯だって食い放題だったんだろ?」
「まあな。俺は運がよかった。たくさん勉強させてもらったし、カネに困ったことも一度もない。だがな・・・」
ジジイは言った。
「俺は、女が好きじゃないんだ。」
どこか遠くを見つめているジジイの顔が、タイム・ストーンの微粒子に照らされて赤ん坊みたいにてらてら光った。
「お前、でも孫いるんじゃなかったのか?」
「あれは、養子だ。」
ジジイは言った。
「だから、お前さんに頼みたいんだ。俺にはお前さんができることができない。お前さんは、俺にできることができない。俺たちは名コンビってわけだ。」ジジイは言った。
このクソジジイめ。
やってやろうじゃねえか。
「そう、そのまさかだ。」ジジイの声がする。
「今お前が見ていたのは、いまから20年後の世界。男たちはみな死に絶え、わずかばかり生き残った女たちが細々と自然の中でくらしている、そんな時代だ。」
「おい、文明は?スマホは?飛行機は?どうなっちゃうんだ?」
「全部消えた。最後の最後まで、自分たちが作り出したありとあらゆるものを使って、男たちは闘った。最後に残った2人は錆びたフライパンとキーボードで殴り合っていたらしいな。」
「嘘だろ。信じられん。20年なんてあっという間じゃないか。こんなに、こんなに世界は変わってしまうのか?」
「もちろんそうだ。わずか1年、いや1か月あれば世界は変わる。俺たちはさ、実のところ時の流れという川の中であっちへ泳いだりこっちへ泳いだりしては、たまに流れてくる金の流木みたいなものをつかみ取ろうとあっぷあっぷしてるだけなんだ。」
「・・・・」
「ショックだったか?まあでも、お前ならあの世界でも生きていけるはずだ。いいか、見れば分かるだろうが、女たちは困っている。彼女たちにとって、男は必要なんだ。女の力だけでは木の実や魚しか獲れない。狩りができる女は生き残った者のうちホントに少数だけだ。今に人類は滅亡しちまう。お前が行って、人類の未来を作るんだ。」
「おれが・・・」
「いいか。これからすぐ出かけてもらう。お前の行先は、20年後の『東京』だった場所だ。さっきの地下室に来い。出発だ。」
俺が、俺が救うのか・・・。人類を・・・。
それにしても、今まで俺が積み上げてきた人生はなんだったのだろう?毎日仕事に行っては、夜家に帰って一人でシコるのだけを楽しみにして生きてきた。とにかく生きていくのが精一杯。飲み屋で周りの連中が、家族との関係がどうとか、嫁と仲が悪いとか話しているのを聞くたびになんだか自分が森の中で一人遭難しているような、たった一人で取り残されているような、えもいわれぬ悲しみを感じて一人で酒を飲んでいた。涙をこらえて飲むビールは妙に美味い。胃と肝臓が悲鳴を上げる。それでも俺は呑んだ。帰ってAV見てシコって寝た。それが俺の毎日だった。
すこしでも自分の未来について考えると死にたくなるので、俺は考えることを一切やめていた。楽しみは、涙をこらえて飲むスーパードライ、帰ったあとのAV鑑賞、たまに呼ぶデリヘル。どうしようもない人生だった。
地下室への階段を下りながら俺は考える。あのジジイ、いったい何者なんだろう?でもあいつのおかげで俺の人生はこれからめちゃくちゃ面白くなりそうだ。危険?もはや死んだっていい。俺は現在すでに生きながら死んでいるのだから。
ドアを開けるとまぶしい光が目に飛び込んでくる。サングラスをつけて俺は地下室に入った。
ジジイがいた。スパナを一生懸命動かして、タイム・マシンらしき球体の内部の装置をいじくっている。
「おい、ジジイ。」俺は声をかけた。
「この明るさはなんだ?」
「これはタイム・ストーンの微粒子だ。さっきお前に見せてやっただろう?こいつの微粒子が漂っている空間には、微粒子同士のブラウン運動がワームホールの4次元エネルギーと共鳴して超次元への移動を可能にさせるファイバー電磁波が起こる。こいつに毎秒1.9MJの磁気旋風を巻き起こしてやると、ワームホールが開いて俺たちを未来や過去に連れて行ってくれるっていう寸法だ。」
「・・・」
「ま、でもその辺の話はどうでもいいわな。お前はただ行って射精をしまくればいい。それだけだったら、まあ難しくはないわな。」
ジジイはムフムフ笑っている。
「なあ、ジジイ・・」
「なんだ?」
「なんで俺を選んだんだ?」
一瞬、ジジイは動きを止めた。
「さあな。」虚空を見つめながらジジイは答える。
「まあ、理由なんてないか。そんなもんだよな。うまくいったって落ちぶれたって、人生どんな風が吹こうが、そこに理由なんてない。そうでも思わねえと、生きていけねえわな。」俺は言った。
「お前はな、似てたんだ。」
「誰に?」
「昔の・・・俺に。」
フフッ。ふはははははははは。ふいに俺は笑ってしまった。
「何がおかしい?」ジジイもまたニヤニヤしていた。
「だってお前、財閥の息子なんだろ?なんで俺みたいに冴えない過去持ってんだ?お前なんて女も抱き放題だし、飯だって食い放題だったんだろ?」
「まあな。俺は運がよかった。たくさん勉強させてもらったし、カネに困ったことも一度もない。だがな・・・」
ジジイは言った。
「俺は、女が好きじゃないんだ。」
どこか遠くを見つめているジジイの顔が、タイム・ストーンの微粒子に照らされて赤ん坊みたいにてらてら光った。
「お前、でも孫いるんじゃなかったのか?」
「あれは、養子だ。」
ジジイは言った。
「だから、お前さんに頼みたいんだ。俺にはお前さんができることができない。お前さんは、俺にできることができない。俺たちは名コンビってわけだ。」ジジイは言った。
このクソジジイめ。
やってやろうじゃねえか。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
LIMIT
せんのあすむ
SF
感染すると十八時間後には必ず死に至るP-サリダ菌。
抗体開発中に感染してしまった友人を救うため、エミリオは自身が開発したタイムマシンで薬の完成している
五十年後へ向かう。
こちらも母が遺した短編SFです。ただ、学生時代から何度も手直しして書いてたものらしいので、表現や設定が古かったり現代の解釈に合わないものがあったりするかもしれません。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる