救世主はいつだってダサいもんだ

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男たちの消えた世界。マジパねえ。

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シャンデリアがきらきら、きらきら。壁にあるロウソクの炎は揺らぎもせずにたたずんでいた。



「お疲れさん。まあ、とりあえずゆっくり休めや。」



聞き覚えのある声がした。あのジジイの声だ。姿は見えない。どこにいやがる?



腕には包帯が巻かれている。あれだ、ライオンに噛まれて怪我したところだ。さっきまで動かすとジクジク痛んでたのに、今は痛くも痒くもない。どうやらジジイがうまく治療してくれたらしい。



「おい!どこにいるんだ?」



ジジイを呼んでみる。



「わしはさっきお前さんに見せたタイム・マシンの部屋にいるよ。どうだ、身体の具合は?ライオン怖かっただろう。しかしお前さんもなかなかやるじゃないか。わずか数日であのような過酷な環境に慣れるとは。見直したぜ。お前さんには才能がある。決めたぜ。ぜひとも救世主になって欲しいね。」



「訳も分からねえままあんなところにほっぽり出しやがって。ナイフ持たしてくれるって言ってたくせに何一つ持たしてくれねえし、おまけにハナっから素っ裸で放り出しやがった。マジで死ぬかと思ったぜ。」



「フハハハ、どうだ?わしの開発したバーチャルワールドは?」



ん?今コイツなんて言った?バーチャルワールドって言ったか?



「まさか俺が飛んでたあの世界って・・・」



「そう、全部ニセの世界だ。あれはお前さんに超リアルな夢を見させていたのさ。どうだい?俺の見せた夢は。なかなか刺激的で面白かっただろう?」



「ってことは、あのライオンも、この包帯も・・・」



俺はすぐさま包帯をビリビリに破った。すると、あんなに鋭い牙に噛まれたはずの俺の腕には、かすり傷一つありゃしなかった。全部、全部嘘だったのか!



このジジイ、とんでもねえ野郎だ。ワクワクしてきたぜ。



「でも、いいのか?俺はたしかに仮想世界の中では生き残れたかもしれん。でも、俺が行くのはマジでリアルな荒野なんだろ?」



「ああ、いいのさ。大丈夫だ。」



「いやホントかよ。」



「あのな、俺のバーチャル世界を舐めんじゃないよ。お前さんは現実世界の残酷さを十分反映させるどころか、それよりももっと過激にプログラミングして作った仮想世界で、一人でライオンに打ち勝ち、火を焚き、飢えをしのぎ、生き延びた。それだけでお前さんにはもう価値がある。」



価値がある、なんて言われたの初めてだ。



「そうかい。それはどうも。」



「おいおい嬉しいのかい?全くしょうもねえ奴だな。今までどんだけ不遇の人生を送ってきたんだお前さんは。まあいいや。しばらく休んでろ。暇だったらそこにあるVRで映画でも見てろ。俺はもう少しやることがあるんでしばらく地下に籠ることにする。」



ぷつっと音がした。なるほど、この部屋のどこかにスピーカーがあると見える。そいつで俺は地下にいるジジイと会話してたってわけだ。











・・・・暇だ。それにしても、暇である。なにしろ俺はまるで怪我もしてないし、空腹で衰弱しているわけじゃないんだから。今きわめて健康体なのだ。むしろ前よりも太ったぐらいなのだ。それなのに一日中こんな無駄に豪華で退屈な部屋に閉じ込められちゃたまったものではない。俺ももう若くはないが、一日中部屋の中で過ごしてて満足するほどモウロクしちゃいない。



「暇だったらそこにあるVRで映画でも見てろ。」ジジイの言葉を思い出した。



しょうがねえから映画でも見るかってんで、ゴムの匂いがするVRゴーグルをかけた。上の方にスイッチがあったのでそれを押す。すると、見たこともない映像が浮かび上がってきた。



まず最初に見えたのは睾丸であった。バケツいっぱいの睾丸。白いのや、黄色いのがたくさんある。白い玉の上にはなんか雲みたいなうにょうにょした白いやつがくっついている。



睾丸はどんどん運ばれてくる。青いポリバケツいっぱいに積まれた睾丸。運んでいるのは・・・女だ!しかも裸の。20代くらいか。とにかく若い女がそこら中から睾丸を運んでくる。



場面が変わった。川がある。美しい川だ。きれいなエメラルドグリーンの水が流れている。その川のほとりには家がたくさん建ててあった。川に入って水浴びをしている人間がいる。やはりあれも女だ。だが、髪はボサボサで顔も真っ黒だ。まったく外見に気を遣っていないのだろう。男の姿は見えない。女しかいない。彼女たちは素っ裸で川の中に潜っている。そして手づかみで魚をとる。それを川べりで焚いている火で焼いて食っているらしい。まったくもって美しい光景。だが、ここにも睾丸はあったのである。

 女たちが水浴びをしている川のすぐ近くに温泉があった。日本の温泉地でもよく見かけるような白いお湯で、湧き出てきた高温の源泉と川の水がうまく混ざり合うことで適温になっているらしく、そこにも多くの女が入ってわちゃわちゃしていた。すると、年増の女が急に表れ、ずだ袋に入れた睾丸をその温泉の中にぽちゃんぽちゃんと放り込んだ。女たちは嬉々として体をくねらせ、恍惚な表情を浮かべている。喘ぎ始めるものもいた。



また場面が変わった。ここは山の上だろうか。非常に景色がいい場所だ。日本ではないだろう。砂漠に立っている山。なんか祭壇みたいな変な造形物がおいてある。これはアレだ、俺も見たことがあるぞ。男根の形を木彫りにしたご神体。裸石神社だったけ。神戸にある神社に祀られているやつだ。それがここでも祀られている。傍らにはものすごい量の花が生けてあった。何語かわからないが、何かの文字が彫られている。「תקע אותיעם הפרה המלכותית ההיא」だって。さっぱり状況が分からないが、すごくものものしい雰囲気を感じる。



はっとした。これは、いま俺の見ているものは、ジジイの言ってた通り男がみんないなくなって女だけで暮らしている、20年後の地球なのではないか。そうだ、そうにちがいない。男は一人もいなかった。みんな死んでしまったのだ。激しい戦闘、エネルギーの奪い合い。誰だって便利な生活を謳歌したかった。でも石油が足りなかった。新しいエネルギー源も、地上で死ぬほど増え続ける人間をすべて暖めてくれるほど、豊かではなかった。男は闘った。暖かい火と、女たちのために。そして死んでしまったのだ。世界には女しかいないのだ。このままでは人類は滅びる。間違いなく。



「見ているようだな。」

突如、ジジイの声がした。

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