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番外編 アーネストのその後
HAPPY END編 最終話
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「ニーナさんと、結婚させてください!!」
そう言って、俺に頭を下げる青年とニーナ。
ついにこの日が来てしまったのか、と俺はこみ上げる寂しさで固まっている。
ニーナがこの青年、マイクと交際し始めたのは、もう2年近く前になる。
マイクは、ニーナが働き始めるまで手伝いをしていたパン屋の息子だ。
幼い頃は兄妹のようにして育ったが、ニーナが働き始めてから二人の間には距離ができた。
距離ができてから、最初のうちは二人とも何も気にならなかったようだ。
しかし時間が経って、お互いの交友関係が広がって少し成長してから再会した二人は、徐々にお互いに惹かれ始めた。
それから二人が交際し始めるまでには、あまり時間はかからなかった。
そんな二人が交際し始めてしばらく後、大切な愛娘に恋人ができた事を知った俺は酒場で酔い潰れてしまい、ニーナを引き取ってから初めての朝帰りをした。
あの日、最後まで俺のやけ酒に付き合って、酔い潰れた俺を家に泊めてくれたルイスには感謝してもしきれない。
そうして二人は交際を続け、ニーナが19歳になった数日後、こうして結婚の許しをもらいに来たのだ。
ニーナに出会ったのは、彼女が7歳の頃。それから家族として暮らし始めて、もう12年か。
振り返ってみれば、あっという間だ。
これでもう、ニーナの父としての役割も終わりなのか。
「わかった。二人の結婚を認める。」
思ったよりも、ずっと穏やかな声でそう言っていた。
「ありがとうございます!!絶対にニーナを幸せにします!!」
そうはっきりと俺の目をみて宣言するマイクが眩しい。
そして嬉しそうにマイクを見つめるニーナ。
そうか、結婚する二人というのは、こんなにも眩しいものなのか。
在りし日の自分を思い出すのか、胸に苦い想いが広がる。
俺は何もかも間違えていたな。
自嘲気味に笑う俺を見て、ニーナが声をかけてきた。
「父さん、結婚したらマイクの家に引っ越す事になるけど、ここにも毎日顔を見にくるからね!ね?マイク?」
いやいや、嫁いだ娘が毎日実家に顔を出すなんてダメだろう。
「もちろん!うちとアレクさん家はすぐ近くなんだから、当たり前です!そういう約束でプロポーズを受けてもらったんですから!」
マイクの言葉に、俺は驚いてニーナを見る。
なんて事を約束させてるんだ。
「だって、父さんいつまで経っても結婚どころか彼女すら出来ないじゃない?私がいなくなっちゃったら、父さんすぐにどうにかなっちゃいそうなんだもの。父さんを独りぼっちにするくらいなら、結婚なんかしないわよ。」
俺は片手で目元を覆った。
ニーナが俺をどれほど大切に想ってくれているのかが伝わって涙が出てくる。
確かに、ニーナがこの手を離れて幸せになったら、俺はもう用なしだと思っていた。
今度こそ静かにこの世を去ろうかとも・・・。
「父さんってば、泣いてるの?今から泣いてたら、結婚式の時が思いやられるわ。」
そう言って、ニーナが俺の隣に来て背中をさすってくれる。
たくさんの間違いを犯して、彼女たちを苦しめてしまった俺が、こんなにも幸せになって、許されるのだろうか。
もしも許されるのであれば、まだもう少し、ニーナが幸せに暮らす姿を見守らせてほしい。
○○○
「父さん、これまで本当にありがとう。偶然出会った私の事を助けてくれて、娘として大切に育ててくれて。」
もはや力が入らなくなってしまった俺の手を優しく握って、ニーナが声をかけてくれる。
あぁ、本当に、こんなに立派に育って。
ニーナは宣言していたとおり、結婚後も毎日俺の家に顔を出した。
ニーナとマイクは3人の子どもに恵まれたが、その子ども達もよく俺の家にやって来て、懐いてくれた。
『じぃちゃん!』と言って俺に遊んでくれと纏わり付いてきていた可愛い孫達も、ずいぶんと大きくなった。
そして去年、ニーナ達の長女が隣町へと嫁いで行った。あの子の花嫁姿も綺麗だったな。
できれば、もう二人の孫たちが結婚する姿も見届けたかった。
「父さん、私ね、命が助かって最初に父さんを見たときにね、『あぁ、この人は絶対に私の事を守ってくれる。これからはこの人の傍にいれば大丈夫だ。』って思ったんだ。」
そうだったのか・・・。
「不思議でしょ?でも、間違ってなかった。きっと、本当の両親が父さんに私の事を託したのね。」
そうか・・・。
だけど、救われたのは俺の方だったよ。
「私、父さんの娘になれて、本当に幸せよ。」
そう言って、ニーナは涙を流しながら微笑む。
俺も感謝の言葉を贈りたいのに、もう話す事ができない。
せめて、最期は笑顔で別れたい。
「!!!父さん!!!」
○○○
アレク(アーネスト・トルコーダ)
享年73歳。
養女ニーナとその夫、二人の孫に見守られながらその生涯を終えた。
最期は穏やかな微笑みを残して亡くなった。
そう言って、俺に頭を下げる青年とニーナ。
ついにこの日が来てしまったのか、と俺はこみ上げる寂しさで固まっている。
ニーナがこの青年、マイクと交際し始めたのは、もう2年近く前になる。
マイクは、ニーナが働き始めるまで手伝いをしていたパン屋の息子だ。
幼い頃は兄妹のようにして育ったが、ニーナが働き始めてから二人の間には距離ができた。
距離ができてから、最初のうちは二人とも何も気にならなかったようだ。
しかし時間が経って、お互いの交友関係が広がって少し成長してから再会した二人は、徐々にお互いに惹かれ始めた。
それから二人が交際し始めるまでには、あまり時間はかからなかった。
そんな二人が交際し始めてしばらく後、大切な愛娘に恋人ができた事を知った俺は酒場で酔い潰れてしまい、ニーナを引き取ってから初めての朝帰りをした。
あの日、最後まで俺のやけ酒に付き合って、酔い潰れた俺を家に泊めてくれたルイスには感謝してもしきれない。
そうして二人は交際を続け、ニーナが19歳になった数日後、こうして結婚の許しをもらいに来たのだ。
ニーナに出会ったのは、彼女が7歳の頃。それから家族として暮らし始めて、もう12年か。
振り返ってみれば、あっという間だ。
これでもう、ニーナの父としての役割も終わりなのか。
「わかった。二人の結婚を認める。」
思ったよりも、ずっと穏やかな声でそう言っていた。
「ありがとうございます!!絶対にニーナを幸せにします!!」
そうはっきりと俺の目をみて宣言するマイクが眩しい。
そして嬉しそうにマイクを見つめるニーナ。
そうか、結婚する二人というのは、こんなにも眩しいものなのか。
在りし日の自分を思い出すのか、胸に苦い想いが広がる。
俺は何もかも間違えていたな。
自嘲気味に笑う俺を見て、ニーナが声をかけてきた。
「父さん、結婚したらマイクの家に引っ越す事になるけど、ここにも毎日顔を見にくるからね!ね?マイク?」
いやいや、嫁いだ娘が毎日実家に顔を出すなんてダメだろう。
「もちろん!うちとアレクさん家はすぐ近くなんだから、当たり前です!そういう約束でプロポーズを受けてもらったんですから!」
マイクの言葉に、俺は驚いてニーナを見る。
なんて事を約束させてるんだ。
「だって、父さんいつまで経っても結婚どころか彼女すら出来ないじゃない?私がいなくなっちゃったら、父さんすぐにどうにかなっちゃいそうなんだもの。父さんを独りぼっちにするくらいなら、結婚なんかしないわよ。」
俺は片手で目元を覆った。
ニーナが俺をどれほど大切に想ってくれているのかが伝わって涙が出てくる。
確かに、ニーナがこの手を離れて幸せになったら、俺はもう用なしだと思っていた。
今度こそ静かにこの世を去ろうかとも・・・。
「父さんってば、泣いてるの?今から泣いてたら、結婚式の時が思いやられるわ。」
そう言って、ニーナが俺の隣に来て背中をさすってくれる。
たくさんの間違いを犯して、彼女たちを苦しめてしまった俺が、こんなにも幸せになって、許されるのだろうか。
もしも許されるのであれば、まだもう少し、ニーナが幸せに暮らす姿を見守らせてほしい。
○○○
「父さん、これまで本当にありがとう。偶然出会った私の事を助けてくれて、娘として大切に育ててくれて。」
もはや力が入らなくなってしまった俺の手を優しく握って、ニーナが声をかけてくれる。
あぁ、本当に、こんなに立派に育って。
ニーナは宣言していたとおり、結婚後も毎日俺の家に顔を出した。
ニーナとマイクは3人の子どもに恵まれたが、その子ども達もよく俺の家にやって来て、懐いてくれた。
『じぃちゃん!』と言って俺に遊んでくれと纏わり付いてきていた可愛い孫達も、ずいぶんと大きくなった。
そして去年、ニーナ達の長女が隣町へと嫁いで行った。あの子の花嫁姿も綺麗だったな。
できれば、もう二人の孫たちが結婚する姿も見届けたかった。
「父さん、私ね、命が助かって最初に父さんを見たときにね、『あぁ、この人は絶対に私の事を守ってくれる。これからはこの人の傍にいれば大丈夫だ。』って思ったんだ。」
そうだったのか・・・。
「不思議でしょ?でも、間違ってなかった。きっと、本当の両親が父さんに私の事を託したのね。」
そうか・・・。
だけど、救われたのは俺の方だったよ。
「私、父さんの娘になれて、本当に幸せよ。」
そう言って、ニーナは涙を流しながら微笑む。
俺も感謝の言葉を贈りたいのに、もう話す事ができない。
せめて、最期は笑顔で別れたい。
「!!!父さん!!!」
○○○
アレク(アーネスト・トルコーダ)
享年73歳。
養女ニーナとその夫、二人の孫に見守られながらその生涯を終えた。
最期は穏やかな微笑みを残して亡くなった。
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こんな結末も、たまにはいいよねって思っていただけていれば嬉しいです!
読みに来ていただいてありがとうございました(*^^*)
アーネストのHappy End⋯泣けた(๑°̧̧̧ㅿ°̧̧̧๑)
アーネストにとってニーナとの生活は、幸せだけどニーナが結婚したら終わる期限付きと思っていたからこそ結婚後も自分の元へと来てくれるニーナや孫のおかげでやっと幸せが落ち着けた感じですね(*´ ∀ `)
感想ありがとうございます!
涙を誘えたとは、嬉しいかぎりです!
そうですね、アーネストは余生を静かにと思っていたのですが、ニーナ達のおかげで予想よりもかなり長生きしました(*^^*)
番外編、読みに来ていただいてありがとうございました(*^^*)