契約結婚~彼には愛する人がいる~

よしたけ たけこ

文字の大きさ
上 下
44 / 44
番外編 アーネストのその後

HAPPY END編 最終話

しおりを挟む
「ニーナさんと、結婚させてください!!」


そう言って、俺に頭を下げる青年とニーナ。

ついにこの日が来てしまったのか、と俺はこみ上げる寂しさで固まっている。

ニーナがこの青年、マイクと交際し始めたのは、もう2年近く前になる。
マイクは、ニーナが働き始めるまで手伝いをしていたパン屋の息子だ。
幼い頃は兄妹のようにして育ったが、ニーナが働き始めてから二人の間には距離ができた。

距離ができてから、最初のうちは二人とも何も気にならなかったようだ。
しかし時間が経って、お互いの交友関係が広がって少し成長してから再会した二人は、徐々にお互いに惹かれ始めた。

それから二人が交際し始めるまでには、あまり時間はかからなかった。

そんな二人が交際し始めてしばらく後、大切な愛娘に恋人ができた事を知った俺は酒場で酔い潰れてしまい、ニーナを引き取ってから初めての朝帰りをした。
あの日、最後まで俺のやけ酒に付き合って、酔い潰れた俺を家に泊めてくれたルイスには感謝してもしきれない。

そうして二人は交際を続け、ニーナが19歳になった数日後、こうして結婚の許しをもらいに来たのだ。
ニーナに出会ったのは、彼女が7歳の頃。それから家族として暮らし始めて、もう12年か。

振り返ってみれば、あっという間だ。
これでもう、ニーナの父としての役割も終わりなのか。


「わかった。二人の結婚を認める。」


思ったよりも、ずっと穏やかな声でそう言っていた。


「ありがとうございます!!絶対にニーナを幸せにします!!」


そうはっきりと俺の目をみて宣言するマイクが眩しい。
そして嬉しそうにマイクを見つめるニーナ。

そうか、結婚する二人というのは、こんなにも眩しいものなのか。

在りし日の自分を思い出すのか、胸に苦い想いが広がる。
俺は何もかも間違えていたな。

自嘲気味に笑う俺を見て、ニーナが声をかけてきた。

「父さん、結婚したらマイクの家に引っ越す事になるけど、ここにも毎日顔を見にくるからね!ね?マイク?」


いやいや、嫁いだ娘が毎日実家に顔を出すなんてダメだろう。


「もちろん!うちとアレクさん家はすぐ近くなんだから、当たり前です!そういう約束でプロポーズを受けてもらったんですから!」

マイクの言葉に、俺は驚いてニーナを見る。
なんて事を約束させてるんだ。


「だって、父さんいつまで経っても結婚どころか彼女すら出来ないじゃない?私がいなくなっちゃったら、父さんすぐにどうにかなっちゃいそうなんだもの。父さんを独りぼっちにするくらいなら、結婚なんかしないわよ。」


俺は片手で目元を覆った。
ニーナが俺をどれほど大切に想ってくれているのかが伝わって涙が出てくる。
確かに、ニーナがこの手を離れて幸せになったら、俺はもう用なしだと思っていた。
今度こそ静かにこの世を去ろうかとも・・・。


「父さんってば、泣いてるの?今から泣いてたら、結婚式の時が思いやられるわ。」


そう言って、ニーナが俺の隣に来て背中をさすってくれる。

たくさんの間違いを犯して、彼女たちを苦しめてしまった俺が、こんなにも幸せになって、許されるのだろうか。

もしも許されるのであれば、まだもう少し、ニーナが幸せに暮らす姿を見守らせてほしい。


○○○


「父さん、これまで本当にありがとう。偶然出会った私の事を助けてくれて、娘として大切に育ててくれて。」

もはや力が入らなくなってしまった俺の手を優しく握って、ニーナが声をかけてくれる。

あぁ、本当に、こんなに立派に育って。

ニーナは宣言していたとおり、結婚後も毎日俺の家に顔を出した。
ニーナとマイクは3人の子どもに恵まれたが、その子ども達もよく俺の家にやって来て、懐いてくれた。
『じぃちゃん!』と言って俺に遊んでくれと纏わり付いてきていた可愛い孫達も、ずいぶんと大きくなった。

そして去年、ニーナ達の長女が隣町へと嫁いで行った。あの子の花嫁姿も綺麗だったな。
できれば、もう二人の孫たちが結婚する姿も見届けたかった。


「父さん、私ね、命が助かって最初に父さんを見たときにね、『あぁ、この人は絶対に私の事を守ってくれる。これからはこの人の傍にいれば大丈夫だ。』って思ったんだ。」


そうだったのか・・・。


「不思議でしょ?でも、間違ってなかった。きっと、本当の両親が父さんに私の事を託したのね。」


そうか・・・。
だけど、救われたのは俺の方だったよ。


「私、父さんの娘になれて、本当に幸せよ。」


そう言って、ニーナは涙を流しながら微笑む。


俺も感謝の言葉を贈りたいのに、もう話す事ができない。
せめて、最期は笑顔で別れたい。


「!!!父さん!!!」


○○○


アレク(アーネスト・トルコーダ)
享年73歳。
養女ニーナとその夫、二人の孫に見守られながらその生涯を終えた。
最期は穏やかな微笑みを残して亡くなった。

しおりを挟む
感想 331

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(331件)

deko
2024.10.20 deko

アーネストがどうなるのか気になって、一気読みしました。最後は愛し愛される家族ができてよかったです。いろんな愛の形があるということ再認識てきました。

解除
にゃあん
2022.10.30 にゃあん

こんな幸せもあるんですね、うるっときてしまいました🥹

気になってたのでありがとうございます😊

2022.11.01 よしたけ たけこ

感想ありがとうございます!

恋愛というカテゴリーなので、この結末は邪道かもしれませんが・・・(^_^;)
こんな結末も、たまにはいいよねって思っていただけていれば嬉しいです!

読みに来ていただいてありがとうございました(*^^*)

解除
すずまる
2022.10.30 すずまる

アーネストのHappy End⋯泣けた‪(๑°̧̧̧ㅿ°̧̧̧๑)
アーネストにとってニーナとの生活は、幸せだけどニーナが結婚したら終わる期限付きと思っていたからこそ結婚後も自分の元へと来てくれるニーナや孫のおかげでやっと幸せが落ち着けた感じですね(*´ ∀ `)

2022.11.01 よしたけ たけこ

感想ありがとうございます!

涙を誘えたとは、嬉しいかぎりです!
そうですね、アーネストは余生を静かにと思っていたのですが、ニーナ達のおかげで予想よりもかなり長生きしました(*^^*)

番外編、読みに来ていただいてありがとうございました(*^^*)

解除

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。