契約結婚~彼には愛する人がいる~

よしたけ たけこ

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第31話

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失意のなか、サミュエル様の申し出は本当にありがたかった。
もしかしたらサミュエル様に迷惑をかけてしまうのかもしれない。
それでも、全てを失った私はサミュエル様の言葉に甘えてしまった。

「エレン、着いたよ。」

そっと目を開くと、豊かに生い茂る様々な植物が目の前に広がっていた。

「・・・!!!」

言葉も出ないほどの美しい世界に、自然と涙がこぼれていた。

そんな私の涙をサミュエル様がそっと拭ってくれる。

「植物を愛するエレンなら喜んでくれると思ったが、まさか涙を流すとは。」

「こ、こんなに美しい場所があるなんて・・・!こんなに素敵な場所に連れてきて頂いて、ありがとうございます!」

私はサミュエル様に深く頭を下げた。

「私たちの世界をそんなに褒めてくれるとは。嬉しいよ。でも、ここはまだ精霊界の一部だ。他にも美しい場所がたくさんあるからな。これから、少しずつ案内することにしよう。」

そう言ってサミュエル様が私を起こして頭を撫でてくれる。
こんなに素敵な場所で、こんなに優しいサミュエル様といられたら。
こんな幸せなことないわ。
いつまでいられるか分からないけれど、ここにいられる間にたくさん目に焼き付けておこう。

「さぁエレン。行こう。精霊達も待っているはずだ。」

そうして私の精霊界での生活が始まった。

○○○

精霊界へ来てから数日経った頃。
サミュエル様が神様に呼ばれた。

「サミュエル様、もしかして神様からお叱りを受けるのではないですか?」

「小言を言われる程度だろう。心配しなくていい。」

そう言われても、やはり心配になる。
サミュエル様は私を助けてくれたのに、サミュエル様だけが叱られるなんて。
でも、人間の私が神様にお会いするなんて出来ないし・・・

「ふっ。大丈夫だ。少し行ってくるよ。」

そう言って私の頭を撫でてからサミュエル様が消えた。

「エレン様、大丈夫ですよ。サミュエル様は神様の意に反することはしませんから。それに、神様は生きる者すべてを愛していらっしゃいますから。エレン様もサミュエル様も、みな神様の愛し子なのです。」

彼は、サミュエル様の従者であるルーファスさんだ。

「神様は偉大な方ですね。」

「えぇ、本当に。そうだ、エレン様。サミュエル様が戻られるまでの間、東の泉へ行ってみてはいかがですか?きっと心が落ち着きますよ。」

『東の泉にいくの!?エレン!!』
『僕が案内してあげるよ!』
『私も!!』
『僕も!!』

ルーファスさんの提案を聞きつけて、たくさんの精霊たちが集まってきた。

「みんな、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、連れて行ってもらおうかしら。」

『やった!!』
『こっちだよ!!』
『はやくはやく!!』

精霊界へ来てから、精霊さんたちの姿も見えるようになった。
すごく小さくて羽が生えていて、パタパタと飛び回る姿はとても可愛らしい。

そんな精霊さん達に連れられてやって来た泉は、光り輝く泉だった。
その泉では精霊さん達が水浴びをしていて、水面はキラキラと輝いている。

「なんて美しいの・・・」

ほとりに座り、精霊さんたちが持ってきてくれる木の実を食べながらのんびり過ごした。
不思議と心が落ち着いて、心配なことも嫌な思い出も全て浄化されるような気分だった。

○○○

『そろそろ戻らなきゃ!』
『ほんとだ!!』
『エレン、行こう!!』

時間を忘れて過ごしていると、急に精霊さんたちが騒ぎ始めた。
どうしたのか聞いてみても、それぞれが好きに喋るためよく分からない。
とりあえず促されるまま戻ってみると、サミュエル様が戻ってきていた。

「あ!サミュエル様、戻られてたんですね!おかえりなさい!」

私ったら、精霊王さまに向かって『おかえりなさい』だなんて。
すっかり気が抜けてしまっているみたい。

「あぁ、今戻ったところだ。エレンも泉から戻ってきたんだな。」

また頭を撫でてくれる。サミュエル様は本当に頭を撫でるのがお好きみたい。

「はい!・・・ふふふ、サミュエル様。『おかえりなさい』って言われたら、『ただいま』って言うんですよ。」

なんだかサミュエル様ともっと親しくなりたくなって、そう言ってしまった。

「そうなのか。ただいま、エレン。」

サミュエル様は嫌がること無く『ただいま』と言ってくれる。
それだけで、すごく嬉しくて幸せな気分になった。

「おかえりなさい、エレン。」

「!!・・・ただいま、サミュエル様。」

サミュエル様にそう言われて、なんだかすごく照れくさくなった。
なんだかムズムズするような変な感覚。
でも親しくなれたみたいで嬉しい。

そんな事を考えていたら、思ってもみない言葉が聞こえた。

「エレン、私の伴侶になってくれないだろうか。」


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