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第32話 side サミュエル
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エレンを連れて精霊界へ戻ってきてから数日。神に呼び出された。
「サミュエル。人間を精霊界へ攫ってきたようだな。」
「言いがかりはやめてください。私は同意のもと、連れてきたのです。」
「ふっ。そうか?あの男と別れるように仕向けたのであろう?」
たしかに、あんな男とは別れたほうがいいとは思った。
だが、私が別れさせたわけではない。
「・・・仕向けてなどいません。必要な事しか話さなかっただけです。全て話したところで、エレンはあの男のことは選ばなかった。」
アリスとやらの事で、エレンには言っていない事がある。
あの女は、眠っているように見えて、実は意識があり事情を把握していた。
だから本来は、愛する者が他の者を愛するようになり、自分が愛されなくなるのを感じ取って、失望のうちに死ぬ呪いだった。
エレンに、あの女が全てを知っていると言えば、罪悪感に苛まれるに決まっている。
優しいエレンは、自分自身を責めるかもしれない。
わざわざエレンに話して、余計に傷付ける必要はない。
あの女を目覚めさせる時に、眠っていた間の記憶を消したのは、私なりの思いやりだ。
「はたして、どうだろうな。」
「・・・ふん。」
「そう怒るな。まぁ最終的にお前についてくる決断をしたのは彼女だからな。今回のことは大目に見よう。」
癪に障る言い方だ。だいたい・・・
「だいたい、元はと言えば。あんな強い呪いをかけられるような魔物が人間界に出ていったのは、魔界の管理不足でしょう。
多くの魔物が人間界に侵入して大きな被害が出たのに、魔王のあいつには何のお咎めも無かったはずだ。
私はその尻拭いをしたようなものです。」
「確かにあれは、クロフォードの管理不足ではあるが。最終的には、あやつ自身で解決したからな。それに、人間の反撃によって魔界も損害を被った。」
「・・・私の時とは違うと言いたいんですね。」
「まぁ、そうだな。しかし、あの呪いを受けた少女のことは気の毒に思っていたから、呪いを解いてくれて良かったと思っているよ。」
呪いを解いたところで、あの女もあの男も、幸せになれるとは限らないがな。
ま、あとは本人達しだいだろう。
「礼として、そなたの愛し子が同意すれば、そなたの伴侶にしてやろう。」
!!!!!
「それは・・・本気ですか?」
「同意が得られればな。かつて、罰としてそなたの伴侶を没収してから、千年以上になるか。」
あの世界が終わろうとした災厄の時、本来ならば私の伴侶となる者が生まれるはずだった。
だが、精霊を制御できず、世界を滅ぼしかけた罰として伴侶を取り上げられたのだ。
「愛し子の同意が得られたら、その時はここへ連れてくるが良い。」
○○○
「あ!サミュエル様、戻られたのですか?」
「ああ、ルーファス。今戻った。エレンは?」
「エレン様は精霊達と東の泉へ行かれました。神様からはお叱りを受けたのですか?」
「お前は失礼な奴だな。私は神の怒りをかう事などしていない。」
「では、なんのお話で?」
「・・・エレンが同意すれば、私の伴侶にしてくださるそうだ。」
「!!!・・・それは!!」
ルーファスが泣き始めた。
「よ・・・ようございましたね・・・サミュエル様・・・うっ・・・ひっく・・・」
「ふん。」
「せ・・・千年以上も・・・よく・・・」
「・・・うるさい。おおげさだ。」
精霊王は、王となってからおよそ五百年くらい経つと、伴侶となる精霊が生まれる。
そしてその伴侶との間に、次代の精霊王が誕生する。
本来なら、私はとうに次代の精霊王に引き継ぎ、寿命を迎えていたはずだった。
それが、私が精霊王となってから千五百年以上もの間、伴侶が生まれる事無くひたすら王として生きていた。
もしも、あのエレンが私の伴侶になってくれたら・・・。
「しかし、サミュエル様。エレン様に断られては大変です。エレン様に話すのは慎重にしてくださいね。」
「断られる・・・?」
「人間は精霊とは異なりますから。受け入れるのは容易なことでは無いはずです。」
そ、それはそうだな。
エレンが伴侶になりたくないから人間界に帰ると言い出しては困る。
エレンにはもっと、出来ればずっと、ここに居てほしい。
これは慎重にすすめよう。
「あ!サミュエル様、戻られてたんですね!おかえりなさい!」
対策を考えようとしたところで、エレンが戻ってきた。
おかえりなさいって、なんだか分からないが心地良い言葉だな。
「あぁ、今戻ったところだ。エレンも泉から戻ってきたんだな。」
「はい!・・・ふふふ、サミュエル様。『おかえりなさい』って言われたら、『ただいま』って言うんですよ。」
「そうなのか。ただいま、エレン。」
エレンが嬉しそうに笑っている。
それだけで幸せな気分になるから不思議だ。
「おかえりなさい、エレン。」
「!!・・・ただいま、サミュエル様。」
照れているエレンも愛おしい。
これからもずっと、エレンが私の伴侶として傍にいてくれたら、どれほど幸せだろうか。
「エレン、私の伴侶になってくれないだろうか。」
気がつけば、私はそう言葉にしていた。
「サミュエル。人間を精霊界へ攫ってきたようだな。」
「言いがかりはやめてください。私は同意のもと、連れてきたのです。」
「ふっ。そうか?あの男と別れるように仕向けたのであろう?」
たしかに、あんな男とは別れたほうがいいとは思った。
だが、私が別れさせたわけではない。
「・・・仕向けてなどいません。必要な事しか話さなかっただけです。全て話したところで、エレンはあの男のことは選ばなかった。」
アリスとやらの事で、エレンには言っていない事がある。
あの女は、眠っているように見えて、実は意識があり事情を把握していた。
だから本来は、愛する者が他の者を愛するようになり、自分が愛されなくなるのを感じ取って、失望のうちに死ぬ呪いだった。
エレンに、あの女が全てを知っていると言えば、罪悪感に苛まれるに決まっている。
優しいエレンは、自分自身を責めるかもしれない。
わざわざエレンに話して、余計に傷付ける必要はない。
あの女を目覚めさせる時に、眠っていた間の記憶を消したのは、私なりの思いやりだ。
「はたして、どうだろうな。」
「・・・ふん。」
「そう怒るな。まぁ最終的にお前についてくる決断をしたのは彼女だからな。今回のことは大目に見よう。」
癪に障る言い方だ。だいたい・・・
「だいたい、元はと言えば。あんな強い呪いをかけられるような魔物が人間界に出ていったのは、魔界の管理不足でしょう。
多くの魔物が人間界に侵入して大きな被害が出たのに、魔王のあいつには何のお咎めも無かったはずだ。
私はその尻拭いをしたようなものです。」
「確かにあれは、クロフォードの管理不足ではあるが。最終的には、あやつ自身で解決したからな。それに、人間の反撃によって魔界も損害を被った。」
「・・・私の時とは違うと言いたいんですね。」
「まぁ、そうだな。しかし、あの呪いを受けた少女のことは気の毒に思っていたから、呪いを解いてくれて良かったと思っているよ。」
呪いを解いたところで、あの女もあの男も、幸せになれるとは限らないがな。
ま、あとは本人達しだいだろう。
「礼として、そなたの愛し子が同意すれば、そなたの伴侶にしてやろう。」
!!!!!
「それは・・・本気ですか?」
「同意が得られればな。かつて、罰としてそなたの伴侶を没収してから、千年以上になるか。」
あの世界が終わろうとした災厄の時、本来ならば私の伴侶となる者が生まれるはずだった。
だが、精霊を制御できず、世界を滅ぼしかけた罰として伴侶を取り上げられたのだ。
「愛し子の同意が得られたら、その時はここへ連れてくるが良い。」
○○○
「あ!サミュエル様、戻られたのですか?」
「ああ、ルーファス。今戻った。エレンは?」
「エレン様は精霊達と東の泉へ行かれました。神様からはお叱りを受けたのですか?」
「お前は失礼な奴だな。私は神の怒りをかう事などしていない。」
「では、なんのお話で?」
「・・・エレンが同意すれば、私の伴侶にしてくださるそうだ。」
「!!!・・・それは!!」
ルーファスが泣き始めた。
「よ・・・ようございましたね・・・サミュエル様・・・うっ・・・ひっく・・・」
「ふん。」
「せ・・・千年以上も・・・よく・・・」
「・・・うるさい。おおげさだ。」
精霊王は、王となってからおよそ五百年くらい経つと、伴侶となる精霊が生まれる。
そしてその伴侶との間に、次代の精霊王が誕生する。
本来なら、私はとうに次代の精霊王に引き継ぎ、寿命を迎えていたはずだった。
それが、私が精霊王となってから千五百年以上もの間、伴侶が生まれる事無くひたすら王として生きていた。
もしも、あのエレンが私の伴侶になってくれたら・・・。
「しかし、サミュエル様。エレン様に断られては大変です。エレン様に話すのは慎重にしてくださいね。」
「断られる・・・?」
「人間は精霊とは異なりますから。受け入れるのは容易なことでは無いはずです。」
そ、それはそうだな。
エレンが伴侶になりたくないから人間界に帰ると言い出しては困る。
エレンにはもっと、出来ればずっと、ここに居てほしい。
これは慎重にすすめよう。
「あ!サミュエル様、戻られてたんですね!おかえりなさい!」
対策を考えようとしたところで、エレンが戻ってきた。
おかえりなさいって、なんだか分からないが心地良い言葉だな。
「あぁ、今戻ったところだ。エレンも泉から戻ってきたんだな。」
「はい!・・・ふふふ、サミュエル様。『おかえりなさい』って言われたら、『ただいま』って言うんですよ。」
「そうなのか。ただいま、エレン。」
エレンが嬉しそうに笑っている。
それだけで幸せな気分になるから不思議だ。
「おかえりなさい、エレン。」
「!!・・・ただいま、サミュエル様。」
照れているエレンも愛おしい。
これからもずっと、エレンが私の伴侶として傍にいてくれたら、どれほど幸せだろうか。
「エレン、私の伴侶になってくれないだろうか。」
気がつけば、私はそう言葉にしていた。
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