契約結婚~彼には愛する人がいる~

よしたけ たけこ

文字の大きさ
上 下
26 / 44

第24話

しおりを挟む
サミュエル様から、アリス様を目覚めさせることが出来ると教えてもらって、急いで手紙を書いた。

まずは、ずっと私についてくれていたメイドのアンに宛てて。

アンには本当に助けられた。
いつも傍にいてくれて、まるで友達のように感じていた。
温室の管理を勧めてくれたのも、初めて私の魔法を褒めてくれたのもアンだった。
彼女がいたから、義両親やネイサンとも、使用人達とも仲良く過ごせたし、アーネスト様との距離も縮まった。

感謝してもしきれない存在。
心を込めた感謝の言葉とともに、これからは私の事は忘れてアリス様に尽くして欲しいと書いた。
私にしてくれたように、アリス様にも優しくして欲しいと。
そして、今後の彼女の幸せと成功を祈って作った匂い袋を添えた。
どうか幸せな人生を送れますように。


つぎは、トーマスに宛てた手紙。

トーマスは『温室の管理を手伝いたい』と、彼の師匠である侯爵家の庭師に申し出てくれた。
彼が手伝ってくれたからこそ、温室をあそこまで立派なものにすることができた。

これまでの感謝の言葉をたくさん綴った。
そして、今後はアリス様とアーネスト様の指示に従うようにと。
もしもあの温室を取り壊すような事があっても、その指示に従うようにと。

一緒に育ててきた温室を手放すのは、きっと辛いと思う。
でも、これからはアーネスト様とアリス様とネイサンのために、庭師として頑張って欲しい。
そして彼にも今後の幸せと成功を祈った匂い袋を添えた。
どうか彼の人生に幸多からん事を。


そして、ネイサンに宛てた手紙も書いた。

明るく素直で可愛いネイサン。
歳が近いから、はじめは息子というよりは弟に近い感覚だった。
実の弟とは全く仲良くなれなかったから、慕ってくれるネイサンが可愛くて仕方がなかった。

これまでの感謝とお礼。
そして、今後はアリス様とアーネスト様と仲良く、本当の家族として過ごして欲しいこと。
私の事は忘れてしまって欲しいと書いた。

ネイサンは優しいから、きっと辛いと思うけれど、どうか乗り越えてほしい。
ネイサンを残していく事が、一番の気がかりだけれど・・・。
私が連れて行くわけにはいかない。
きっと、ネイサンなら乗り越えてくれる。
そう信じて、彼の今後の幸せと成功を祈った匂い袋を添えた。
どうか、ネイサンが幸せに暮らせますように。



最後に、アーネスト様に宛てて。

こちらは、あえてなるべく簡素にした。
これまでの感謝と今後の幸せを祈っているという内容。
そして、なにも添えなかった。きっともう、必要ないから。

○○○

『エレン、呪いを解いてきたよ。』

温室で一人、お茶をしているところへサミュエル様がいらっしゃった。
息を一つ吐いてから立ち上がり、サミュエル様に深く頭を下げる。

「本当に、ありがとうございました。」

『礼には及ばないよ。エレンのために、私がしてあげたかったのだから。』

サミュエル様は本当にお優しい。

『ちょうどエレンの契約夫がいたから、すぐに報せが届くだろう。』

「そうでしたか。・・・アーネスト様は、どんなご様子でしたか?」

『・・・泣きながら彼女を抱きしめていたよ。』

よかった。
これで、悲劇のヒロインとヒーローが幸せになる。

・・・これこそ、おとぎ話のようね。

『エレン・・・』

気がつけば私は泣いていて。
サミュエル様に抱きしめられていた。

あぁ。ついに来てしまったのね。
幸せを捨てる日が。

○○○

サミュエル様の胸でひとしきり泣いて、やっと落ち着いた頃。
アンが慌てた様子でやってきた。

「エレン様!!!今、報せが届いてっ!!!アリス様が・・・お目覚めになりました!!!」

サミュエル様が、泣きはらした顔を癒やしてくださったおかげで、泣いた事は気付かれずにすんだ。

「それは良かったわ。すぐに部屋に戻るわね。」

そして、荷物をまとめた私は、暗くなってからそっと侯爵家をあとにした。
しおりを挟む
感想 331

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...