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第22話
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ネイサンの誕生日パーティーが無事に終わって、またいつもの日常に戻りました。
相変わらず、アーネスト様とお会いするのは朝食の時間だけなのですが、少し会話が増えたような気がします。
「エレン、先日私の部屋に飾ってあった、白い花だが。あれは何という花だろうか。」
「白い花ですか?」
「あぁ、良い香りがしていた。」
「それでしたらリラですね、おそらく。」
「リラというのか。あれは生花店でも売っているのだろうか。」
「えぇ、おそらく取り扱っていると思いますが・・・。どなたかに贈られるのですか?温室にあるので準備いたしますよ。」
「あぁ、いや。部下が恋人に贈る花を探していてな。エレンの事をどこかで耳にしたらしく、何か良い花はないかと聞かれたんだ。」
「なるほど。それでしたら、お相手のお好きな色や香りなども考慮して選ばれた方が良いと思います。花と色が決まったら、念のため花言葉も確認しておいた方が良いかもしれません。花が好きな方だと、花言葉に詳しい方もいらっしゃるので。」
「そうか・・・花言葉か。花を贈るというのは、簡単なものではないのだな。」
「ふふふ、そうですね。その部下の方の恋人への想いの強さにもよると思いますが・・・。お相手にピッタリの花が見つかると良いですね。」
「そうだな。」
意外とアーネスト様は部下想いなところがあるのね。
知らなかったわ。部下の方から慕われていらっしゃるのね、きっと。
そう思いながらアーネスト様と談笑していると、ネイサンがジッとこちらを見ている事に気がつく。
「ネイサン?どうしたの?」
「・・・ずいぶん仲が良いなと思いまして。」
仲が良いだなんて・・・。思いがけない言葉に俯く。
「余計なことを言っていないで、早く朝食をすませなさい。私はもう出かける。」
そう言ってアーネスト様は仕事へ向かわれた。
何をしているのかしら私は。
気をつけないと、またアーネスト様に心を許してしまいそうになっているわ。
○○○
『エレン?どうした?今日は何やら随分とボンヤリしているな?』
温室で花の世話をしていると、突然声が聞こえて驚く。
「サミュエル様!そんな、ボンヤリだなんて。」
『何度か声をかけたのだが、全然気がつかなかっただろう?』
え・・・それは確かに気付かなかったわ。
「申し訳ありません。」
『いや、気にしなくて良い。それより、何か気がかりな事があるなら私に話してみればいいだろう。気が楽になるかもしれないぞ。』
こんな事を偉大な精霊王様の耳に入れるなんて、恐れ多いわ。
『私とエレンの仲ではないか。遠慮などしなくて良い。』
私の頭を撫でながらそんなことを言ってくれるサミュエル様に、つい頬が緩む。
ここまで言ってくださるのだもの。話してみようかしら・・・
ーーーーーー。
『なるほど。エレンは契約結婚していて、夫には他に愛する者がいる。いつか別れる日が来ると分かっているのに、つい夫に心を許しそうになると。それが悩みなのか。』
結局話してしまった。
「はい・・・。」
『その契約夫は、随分と自分勝手なようだな。やがて目覚めるのなら、そのままいつまでも待っておればよいものを。なぜ形だけの妻とやらが必要なのか。エレンを何だと思っている。』
「・・・。」
返す言葉もないわ・・・。
『エレンは今のまま、その者の妻でいたいのか?』
「・・・わかりません。アーネスト様とネイサンと、家族で居られるのなら嬉しいと思いますが。アリス様の事を想うと、それは望んではいけない事だと思います。」
『その、アリスとやらは、今どういう状態なんだ?なぜ長い間眠っている?』
「アリス様は、20年近く前に魔物に攻撃されて、それ以来ずっと眠っていらっしゃるのです。」
『ほぉ?魔物に攻撃されたのに、死ぬことなく眠っている?』
「はい。不思議なことに、傷一つ付かなかったそうです。私は噂でしか知らないので、もしかしたら本当はもっと何かあるのかもしれません。」
『・・・。ならば、私がその者の状態を確認してみよう。』
「え??」
『今の状態をみて、今後どうなるのか確かめてきてやろう。目覚める日が来るのか、来ないのか。目覚めるならば、それはいつなのか。それが分かれば、エレンも今後どうしたいのか分かるのではないか?』
「そ、そうかもしれませんが・・・」
どうしよう・・・。
知りたいけど、知りたくない。
知ってしまったら、もう逃げられないわ。
どんな結果であろうと、本当に覚悟をしなければならない。
『では、さっそく行ってくるとしよう。』
私が考え込んでいる間に、そう言ってサミュエル様がいなくなってしまった。
相変わらず、アーネスト様とお会いするのは朝食の時間だけなのですが、少し会話が増えたような気がします。
「エレン、先日私の部屋に飾ってあった、白い花だが。あれは何という花だろうか。」
「白い花ですか?」
「あぁ、良い香りがしていた。」
「それでしたらリラですね、おそらく。」
「リラというのか。あれは生花店でも売っているのだろうか。」
「えぇ、おそらく取り扱っていると思いますが・・・。どなたかに贈られるのですか?温室にあるので準備いたしますよ。」
「あぁ、いや。部下が恋人に贈る花を探していてな。エレンの事をどこかで耳にしたらしく、何か良い花はないかと聞かれたんだ。」
「なるほど。それでしたら、お相手のお好きな色や香りなども考慮して選ばれた方が良いと思います。花と色が決まったら、念のため花言葉も確認しておいた方が良いかもしれません。花が好きな方だと、花言葉に詳しい方もいらっしゃるので。」
「そうか・・・花言葉か。花を贈るというのは、簡単なものではないのだな。」
「ふふふ、そうですね。その部下の方の恋人への想いの強さにもよると思いますが・・・。お相手にピッタリの花が見つかると良いですね。」
「そうだな。」
意外とアーネスト様は部下想いなところがあるのね。
知らなかったわ。部下の方から慕われていらっしゃるのね、きっと。
そう思いながらアーネスト様と談笑していると、ネイサンがジッとこちらを見ている事に気がつく。
「ネイサン?どうしたの?」
「・・・ずいぶん仲が良いなと思いまして。」
仲が良いだなんて・・・。思いがけない言葉に俯く。
「余計なことを言っていないで、早く朝食をすませなさい。私はもう出かける。」
そう言ってアーネスト様は仕事へ向かわれた。
何をしているのかしら私は。
気をつけないと、またアーネスト様に心を許してしまいそうになっているわ。
○○○
『エレン?どうした?今日は何やら随分とボンヤリしているな?』
温室で花の世話をしていると、突然声が聞こえて驚く。
「サミュエル様!そんな、ボンヤリだなんて。」
『何度か声をかけたのだが、全然気がつかなかっただろう?』
え・・・それは確かに気付かなかったわ。
「申し訳ありません。」
『いや、気にしなくて良い。それより、何か気がかりな事があるなら私に話してみればいいだろう。気が楽になるかもしれないぞ。』
こんな事を偉大な精霊王様の耳に入れるなんて、恐れ多いわ。
『私とエレンの仲ではないか。遠慮などしなくて良い。』
私の頭を撫でながらそんなことを言ってくれるサミュエル様に、つい頬が緩む。
ここまで言ってくださるのだもの。話してみようかしら・・・
ーーーーーー。
『なるほど。エレンは契約結婚していて、夫には他に愛する者がいる。いつか別れる日が来ると分かっているのに、つい夫に心を許しそうになると。それが悩みなのか。』
結局話してしまった。
「はい・・・。」
『その契約夫は、随分と自分勝手なようだな。やがて目覚めるのなら、そのままいつまでも待っておればよいものを。なぜ形だけの妻とやらが必要なのか。エレンを何だと思っている。』
「・・・。」
返す言葉もないわ・・・。
『エレンは今のまま、その者の妻でいたいのか?』
「・・・わかりません。アーネスト様とネイサンと、家族で居られるのなら嬉しいと思いますが。アリス様の事を想うと、それは望んではいけない事だと思います。」
『その、アリスとやらは、今どういう状態なんだ?なぜ長い間眠っている?』
「アリス様は、20年近く前に魔物に攻撃されて、それ以来ずっと眠っていらっしゃるのです。」
『ほぉ?魔物に攻撃されたのに、死ぬことなく眠っている?』
「はい。不思議なことに、傷一つ付かなかったそうです。私は噂でしか知らないので、もしかしたら本当はもっと何かあるのかもしれません。」
『・・・。ならば、私がその者の状態を確認してみよう。』
「え??」
『今の状態をみて、今後どうなるのか確かめてきてやろう。目覚める日が来るのか、来ないのか。目覚めるならば、それはいつなのか。それが分かれば、エレンも今後どうしたいのか分かるのではないか?』
「そ、そうかもしれませんが・・・」
どうしよう・・・。
知りたいけど、知りたくない。
知ってしまったら、もう逃げられないわ。
どんな結果であろうと、本当に覚悟をしなければならない。
『では、さっそく行ってくるとしよう。』
私が考え込んでいる間に、そう言ってサミュエル様がいなくなってしまった。
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