17 / 44
第15話
しおりを挟む
トルコーダ侯爵夫人となってから、およそ1年半がすぎた。
その間に侯爵夫人としての仕事は全て引き継ぎ、義両親は領地へと引っ越した。
私は相変わらずトルコーダ侯爵夫人(仮)として侯爵家の使用人達のとりまとめや家政管理を行いながら、温室の管理を楽しんでいる。
そんな日々の中で一番変わったことといえば、初めてアーネスト様とお茶会を行ってから、1ヶ月に1~2回くらいのペースでアーネスト様とお茶会が催されている事。
あの地獄の無言お茶会は、回を重ねるごとに和やかな交流の場となっている。
そして分かったことは、意外とアーネスト様は女性との交流が苦手で奥手だということ。
そんなアーネスト様が無理をして私と交流してくれているのは、きっと義両親が領地へ引っ越し残された私を心配してのことだと思う。
アーネスト様の不器用な優しさに気付いてからは、私の方から話題を提供し会話を広げるようにしている。
そうすると会話が続き、アーネスト様の緊張もほぐれてくるのだ。
そして今日もアーネスト様からのお誘いでお茶会を行っている。
「エレン、そろそろ跡継ぎとなる養子を迎えようと思う。」
そうそう、私の事を名前で呼んでくれるようになりました。
「わかりました。どのような方か伺っても?」
「あぁ、もちろんだ。父の従兄弟のサルベール伯爵家の三男で、今年11歳になった子だ。素直でかしこい子だ。氷魔法が使えるようで、魔法学園に通わせようと思っている。」
「まぁ、それは優秀な方ですね。お会いする日が楽しみです。」
「来月迎え入れる予定になっている。私は仕事があるから、この家の中で過ごす時間の大部分は君にお願いすることになるだろう。気にかけてやって欲しい。」
「もちろんです。快適に過ごせるようにお手伝いさせてもらいますね。」
義両親がいなくなって寂しくなってしまったこの邸に、明るい話題が出来て良かったわ。
お会いする日が楽しみね。
○○○
「はじめまして、ネイサン・トルコーダです。立派な跡継ぎになれるよう頑張ります。よろしくお願いいたします。」
今日は待ちに待った、養子となった子がやってくる日。
アーネスト様に連れられて、小さな男の子がとても緊張した様子で挨拶をしてくれた。
「はじめまして、ネイサン。私はエレン・トルコーダです。あなたに会えるのを楽しみにしていました。これからよろしくね。」
私は彼に少し近づいて、その場にしゃがみ目線を合わせて挨拶をした。
「はい!お義母さま!」
可愛い!!
・・・でも。
「私の事は、エレンと名前で呼んでちょうだいね?」
「・・・え?名前でですか?」
ネイサンは首をかしげたあと、そっとアーネスト様を見上げる。アーネスト様が頷いたのを見てから、戸惑いがちに私に返事をする。
「エレン様?」
「えぇ、そう呼んで。これからよろしくね。」
私はにっこりと笑って声をかけた。
だって・・・ねぇ?
私は一時的な侯爵夫人だから。ネイサンから「お義母さま」と呼ばれるべきなのはアリス様だもの。
だけど、このことはネイサンも知っているのよね?
あとでアーネスト様に確認しておいた方が良いわね。
○○○
ネイサンは執事のリチャードが邸の案内に連れて行った。
私はアーネスト様に話があると伝えて、応接間に移動した。
「確認させていただきたいのですが。」
「何だ?」
「ネイサンには、アリス様の事は説明されているのでしょうか。ネイサンが私の事を義母と呼んだので・・・。」
少しの沈黙が流れる。
「・・・いや、話してない。」
え~~~。大事なことでしょうに。
「それはいけません。アリス様がいつお目覚めになるのか分かりませんから、説明しておいた方が良いと思います。私の事を義母だと思っていたら、アリス様がいらっしゃった時にネイサンが戸惑ってしまいますわ。」
私が勘違いしてしまわないように。というのもあるけれど。
「・・・。そうだな。折を見て・・・」
「いけません。すぐにお話しになってくださいね。」
「・・・わかった。」
ネイサンと私の間に親子としての関係が出来上がってしまっては、ネイサンも私も後々悲しい思いをすることになるのに・・・。
残酷な方ね・・・。
その間に侯爵夫人としての仕事は全て引き継ぎ、義両親は領地へと引っ越した。
私は相変わらずトルコーダ侯爵夫人(仮)として侯爵家の使用人達のとりまとめや家政管理を行いながら、温室の管理を楽しんでいる。
そんな日々の中で一番変わったことといえば、初めてアーネスト様とお茶会を行ってから、1ヶ月に1~2回くらいのペースでアーネスト様とお茶会が催されている事。
あの地獄の無言お茶会は、回を重ねるごとに和やかな交流の場となっている。
そして分かったことは、意外とアーネスト様は女性との交流が苦手で奥手だということ。
そんなアーネスト様が無理をして私と交流してくれているのは、きっと義両親が領地へ引っ越し残された私を心配してのことだと思う。
アーネスト様の不器用な優しさに気付いてからは、私の方から話題を提供し会話を広げるようにしている。
そうすると会話が続き、アーネスト様の緊張もほぐれてくるのだ。
そして今日もアーネスト様からのお誘いでお茶会を行っている。
「エレン、そろそろ跡継ぎとなる養子を迎えようと思う。」
そうそう、私の事を名前で呼んでくれるようになりました。
「わかりました。どのような方か伺っても?」
「あぁ、もちろんだ。父の従兄弟のサルベール伯爵家の三男で、今年11歳になった子だ。素直でかしこい子だ。氷魔法が使えるようで、魔法学園に通わせようと思っている。」
「まぁ、それは優秀な方ですね。お会いする日が楽しみです。」
「来月迎え入れる予定になっている。私は仕事があるから、この家の中で過ごす時間の大部分は君にお願いすることになるだろう。気にかけてやって欲しい。」
「もちろんです。快適に過ごせるようにお手伝いさせてもらいますね。」
義両親がいなくなって寂しくなってしまったこの邸に、明るい話題が出来て良かったわ。
お会いする日が楽しみね。
○○○
「はじめまして、ネイサン・トルコーダです。立派な跡継ぎになれるよう頑張ります。よろしくお願いいたします。」
今日は待ちに待った、養子となった子がやってくる日。
アーネスト様に連れられて、小さな男の子がとても緊張した様子で挨拶をしてくれた。
「はじめまして、ネイサン。私はエレン・トルコーダです。あなたに会えるのを楽しみにしていました。これからよろしくね。」
私は彼に少し近づいて、その場にしゃがみ目線を合わせて挨拶をした。
「はい!お義母さま!」
可愛い!!
・・・でも。
「私の事は、エレンと名前で呼んでちょうだいね?」
「・・・え?名前でですか?」
ネイサンは首をかしげたあと、そっとアーネスト様を見上げる。アーネスト様が頷いたのを見てから、戸惑いがちに私に返事をする。
「エレン様?」
「えぇ、そう呼んで。これからよろしくね。」
私はにっこりと笑って声をかけた。
だって・・・ねぇ?
私は一時的な侯爵夫人だから。ネイサンから「お義母さま」と呼ばれるべきなのはアリス様だもの。
だけど、このことはネイサンも知っているのよね?
あとでアーネスト様に確認しておいた方が良いわね。
○○○
ネイサンは執事のリチャードが邸の案内に連れて行った。
私はアーネスト様に話があると伝えて、応接間に移動した。
「確認させていただきたいのですが。」
「何だ?」
「ネイサンには、アリス様の事は説明されているのでしょうか。ネイサンが私の事を義母と呼んだので・・・。」
少しの沈黙が流れる。
「・・・いや、話してない。」
え~~~。大事なことでしょうに。
「それはいけません。アリス様がいつお目覚めになるのか分かりませんから、説明しておいた方が良いと思います。私の事を義母だと思っていたら、アリス様がいらっしゃった時にネイサンが戸惑ってしまいますわ。」
私が勘違いしてしまわないように。というのもあるけれど。
「・・・。そうだな。折を見て・・・」
「いけません。すぐにお話しになってくださいね。」
「・・・わかった。」
ネイサンと私の間に親子としての関係が出来上がってしまっては、ネイサンも私も後々悲しい思いをすることになるのに・・・。
残酷な方ね・・・。
27
お気に入りに追加
4,270
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる