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第2話
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ハーディング伯爵家は王国の北側に領地をもつ、そこそこの家格の伯爵家だ。
領地も特別豊かな訳でも無く、かといって貧しい土地ということもなく。
まさに可も無く不可も無くといった、存在感の無い家柄。
そんなハーディング家の長女が、私である。秀でた美しさも、頭の良さも持ち合わせていない。
そして、私がこの家では道具の一つでしか無く、誰にも愛される事は無いと思い知ったのは弟が生まれてからだった。
弟が生まれる前、私はこれでも両親に愛されているのだと思っていた。
物心ついた頃には既に家庭教師が何人かついて、毎日勉強ばかりしていた。両親と会えるのは朝と夜の食事の時間だけ。
会話もろくに無かったけれど、それでも両親は私のために教師を付けてくれていると思っていたし、毎日一緒に食事をしてくれるのだから、人並みに愛されているのだと思っていた。
しかし、私が6歳になって弟が生まれたときに分かってしまった。
「おお、よくやった。今度こそ跡継ぎとなる子をうんでくれたのだな。これでこのハーディング家も安泰だな。」
「ええ。安心しました。今度も役立たずの女の子だったらどうしようかと不安に思っていましたわ。本当に良かった。やっと会えたわね、私の愛しい息子。」
役立たずの女の子・・・
弟が生まれたと聞いて駆けつけた私は、母の寝室の扉の外で立ち尽くしていた。
開いたままの扉の向こうから聞こえる両親の会話に、私は涙を流すこともできず呆然と立ち尽くすしか無かった。
「まあ、あの娘も家格の良い家に嫁がせる事を考えれば、それなりに使い道があるさ。」
「そうね。そのために教育しているのだもの。出来るだけ良い家に嫁がせましょう。そしてこの子のために頑張ってもらいましょう。」
この一連の会話を聞いても、私は諦めきれずにいた。両親から愛される事を。
それでも、日に日に成長する弟に対する両親の愛情溢れる態度と、自分に向けられる関心も愛情も無い冷たい視線との違いに思い知らされていた。
私は愛されていない。どうでも良い存在。
ただこの家と弟のための道具でしかないということを嫌でも理解せざるを得なかった。
成長した弟も、両親の影響があってか私のことは見下していた。
自分のために存在している道具のひとつにすぎないと。
誰からも愛される事の無い私は、いつしかそれを受け入れ当たり前のこととしていた。
だから今回の結婚で自分が愛されないことも当然の事として受け入れるしかなかった。
領地も特別豊かな訳でも無く、かといって貧しい土地ということもなく。
まさに可も無く不可も無くといった、存在感の無い家柄。
そんなハーディング家の長女が、私である。秀でた美しさも、頭の良さも持ち合わせていない。
そして、私がこの家では道具の一つでしか無く、誰にも愛される事は無いと思い知ったのは弟が生まれてからだった。
弟が生まれる前、私はこれでも両親に愛されているのだと思っていた。
物心ついた頃には既に家庭教師が何人かついて、毎日勉強ばかりしていた。両親と会えるのは朝と夜の食事の時間だけ。
会話もろくに無かったけれど、それでも両親は私のために教師を付けてくれていると思っていたし、毎日一緒に食事をしてくれるのだから、人並みに愛されているのだと思っていた。
しかし、私が6歳になって弟が生まれたときに分かってしまった。
「おお、よくやった。今度こそ跡継ぎとなる子をうんでくれたのだな。これでこのハーディング家も安泰だな。」
「ええ。安心しました。今度も役立たずの女の子だったらどうしようかと不安に思っていましたわ。本当に良かった。やっと会えたわね、私の愛しい息子。」
役立たずの女の子・・・
弟が生まれたと聞いて駆けつけた私は、母の寝室の扉の外で立ち尽くしていた。
開いたままの扉の向こうから聞こえる両親の会話に、私は涙を流すこともできず呆然と立ち尽くすしか無かった。
「まあ、あの娘も家格の良い家に嫁がせる事を考えれば、それなりに使い道があるさ。」
「そうね。そのために教育しているのだもの。出来るだけ良い家に嫁がせましょう。そしてこの子のために頑張ってもらいましょう。」
この一連の会話を聞いても、私は諦めきれずにいた。両親から愛される事を。
それでも、日に日に成長する弟に対する両親の愛情溢れる態度と、自分に向けられる関心も愛情も無い冷たい視線との違いに思い知らされていた。
私は愛されていない。どうでも良い存在。
ただこの家と弟のための道具でしかないということを嫌でも理解せざるを得なかった。
成長した弟も、両親の影響があってか私のことは見下していた。
自分のために存在している道具のひとつにすぎないと。
誰からも愛される事の無い私は、いつしかそれを受け入れ当たり前のこととしていた。
だから今回の結婚で自分が愛されないことも当然の事として受け入れるしかなかった。
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