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みずから悪役令嬢になった話
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私の名前はクリスティーナ・キャンベル。キャンベル公爵家の娘。そして今日、王太子殿下の婚約者となった。
「なぜ、私が婚約者に?王太子殿下にはライラ様がいらっしゃるのに・・・」
「ライラ?ああ、あの子爵令嬢か。子爵令嬢ごときが王太子殿下の婚約者になど、なれるはずがないだろう。王太子妃、そして未来の王妃には我がキャンベル公爵家の娘こそが相応しい。」
・・・たしかに、あれだけ親密でありながら婚約を結んでいるわけではなかった。けれど、婚約するべく奔走されているという噂だったわ。
きっとお父様が何かしたに決まっているわ。
「お父様・・・、一体何をなさったのですか?」
「人聞きの悪い事を言うな。私はただ、クリスティーナの婚約相手は王弟殿下にしてもらおうかなと、そう呟いただけだ。」
王弟殿下は、先王と側妃様との間にできた王子殿下だ。
その王弟殿下は現王陛下とは、かなり歳が離れていて次期王の座を狙っていると噂されている。
そんな王弟殿下側にキャンベル公爵家がつくと言っているようなものだ。
我がキャンベル公爵家は、歴代何人もの王女が嫁ぎ、王妃も輩出したことがある由緒ある家柄であり、かなりの力と影響力を持っている。
そんな我が家が王弟殿下側につけば・・・形勢はガラッと変わることだろう。
「どうして急にそのような事を・・・」
「もともと、王太子殿下の婚約者はお前の予定だった。それをあの王太子が我儘を言って保留になったのだ。すぐに目が覚めると思っていたが・・・。お前ももう18歳になる。これ以上は待てない。」
確かに、私はもうすぐ18歳になるけれど婚約者はいない。
高位貴族の子息は、だいたい婚約者が決まってしまっていて私は既に行き遅れとも言える状況だ。
だけど、だからといって想い合う二人を邪魔するなんて・・・。
「私のことは、いっそ修道院にでも入れてくださればいいのに。」
「はっ!馬鹿なことを言うな!我がキャンベル家からそんな恥さらしを出せるか!」
そうね、お父様は何よりも家が大切ですものね。
家のためなら、どんな悪事にも手を染めていることも知っている。
キャンベル公爵家は、決して清廉潔白な家ではない。
どちらかといえば悪どい方だと思う。
「それにしても、あの子爵令嬢はしぶといな。何度刺客を送っても仕留められない。王太子が絡んでいるのだろうが・・・。いっそ本当に王弟に乗り換えたほうが早かったかもしれないな。」
刺客・・・。なんてことを・・・。
「お父様、ライラ様のことは私に任せていただけませんか?」
「ほう?お前なら始末できるとでも?」
「始末など・・・。何も命を奪わずとも、王太子殿下と引き離せれば良いのでしょう?だって、私との婚約は成立したのですもの。」
考えているわね。
お父様に任せていたら、ライラ様が本当に葬られてしまうかもしれないわ。
・・・そんな事、絶対にさせない。
「では、お前に猶予をやろう。学園卒業までになんとかしろ。出来なければ、その時は私が動く。」
「わかりました。」
それから私は、学園でライラ様に嫌がらせをするようになった。
しつこく、執拗に嫌がらせをし続ける。
私の取り巻きとなっている令嬢達も加担して、ライラ様の負担はかなりのものだろう。
だけど、私はやめない。
私の評判が地に落ちようとも構わない。
私は・・・殿下とライラ様の、いいえ、殿下の幸せを守るためなら。
私など、どうなっても構わない。
~~~~~
私が殿下に初めてお会いしたのは12歳の頃だった。
きっと、婚約を結ぶための顔合わせだったのだと思う。
あのとき、私は殿下に一目惚れしてしまった。
そして緊張しすぎた私は、うっかりカップを落として割るという、令嬢にあるまじき失態を犯した。
さらに慌てた私は破片を触って指を傷付けてしまった。
殿下は、そんな私の手を優しくハンカチで包んでくれた。
そして美しく優しい顔で『大丈夫だよ。気にしないで。』と言ってくれた。
『これは二人の秘密にしよう。』なんて、いたずらっぽく笑った。
私は完全に殿下に恋してしまった。
そしてすぐに失恋した。
殿下が、指は薔薇の棘で傷付けた事にしてくださり、医務室で手当を終えてお礼を伝えようと殿下の元へ戻ったときに見てしまった。
小さな恋人達の姿を。
邸に戻ってから、どれほど泣いたことか。
恋に落ちたとたんに失恋するなんて。
諦めようと決めたけれど、気持ちはままならない。
私は今でも、殿下に恋し続けている。
叶わない事はわかっているし、もはや望んでいない。
ただ、殿下の幸せを祈っている。
胸の痛みに耐えることには、もう慣れた。
だけど、私の父、あの悪魔はまだ諦めていなかった。
だから私は、父も道連れにして断罪されるべく、ライラ様に嫌がらせをしている。
もう少し。もう少しで終わるわ。
少しずつ父の悪行の証拠を持ち出して、殿下の目に付くようにした。
そろそろ殿下は断罪の準備が整っている事でしょう。
卒業式典ももうすぐ。
そろそろ、最後の大仕掛けね。
わざと殿下が通りかかるタイミングで、ライラ様を階段から突き落とした。
もちろん殿下が抱きとめたわ。
そして私を見た。
憎悪がこもる瞳。
私は慌てたふりをして立ち去る。
これでいい。
これでいいのよ・・・涙なんて・・・もう涸れたと思っていたのにな・・・。
~~~~~
ついに卒業式典の日を迎えた。
卒業生を代表して殿下が挨拶をするべく壇上へ。
途中、陛下と目配せをしていた。
始まるのね。
「私は今日、どうしても明らかにしなければならない事がある。めでたい日に申し訳ないが、この学園で起こった事は、学園にいるうちに解決したい。陛下にも既に許しを得ている。」
ざわつき始める場内。
「静粛に!・・・クリスティーナ・キャンベル。あなたをライラ・シーボルト殺人未遂の罪で告発する!」
「な・・・!?クリスティーナが殺人未遂だと!?殿下、なにかの間違いではないですか!?」
父が声を上げた。
「間違いなどではない!クリスティーナ嬢がライラ嬢を階段から突き落とすところを私が目撃したのだ!」
ざわつく場内。
「さらに、ヴィンセント・キャンベル公爵!あなたも数々の殺人容疑で告発する!衛兵、二人を捕らえよ!」
「な!?そのような戯言を・・・!これは名誉毀損ですぞ!覚悟の上でしょうか!?」
「もちろんだ!証拠は揃っている!早く捕らえよ!」
私と父は衛兵によって拘束される。
「これは、一体どういうことだ!認めん、私は認めんぞ!」
父が喚きながら連行されていく。
私もその後を静かに追う。
振り返ることはしなかった。
これ以上、憎しみのこもる顔など見たくなかった。
~~~~~
その後に開かれた裁判で、父と私は有罪となった。
キャンベル公爵家は取り潰し。
父と私は死罪。
母と兄は身分を剥奪された。
そして今日は私が処刑される日。
公爵令嬢の処刑とあって、多くの民が広場に集まっている。
「最後に何か言いたいことはあるか。」
陛下からそう問いかけられる。
そっと、王太子殿下と隣に寄り添うライラ様へ目を向ける。
二人は、めでたく婚約された。
私がライラ様を害そうとしたことで、殿下とライラ様の関係が公になった。
そして身分差がありながらも寄り添い抗ってきた二人に世論が味方したのだ。
「私は何も悪くないわ!子爵令嬢の分際で生意気なのよ!王太子殿下の婚約者は、私こそが相応しいのよ!!」
おめでとうございます、殿下。
どうか、愛する方といつまでもお幸せに。
「もうよい!処刑せよ!」
ガシャンッ!!
私はずっと恋い焦がれた相手から憎まれながら死んだ。
だけど、後悔はない。
あなたの幸せのために役に立てたなら、それで充分。
「なぜ、私が婚約者に?王太子殿下にはライラ様がいらっしゃるのに・・・」
「ライラ?ああ、あの子爵令嬢か。子爵令嬢ごときが王太子殿下の婚約者になど、なれるはずがないだろう。王太子妃、そして未来の王妃には我がキャンベル公爵家の娘こそが相応しい。」
・・・たしかに、あれだけ親密でありながら婚約を結んでいるわけではなかった。けれど、婚約するべく奔走されているという噂だったわ。
きっとお父様が何かしたに決まっているわ。
「お父様・・・、一体何をなさったのですか?」
「人聞きの悪い事を言うな。私はただ、クリスティーナの婚約相手は王弟殿下にしてもらおうかなと、そう呟いただけだ。」
王弟殿下は、先王と側妃様との間にできた王子殿下だ。
その王弟殿下は現王陛下とは、かなり歳が離れていて次期王の座を狙っていると噂されている。
そんな王弟殿下側にキャンベル公爵家がつくと言っているようなものだ。
我がキャンベル公爵家は、歴代何人もの王女が嫁ぎ、王妃も輩出したことがある由緒ある家柄であり、かなりの力と影響力を持っている。
そんな我が家が王弟殿下側につけば・・・形勢はガラッと変わることだろう。
「どうして急にそのような事を・・・」
「もともと、王太子殿下の婚約者はお前の予定だった。それをあの王太子が我儘を言って保留になったのだ。すぐに目が覚めると思っていたが・・・。お前ももう18歳になる。これ以上は待てない。」
確かに、私はもうすぐ18歳になるけれど婚約者はいない。
高位貴族の子息は、だいたい婚約者が決まってしまっていて私は既に行き遅れとも言える状況だ。
だけど、だからといって想い合う二人を邪魔するなんて・・・。
「私のことは、いっそ修道院にでも入れてくださればいいのに。」
「はっ!馬鹿なことを言うな!我がキャンベル家からそんな恥さらしを出せるか!」
そうね、お父様は何よりも家が大切ですものね。
家のためなら、どんな悪事にも手を染めていることも知っている。
キャンベル公爵家は、決して清廉潔白な家ではない。
どちらかといえば悪どい方だと思う。
「それにしても、あの子爵令嬢はしぶといな。何度刺客を送っても仕留められない。王太子が絡んでいるのだろうが・・・。いっそ本当に王弟に乗り換えたほうが早かったかもしれないな。」
刺客・・・。なんてことを・・・。
「お父様、ライラ様のことは私に任せていただけませんか?」
「ほう?お前なら始末できるとでも?」
「始末など・・・。何も命を奪わずとも、王太子殿下と引き離せれば良いのでしょう?だって、私との婚約は成立したのですもの。」
考えているわね。
お父様に任せていたら、ライラ様が本当に葬られてしまうかもしれないわ。
・・・そんな事、絶対にさせない。
「では、お前に猶予をやろう。学園卒業までになんとかしろ。出来なければ、その時は私が動く。」
「わかりました。」
それから私は、学園でライラ様に嫌がらせをするようになった。
しつこく、執拗に嫌がらせをし続ける。
私の取り巻きとなっている令嬢達も加担して、ライラ様の負担はかなりのものだろう。
だけど、私はやめない。
私の評判が地に落ちようとも構わない。
私は・・・殿下とライラ様の、いいえ、殿下の幸せを守るためなら。
私など、どうなっても構わない。
~~~~~
私が殿下に初めてお会いしたのは12歳の頃だった。
きっと、婚約を結ぶための顔合わせだったのだと思う。
あのとき、私は殿下に一目惚れしてしまった。
そして緊張しすぎた私は、うっかりカップを落として割るという、令嬢にあるまじき失態を犯した。
さらに慌てた私は破片を触って指を傷付けてしまった。
殿下は、そんな私の手を優しくハンカチで包んでくれた。
そして美しく優しい顔で『大丈夫だよ。気にしないで。』と言ってくれた。
『これは二人の秘密にしよう。』なんて、いたずらっぽく笑った。
私は完全に殿下に恋してしまった。
そしてすぐに失恋した。
殿下が、指は薔薇の棘で傷付けた事にしてくださり、医務室で手当を終えてお礼を伝えようと殿下の元へ戻ったときに見てしまった。
小さな恋人達の姿を。
邸に戻ってから、どれほど泣いたことか。
恋に落ちたとたんに失恋するなんて。
諦めようと決めたけれど、気持ちはままならない。
私は今でも、殿下に恋し続けている。
叶わない事はわかっているし、もはや望んでいない。
ただ、殿下の幸せを祈っている。
胸の痛みに耐えることには、もう慣れた。
だけど、私の父、あの悪魔はまだ諦めていなかった。
だから私は、父も道連れにして断罪されるべく、ライラ様に嫌がらせをしている。
もう少し。もう少しで終わるわ。
少しずつ父の悪行の証拠を持ち出して、殿下の目に付くようにした。
そろそろ殿下は断罪の準備が整っている事でしょう。
卒業式典ももうすぐ。
そろそろ、最後の大仕掛けね。
わざと殿下が通りかかるタイミングで、ライラ様を階段から突き落とした。
もちろん殿下が抱きとめたわ。
そして私を見た。
憎悪がこもる瞳。
私は慌てたふりをして立ち去る。
これでいい。
これでいいのよ・・・涙なんて・・・もう涸れたと思っていたのにな・・・。
~~~~~
ついに卒業式典の日を迎えた。
卒業生を代表して殿下が挨拶をするべく壇上へ。
途中、陛下と目配せをしていた。
始まるのね。
「私は今日、どうしても明らかにしなければならない事がある。めでたい日に申し訳ないが、この学園で起こった事は、学園にいるうちに解決したい。陛下にも既に許しを得ている。」
ざわつき始める場内。
「静粛に!・・・クリスティーナ・キャンベル。あなたをライラ・シーボルト殺人未遂の罪で告発する!」
「な・・・!?クリスティーナが殺人未遂だと!?殿下、なにかの間違いではないですか!?」
父が声を上げた。
「間違いなどではない!クリスティーナ嬢がライラ嬢を階段から突き落とすところを私が目撃したのだ!」
ざわつく場内。
「さらに、ヴィンセント・キャンベル公爵!あなたも数々の殺人容疑で告発する!衛兵、二人を捕らえよ!」
「な!?そのような戯言を・・・!これは名誉毀損ですぞ!覚悟の上でしょうか!?」
「もちろんだ!証拠は揃っている!早く捕らえよ!」
私と父は衛兵によって拘束される。
「これは、一体どういうことだ!認めん、私は認めんぞ!」
父が喚きながら連行されていく。
私もその後を静かに追う。
振り返ることはしなかった。
これ以上、憎しみのこもる顔など見たくなかった。
~~~~~
その後に開かれた裁判で、父と私は有罪となった。
キャンベル公爵家は取り潰し。
父と私は死罪。
母と兄は身分を剥奪された。
そして今日は私が処刑される日。
公爵令嬢の処刑とあって、多くの民が広場に集まっている。
「最後に何か言いたいことはあるか。」
陛下からそう問いかけられる。
そっと、王太子殿下と隣に寄り添うライラ様へ目を向ける。
二人は、めでたく婚約された。
私がライラ様を害そうとしたことで、殿下とライラ様の関係が公になった。
そして身分差がありながらも寄り添い抗ってきた二人に世論が味方したのだ。
「私は何も悪くないわ!子爵令嬢の分際で生意気なのよ!王太子殿下の婚約者は、私こそが相応しいのよ!!」
おめでとうございます、殿下。
どうか、愛する方といつまでもお幸せに。
「もうよい!処刑せよ!」
ガシャンッ!!
私はずっと恋い焦がれた相手から憎まれながら死んだ。
だけど、後悔はない。
あなたの幸せのために役に立てたなら、それで充分。
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