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12.ナディア脱出~広い世界へ~
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「しばらく、ご辛抱ください」
広い背中、鎧がひんやり気持ちいい。
パージ団長代行が軽々と私を背負い、階段を駆け下りた。
「あの、重いですよ⋯⋯ね?」
「ははっ、全然」
私は落ちるのが怖くて首にしがみついた。
パージ団長代行の太い首に血管が浮くのが見える。
(ううっ、やっぱり、軽くはないっ)
汗から男性の匂いを感じ、頰や耳たぶまで背中からの熱を感じ、ドキドキが止まらなくなるのを申し訳なく思った。
先行するナルチカさんとハラルさん。
私とパージ団長代行にレオナールを挟んで後方はビリーさんとポンプさんだった。
どこにも敵の気配がない。
すると階段の踊り場で、ひとりの若い男が合流した。
丁寧な会釈に品のよさが漂う。
彫りの深い顔。肌は日焼けしていて健康的に見えた。革鎧姿で腰には小剣を帯びている。
「聖女様。マートン伯爵の家臣ザルコと言います」
「ザルコさん。マートン伯爵はご無事ですか?」
「はい。避難されております」
「話は後で。まだ、ここは三階です。急ぎましょう」
まだザルコさんが話してる途中、パージ団長代行が先を急かす。
何事もなく二階を駆け下り、安心していた。
しかし、一階では軽装の兵士や宿直番と思われる役人と出くわしてしまった。
その数は八人。
こちらの隊列が縦長と気づいたのか──
側面に回り込むように、小刻みに範囲を広げながら足音が迫ってくる。
「パージ団長代行。囲まれる前に私が道を開き、足止めします。聖女様をお願いします」
「任せたぞナルチカ。必ず後から来い」
「はっ!」
ナルチカさんはパージ団長代行の許可を得ると、私に頭を下げ、爽やかな笑顔を向ける。すぐ大剣を抜き放ち、彼は八人の真っ只中に斬りこんだ。
「ああああ、だめっ。今、魔法を⋯⋯」
「ナディア様。彼のためにも我らは先を急ぎましょう」
レオナールが首を横に振り、私の未熟な精霊魔法の使用も制止している。
パージ団長代行らも頷き、足を速めた。
真っ暗な庭抜けると門の前にたどり着いた。
庭木の影に隠れ様子をうかがう。
四人の門番がいた。一階の時とは違い完全装備で槍を持っている。
「あまり時間をかけると、また増援が、ここは俺が」
「あぁ、ハラル。お前も後から合流しろ」
「はっ!」
今度はハラルさんが名乗り出た。
「聖女さま、ご無事に」
「いやっ、私なんかのために自己犠牲はだめです」
「じゃーん」
「も、ものもらい? 充血も私が魔法で治すから⋯⋯」
左の眼帯をめくり、オッドアイとおどけた。
幸せそうな笑顔をし、ハラルさんは勢いよく駆け出す。
今は聖女の奇蹟を起こせない。それに一応、精霊魔法は使えるのに、まだ制御不能で役にも立たない。
結局、さっきと同じような危険と、犠牲を強いる足止めに愕然とする。
「どうか、彼らの無事をお祈りください」
ビリーさんとポンプさんが私に頭を下げた。
もう庭には、無数の松明の炎が集まりはじめていた。
「はぁ、はぁ、追いついた」
八人を斬り伏せ、手傷を負ったナルチカさんが合流する。
「早く、団長代行!」
門番四人を倒し、ハラルさんが扉を開けた。
「おおぉお! 行くぞ!!」
パージ団長代行の力強い掛け声に、みんなが駆け抜ける。
(みんなと無事に脱出できる⋯⋯)
その時、ハラルさんの右肩を槍が貫通した。
素早くナルチカさんが投げ槍した兵士を斬り捨てる。
しかし、彼には数本の矢が刺さった。
「へへっ、妹のセシルに自慢できる」
「聖女様、一旦⋯⋯お別れです」
「ああっ、あぁ⋯⋯」
ハラルさんとナルチカさんを残したまま、扉が閉まっていく。
「せめて、傷つきし者を癒やす力を少回復!」
教会の錫杖もない、あげくマイハの呪聖印の悪影響で聖女の能力は封印状態。
途切れる魔力、不安定ながらも、回復魔法を詠唱する。
(⋯⋯不発)
教会に行く前から、使えていた少回復なのに──
(⋯⋯足らない、威力もない⋯⋯)
悩む間もなく──
どんどん隙間は減り、扉は閉まっていく。
まだ、辛うじてハラルさんとナルチカさんの背中が見えていた。
「ううううぅ!」
私は三本のポーションを指に挟み、魔力を加えて投げた。
「これなら完全回復、即席ハイポーション!!」
「そうか。回復魔法の発動が不十分だから⋯⋯魔法錬金、いや、付加に切り替えたのか。流石だ⋯⋯生きる可能性がある」
レオナールが私をフォローするように説く。
私は投擲体勢のまま、パージ団長代行に抱きかかえられ森に消えた。
広い背中、鎧がひんやり気持ちいい。
パージ団長代行が軽々と私を背負い、階段を駆け下りた。
「あの、重いですよ⋯⋯ね?」
「ははっ、全然」
私は落ちるのが怖くて首にしがみついた。
パージ団長代行の太い首に血管が浮くのが見える。
(ううっ、やっぱり、軽くはないっ)
汗から男性の匂いを感じ、頰や耳たぶまで背中からの熱を感じ、ドキドキが止まらなくなるのを申し訳なく思った。
先行するナルチカさんとハラルさん。
私とパージ団長代行にレオナールを挟んで後方はビリーさんとポンプさんだった。
どこにも敵の気配がない。
すると階段の踊り場で、ひとりの若い男が合流した。
丁寧な会釈に品のよさが漂う。
彫りの深い顔。肌は日焼けしていて健康的に見えた。革鎧姿で腰には小剣を帯びている。
「聖女様。マートン伯爵の家臣ザルコと言います」
「ザルコさん。マートン伯爵はご無事ですか?」
「はい。避難されております」
「話は後で。まだ、ここは三階です。急ぎましょう」
まだザルコさんが話してる途中、パージ団長代行が先を急かす。
何事もなく二階を駆け下り、安心していた。
しかし、一階では軽装の兵士や宿直番と思われる役人と出くわしてしまった。
その数は八人。
こちらの隊列が縦長と気づいたのか──
側面に回り込むように、小刻みに範囲を広げながら足音が迫ってくる。
「パージ団長代行。囲まれる前に私が道を開き、足止めします。聖女様をお願いします」
「任せたぞナルチカ。必ず後から来い」
「はっ!」
ナルチカさんはパージ団長代行の許可を得ると、私に頭を下げ、爽やかな笑顔を向ける。すぐ大剣を抜き放ち、彼は八人の真っ只中に斬りこんだ。
「ああああ、だめっ。今、魔法を⋯⋯」
「ナディア様。彼のためにも我らは先を急ぎましょう」
レオナールが首を横に振り、私の未熟な精霊魔法の使用も制止している。
パージ団長代行らも頷き、足を速めた。
真っ暗な庭抜けると門の前にたどり着いた。
庭木の影に隠れ様子をうかがう。
四人の門番がいた。一階の時とは違い完全装備で槍を持っている。
「あまり時間をかけると、また増援が、ここは俺が」
「あぁ、ハラル。お前も後から合流しろ」
「はっ!」
今度はハラルさんが名乗り出た。
「聖女さま、ご無事に」
「いやっ、私なんかのために自己犠牲はだめです」
「じゃーん」
「も、ものもらい? 充血も私が魔法で治すから⋯⋯」
左の眼帯をめくり、オッドアイとおどけた。
幸せそうな笑顔をし、ハラルさんは勢いよく駆け出す。
今は聖女の奇蹟を起こせない。それに一応、精霊魔法は使えるのに、まだ制御不能で役にも立たない。
結局、さっきと同じような危険と、犠牲を強いる足止めに愕然とする。
「どうか、彼らの無事をお祈りください」
ビリーさんとポンプさんが私に頭を下げた。
もう庭には、無数の松明の炎が集まりはじめていた。
「はぁ、はぁ、追いついた」
八人を斬り伏せ、手傷を負ったナルチカさんが合流する。
「早く、団長代行!」
門番四人を倒し、ハラルさんが扉を開けた。
「おおぉお! 行くぞ!!」
パージ団長代行の力強い掛け声に、みんなが駆け抜ける。
(みんなと無事に脱出できる⋯⋯)
その時、ハラルさんの右肩を槍が貫通した。
素早くナルチカさんが投げ槍した兵士を斬り捨てる。
しかし、彼には数本の矢が刺さった。
「へへっ、妹のセシルに自慢できる」
「聖女様、一旦⋯⋯お別れです」
「ああっ、あぁ⋯⋯」
ハラルさんとナルチカさんを残したまま、扉が閉まっていく。
「せめて、傷つきし者を癒やす力を少回復!」
教会の錫杖もない、あげくマイハの呪聖印の悪影響で聖女の能力は封印状態。
途切れる魔力、不安定ながらも、回復魔法を詠唱する。
(⋯⋯不発)
教会に行く前から、使えていた少回復なのに──
(⋯⋯足らない、威力もない⋯⋯)
悩む間もなく──
どんどん隙間は減り、扉は閉まっていく。
まだ、辛うじてハラルさんとナルチカさんの背中が見えていた。
「ううううぅ!」
私は三本のポーションを指に挟み、魔力を加えて投げた。
「これなら完全回復、即席ハイポーション!!」
「そうか。回復魔法の発動が不十分だから⋯⋯魔法錬金、いや、付加に切り替えたのか。流石だ⋯⋯生きる可能性がある」
レオナールが私をフォローするように説く。
私は投擲体勢のまま、パージ団長代行に抱きかかえられ森に消えた。
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