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第54話 人穴墓獄4
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企画会議からはやくも一週間が経過した。
いよいよ動画の撮影のために心霊スポットへ行くことになるのだが、俺の心は憂鬱であった。
あれからネットで色々調べてみた。
乗り物酔いをしない方法を検索したのだ。
だが、十分に睡眠を取れだの、空腹を避けろだろ、遠くを見ろだの、どこかぼんやりした方法しか見つからなかった。
唯一の収穫はこの乗り物酔い止めという薬の存在を知れたことだけだ。
だが、これだけではあの地獄を防ぐ事は出来ないと考えている。
何故なら俺の乗り物酔いの発動条件はあの車の中の匂いだからだ。
当然調べた。
だが、調べても車の匂いを消し去るための消臭剤を使えだの、窓を開けろだの、何の解決にもなりゃしない。
俺は知っているのだ。この世界にある消臭剤はそこまで万能ではないという事を。
何故なら一度事務所で利奈達に内緒でピザを食べてその後に消臭スプレーを使ったというのにすぐにばれたくらいだ。
そう、匂いはその程度じゃ消せないのだと痛感した。
だから俺は信じない。車用の消臭剤程度であの諸悪の根源ともいえる匂いが消せるはずがないのだ。
大金を目の前にした人間と同じくらいは信用できない。
そして、もう一つ。少々別のトラブルが発生している。
それは――
「おいッ! もう一回言ってみろ?」
「だから、栞は急な仕事が入ったからこれなくなった。なんでもオーディションに受かったらしくて仕事のスケジュールが入ったらしいんだ」
八代が顔を真っ赤にして桐也に詰め寄っていた。
そう、本来同行するはずだった栞だが、何でも以前受けていたオーディションという物に受かったらしく、今回の動画撮影の日とバッティングしてしまったらしい。本人はかなり悩んでいたようだが、桐也が背中を押す形で最終的には栞はそちらの仕事を優先する事になった。
「こっちだって仕事だろう! 後から別の仕事が入ったってのは筋が通らねぇんじゃないのかよ」
「友樹。元々栞は礼土のサポート役であって、いても居なくても変わらない。前にも言っただろう。栞は裏方でしかないって」
「ちッ、華がないんだよ。これじゃ野郎ばっかりじゃねぇか」
「別にいいだろう。いつもの事だ」
八代はまだ納得していない様子で何故か俺を睨んでいる。
いや、俺を睨みつけてもなにも変わらんぞ?
「勇実は一人で大丈夫なのかよ、今からでも連絡して来てもらった方がいいんじゃねぇか?」
「元々仕事はいつも俺一人でやっているからね。問題ないよ」
いや問題しかない。
結局乗り物酔い対策が出来ていない。
一応コーラと薬は持ってきているが、足りるだろうか。
「さて、もういいだろ。じゃあ、さっそく最初の動画を撮影しよう。斎藤君、準備はどうかな?」
「はい、いつでも行けますよ」
この斎藤という男は桐也の動画撮影をいつもしているカメラマンの事だ。
黒い短めの髪で何故かずっとニコニコしている変わった人のように見える。
「はぁ。つまんねぇな。――おい、拓。お前も一応カメラ回しておけ、何かに使えるかもしれねぇし」
「了解っす」
拓と呼ばれた背の高い男。背は高いが随分とガリガリのこの男は深く頭を下げて、バッグからカメラの準備をし始めた。
ちなみに俺はやることがないのでポッキーを食べている。
今はこれが俺の精神安定剤だ。
あ、薬飲んでおこう。
広々とした駐車場で桐也と八代が横に並びいよいよ撮影が始まるようだ。
予定では、この挨拶は動画を撮影し録画。その後移動中に編集を行い、最初の心霊スポットに着くまでにサイトに投稿するらしい。
旧蓮枝霊園までは車で大よそ2時間程度。
この地獄の2時間の間に、動画の編集をすると聞いて俺は戦慄した。
あの環境で何か作業をするなんて考えられない。
そして心霊スポットへ着いたら今度はライブ配信をするそうだ。
その後、予約している旅館へ行き、また動画撮影。そこでは感想なんかを言い合う感じの少し短めの動画を取る予定との事。
これはその日の夜にYooTubeに投稿。
これを3日間繰り返す。
いつものやり方だと動画撮影を行い、後日編集して動画投稿という流れなのだそうだが、今回は3日間かけての心霊スポット巡りという事もあり、どうしてもライブ感を出したいという事だった。
そのため、実際の心霊スポットを巡っている時はライブ撮影にしたという事だ。
桐也も初めての試みだったそうで、楽しみだと言っていた。
「はいッ! 始まりました。キリちゃんです。えぇーっと今日はですね。あれ八代君どこいくんだろうね」
「いやいやいや、キリちゃん。俺とお前が一緒にいるって事はもうアレしかなくね? あ、どうも八代でぇっす!」
「え? あぁなるほど、公園の遊具レビューかな?」
「いや、そんな事したことないでしょ!? なんならやるか? いいぞ、企画変更するか!?」
「嘘嘘。冗談だよ。はい、今日はですね。なんとちょっとお試しの新企画、なんと――」
先ほどまでの二人とはまるで違うキャラクターを演じている。
桐也はどこかとぼけたようなキャラクターを、八代は所謂ツッコミ役という奴だろうか。
なるほど、撮影というのも大変だ。
「実は僕と、八代君。そしてゲストを一人加えて心霊スポット巡りの旅を行いたいと思っています!!」
そういうと桐也は満面の笑みを浮かべて楽しそうに拍手している。
それにつられるように八代はわざと驚いたようなリアクションを取り始めた。
「なぁー俺さ、企画聞いた時から思ってたんだけどマジで言ってんの? 何度も言ってるけど俺さ、霊感あるから嫌なんだけど!?」
「マジです。今回は全部で3泊4日。しかも実際の心霊スポットを回っている時はライブ放送をしたいと思っています。いやぁもしかしたらカメラに決定的な瞬間が撮れるかもしれないよ?」
「いやいやいや、え? マジで? ……なぁやっぱり公園の遊具レビューやらね? 俺さおすすめの公園知ってんだよ」
「いや、いらねぇでしょ、そんな情報。誰欲しがるの?」
「そりゃ、サラリーマンとかさ」
「はっはっはッ! なんでサラリーマンなんだよ。一番いらねぇじゃん」
そういうと桐也は腹を抑えながら大笑いしている。
演技なのか、本当に笑っているのか一瞬分からなくなるほど、本当に楽しそうに笑っていた。
「どこの心霊スポットへ行くかは秘密。だって場所がバレるとみんな来ちゃうかもしれないでしょ? だから行った時も場所の名前は伏せておきますね」
「いや、キリちゃんさ。心霊スポットにわざわざこようって思うやつおる?」
「いるかもしれないじゃん」
「誰よ」
「……サラリーマンとか?」
「なんでだよッ!!」
八代はオーバーリアクションをしながらコンクリートの地面を大きく踏みつけた。
本当に先ほどまで栞が来なくて拗ねていた奴とは思えんな。
「そういや、ゲストって誰なのキリちゃん」
「そう、実はね。すごいゲストを呼んでおります」
あぁ嫌だ嫌だ。
事前に打ち合わせで聞かされていたが、とうとう出番が来る。
何もせずいつも通りって言われたけど、どうすりゃええんや。
とりあえずポッキーをもう一本食べよう。
「なんと、マジもんの霊能者の人を呼んでるんですね!」
「へぇーッ! 誰々? 有名な人なん?」
「なんか最近ここに来たばっかりでまだそこまで有名じゃないんだけど、結構数々の霊現象を解決してる実績があるらしいよ」
「すごいじゃん、なら心霊スポットへ行っても安心そうだな」
「だよね。それじゃ、呼んでみましょう。勇実心霊相談所、勇実礼土さんです!!」
はぁ腹を括る必要があるな。
俺はいつも着ているジャケットの裾を少しひっぱり、ワックスで軽く固めた髪を無意味に触り、桐也と横へ歩き始めた。
「勇実礼土です。どうぞ、よろしく」
よし咬まずに言えたぞ。これで完璧やで。
「……え? あの――名前と顔のギャップが半端ないんだけど!? え? 日本人じゃないんですか?」
「ええ、両親は日本人じゃないのですが、日本生まれなので、日本語は普通に話せますよ」
「そうなんです。勇実さんはぱっと見た感じはハリウッドスターかと思う程のイケメンなんですが、日本語が達者でとても頼りになる霊能者なんですよ、ちなみに最近遭遇した霊の話とか聞かせて貰う事ってできますか?」
桐也は台本通りの質問を一つ投げてきた。
「もちろん、依頼人の話は出来ませんが、大まかになら大丈夫ですよ。最近祓った霊で強力だったのは、動物霊ですね。デカい熊の霊で、大きな屋敷の壁を壊すくらい暴れましてね」
「えぇこっわ、ねぇ八代君」
「いやいや、流石に話盛りすぎじゃない? 俺だってそんな凄い霊みたことないよ」
俺は予定通りの振りを八代からされたために、台本通りの台詞を言った。
「ははは、そういう霊は稀ですからね。普通はいないでしょう。でもこれから行く心霊スポットではどうなるかわかりませんよね」
「そうですね。はいッ! じゃあ、今日の20時にライブ配信をします! 多分この動画が投稿されるのは15時くらいになるかな? だからみんなぜひまた同じ時間に見に来てね!! それじゃ!! ――――はい、お疲れ様でした」
「お疲れー」
先ほどとはまったく違ったテンションに戻る二人を見ると、俺も何かキャラクターを作った方がいいのではないだろうかと思ってしまう。
どうだろう、目とか光らせれば個性が出ないだろうか。
「あの、礼土。一つ質問してもいい?」
「なんだい?」
なんだ。俺は台本通りにやったはずだぞ。
「てめぇ……なんでポッキー喰いながらカメラにINしてくるんだよ。っていうかなんで桐也も止めねぇんだ」
「いや、これも面白いかなって思ってついね」
こうして俺はポッキーを食べる謎のイケメン外国人という事でSNSでバズったと聞いたのは、後の話。
いよいよ動画の撮影のために心霊スポットへ行くことになるのだが、俺の心は憂鬱であった。
あれからネットで色々調べてみた。
乗り物酔いをしない方法を検索したのだ。
だが、十分に睡眠を取れだの、空腹を避けろだろ、遠くを見ろだの、どこかぼんやりした方法しか見つからなかった。
唯一の収穫はこの乗り物酔い止めという薬の存在を知れたことだけだ。
だが、これだけではあの地獄を防ぐ事は出来ないと考えている。
何故なら俺の乗り物酔いの発動条件はあの車の中の匂いだからだ。
当然調べた。
だが、調べても車の匂いを消し去るための消臭剤を使えだの、窓を開けろだの、何の解決にもなりゃしない。
俺は知っているのだ。この世界にある消臭剤はそこまで万能ではないという事を。
何故なら一度事務所で利奈達に内緒でピザを食べてその後に消臭スプレーを使ったというのにすぐにばれたくらいだ。
そう、匂いはその程度じゃ消せないのだと痛感した。
だから俺は信じない。車用の消臭剤程度であの諸悪の根源ともいえる匂いが消せるはずがないのだ。
大金を目の前にした人間と同じくらいは信用できない。
そして、もう一つ。少々別のトラブルが発生している。
それは――
「おいッ! もう一回言ってみろ?」
「だから、栞は急な仕事が入ったからこれなくなった。なんでもオーディションに受かったらしくて仕事のスケジュールが入ったらしいんだ」
八代が顔を真っ赤にして桐也に詰め寄っていた。
そう、本来同行するはずだった栞だが、何でも以前受けていたオーディションという物に受かったらしく、今回の動画撮影の日とバッティングしてしまったらしい。本人はかなり悩んでいたようだが、桐也が背中を押す形で最終的には栞はそちらの仕事を優先する事になった。
「こっちだって仕事だろう! 後から別の仕事が入ったってのは筋が通らねぇんじゃないのかよ」
「友樹。元々栞は礼土のサポート役であって、いても居なくても変わらない。前にも言っただろう。栞は裏方でしかないって」
「ちッ、華がないんだよ。これじゃ野郎ばっかりじゃねぇか」
「別にいいだろう。いつもの事だ」
八代はまだ納得していない様子で何故か俺を睨んでいる。
いや、俺を睨みつけてもなにも変わらんぞ?
「勇実は一人で大丈夫なのかよ、今からでも連絡して来てもらった方がいいんじゃねぇか?」
「元々仕事はいつも俺一人でやっているからね。問題ないよ」
いや問題しかない。
結局乗り物酔い対策が出来ていない。
一応コーラと薬は持ってきているが、足りるだろうか。
「さて、もういいだろ。じゃあ、さっそく最初の動画を撮影しよう。斎藤君、準備はどうかな?」
「はい、いつでも行けますよ」
この斎藤という男は桐也の動画撮影をいつもしているカメラマンの事だ。
黒い短めの髪で何故かずっとニコニコしている変わった人のように見える。
「はぁ。つまんねぇな。――おい、拓。お前も一応カメラ回しておけ、何かに使えるかもしれねぇし」
「了解っす」
拓と呼ばれた背の高い男。背は高いが随分とガリガリのこの男は深く頭を下げて、バッグからカメラの準備をし始めた。
ちなみに俺はやることがないのでポッキーを食べている。
今はこれが俺の精神安定剤だ。
あ、薬飲んでおこう。
広々とした駐車場で桐也と八代が横に並びいよいよ撮影が始まるようだ。
予定では、この挨拶は動画を撮影し録画。その後移動中に編集を行い、最初の心霊スポットに着くまでにサイトに投稿するらしい。
旧蓮枝霊園までは車で大よそ2時間程度。
この地獄の2時間の間に、動画の編集をすると聞いて俺は戦慄した。
あの環境で何か作業をするなんて考えられない。
そして心霊スポットへ着いたら今度はライブ配信をするそうだ。
その後、予約している旅館へ行き、また動画撮影。そこでは感想なんかを言い合う感じの少し短めの動画を取る予定との事。
これはその日の夜にYooTubeに投稿。
これを3日間繰り返す。
いつものやり方だと動画撮影を行い、後日編集して動画投稿という流れなのだそうだが、今回は3日間かけての心霊スポット巡りという事もあり、どうしてもライブ感を出したいという事だった。
そのため、実際の心霊スポットを巡っている時はライブ撮影にしたという事だ。
桐也も初めての試みだったそうで、楽しみだと言っていた。
「はいッ! 始まりました。キリちゃんです。えぇーっと今日はですね。あれ八代君どこいくんだろうね」
「いやいやいや、キリちゃん。俺とお前が一緒にいるって事はもうアレしかなくね? あ、どうも八代でぇっす!」
「え? あぁなるほど、公園の遊具レビューかな?」
「いや、そんな事したことないでしょ!? なんならやるか? いいぞ、企画変更するか!?」
「嘘嘘。冗談だよ。はい、今日はですね。なんとちょっとお試しの新企画、なんと――」
先ほどまでの二人とはまるで違うキャラクターを演じている。
桐也はどこかとぼけたようなキャラクターを、八代は所謂ツッコミ役という奴だろうか。
なるほど、撮影というのも大変だ。
「実は僕と、八代君。そしてゲストを一人加えて心霊スポット巡りの旅を行いたいと思っています!!」
そういうと桐也は満面の笑みを浮かべて楽しそうに拍手している。
それにつられるように八代はわざと驚いたようなリアクションを取り始めた。
「なぁー俺さ、企画聞いた時から思ってたんだけどマジで言ってんの? 何度も言ってるけど俺さ、霊感あるから嫌なんだけど!?」
「マジです。今回は全部で3泊4日。しかも実際の心霊スポットを回っている時はライブ放送をしたいと思っています。いやぁもしかしたらカメラに決定的な瞬間が撮れるかもしれないよ?」
「いやいやいや、え? マジで? ……なぁやっぱり公園の遊具レビューやらね? 俺さおすすめの公園知ってんだよ」
「いや、いらねぇでしょ、そんな情報。誰欲しがるの?」
「そりゃ、サラリーマンとかさ」
「はっはっはッ! なんでサラリーマンなんだよ。一番いらねぇじゃん」
そういうと桐也は腹を抑えながら大笑いしている。
演技なのか、本当に笑っているのか一瞬分からなくなるほど、本当に楽しそうに笑っていた。
「どこの心霊スポットへ行くかは秘密。だって場所がバレるとみんな来ちゃうかもしれないでしょ? だから行った時も場所の名前は伏せておきますね」
「いや、キリちゃんさ。心霊スポットにわざわざこようって思うやつおる?」
「いるかもしれないじゃん」
「誰よ」
「……サラリーマンとか?」
「なんでだよッ!!」
八代はオーバーリアクションをしながらコンクリートの地面を大きく踏みつけた。
本当に先ほどまで栞が来なくて拗ねていた奴とは思えんな。
「そういや、ゲストって誰なのキリちゃん」
「そう、実はね。すごいゲストを呼んでおります」
あぁ嫌だ嫌だ。
事前に打ち合わせで聞かされていたが、とうとう出番が来る。
何もせずいつも通りって言われたけど、どうすりゃええんや。
とりあえずポッキーをもう一本食べよう。
「なんと、マジもんの霊能者の人を呼んでるんですね!」
「へぇーッ! 誰々? 有名な人なん?」
「なんか最近ここに来たばっかりでまだそこまで有名じゃないんだけど、結構数々の霊現象を解決してる実績があるらしいよ」
「すごいじゃん、なら心霊スポットへ行っても安心そうだな」
「だよね。それじゃ、呼んでみましょう。勇実心霊相談所、勇実礼土さんです!!」
はぁ腹を括る必要があるな。
俺はいつも着ているジャケットの裾を少しひっぱり、ワックスで軽く固めた髪を無意味に触り、桐也と横へ歩き始めた。
「勇実礼土です。どうぞ、よろしく」
よし咬まずに言えたぞ。これで完璧やで。
「……え? あの――名前と顔のギャップが半端ないんだけど!? え? 日本人じゃないんですか?」
「ええ、両親は日本人じゃないのですが、日本生まれなので、日本語は普通に話せますよ」
「そうなんです。勇実さんはぱっと見た感じはハリウッドスターかと思う程のイケメンなんですが、日本語が達者でとても頼りになる霊能者なんですよ、ちなみに最近遭遇した霊の話とか聞かせて貰う事ってできますか?」
桐也は台本通りの質問を一つ投げてきた。
「もちろん、依頼人の話は出来ませんが、大まかになら大丈夫ですよ。最近祓った霊で強力だったのは、動物霊ですね。デカい熊の霊で、大きな屋敷の壁を壊すくらい暴れましてね」
「えぇこっわ、ねぇ八代君」
「いやいや、流石に話盛りすぎじゃない? 俺だってそんな凄い霊みたことないよ」
俺は予定通りの振りを八代からされたために、台本通りの台詞を言った。
「ははは、そういう霊は稀ですからね。普通はいないでしょう。でもこれから行く心霊スポットではどうなるかわかりませんよね」
「そうですね。はいッ! じゃあ、今日の20時にライブ配信をします! 多分この動画が投稿されるのは15時くらいになるかな? だからみんなぜひまた同じ時間に見に来てね!! それじゃ!! ――――はい、お疲れ様でした」
「お疲れー」
先ほどとはまったく違ったテンションに戻る二人を見ると、俺も何かキャラクターを作った方がいいのではないだろうかと思ってしまう。
どうだろう、目とか光らせれば個性が出ないだろうか。
「あの、礼土。一つ質問してもいい?」
「なんだい?」
なんだ。俺は台本通りにやったはずだぞ。
「てめぇ……なんでポッキー喰いながらカメラにINしてくるんだよ。っていうかなんで桐也も止めねぇんだ」
「いや、これも面白いかなって思ってついね」
こうして俺はポッキーを食べる謎のイケメン外国人という事でSNSでバズったと聞いたのは、後の話。
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