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第48話 伝承霊15

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 大丈夫や、ちゃんと許可取ったし……
顎が外れんばかりに驚愕している九条の顔を見ながら俺は冷や汗を流していた。
流石にやりすぎだっただろうか。
でも、全部壊すの面倒だったし、これが一番確実だったんだ。
そうさ、これは正当性のある行為だったはずだ。
そうやって自己肯定をしているとようやく目の前の現実を九条は受け入れられたようだ。

「い、勇実さん、これは一体何が……?」
「――どうやら、この屋敷の根深い所まで区座里の置いた呪具が根付いていたようで、祓ったらそのまま……なんというか」
「消えた、と?」


 九条はゆっくりと立ち上がり周りを見渡す。
近くにあった森がよく見え、風が頬を撫でてくる。
とても屋内にいる光景とは思えない。
っていうか、もう屋内ではないか。


「……あ、ああ。いえ、正直驚いていますが、これで霊は?」
「ええ。それは安心して下さい。もうご子息は無事ですよ」
「それは本当ですか?」
「安心せい、勇実殿の言う通りだ」

 するとボロボロになった様子の大蓮寺が牧菜に肩を借りてこちらに歩いてきていた。
というか大丈夫だろうか、結構重傷じゃないか?
残念ながら俺は回復魔法が使えないからな……流石にチョコボールじゃポーションの代わりにもならんし。

「大蓮寺さん、身体は大丈夫ですか?」
「君のお陰だ。礼を言わせてくれ。まさかこんな短期間に二度も命を救われるとは思いもせんかったぞ」
「私からもお礼を言わせて下さい。勇実さんがいてくれたお陰で、何とか命を拾う事が出来ました」

 そういうと大蓮寺と牧菜はゆっくりと頭を下げてきた。

「しかし、この屋敷の様子はどうなっているんだ? 遠目からは凄まじい力と光の柱が立ち上っているのが見えたが……」
「あれは勇実さんが区座里が放った呪いを祓った際の光のようです」
「そうでしたか、九条殿も無事でよかった。……そうだ、区座里は!?」
「あちらを」

 九条の視線を辿り大蓮寺は区座里の死体を見る。
おびただしい血がひびだらけの廊下を赤く染めている。

「勇実殿、区座里の最後を聞いても?」
「分かりました。……まぁあまり気持ちのいい話じゃないですけどね」
「それでもだ」



 空が茜色に染まり始め、日が傾き始めていた。
先ほど大蓮寺に区座里の最後を説明した。
もっとも俺自身も分かっていない事が多いため、どこまでが大蓮寺の求めていた説明になったのかは分からない。
だが、俺の拙い説明を聞いて大蓮寺は何かを納得した様子だ。

「さて、九条殿。これからの事ですが、まずは警察を呼ぶべきでしょう」
「ええ、流石に建物が倒壊し、人死にが出ていますからね。幸い私には警察に伝手もあります。こちらかうまく説明しておきますよ。当然大蓮寺さん、勇実さんにご迷惑が掛かるような事には致しませんので安心して下さい」
「結構です。念のため皆さんにこれを渡ししておきます、生須あれを渡してくれ」
「はい、先生」

 すっかりと外面になっている牧菜が九条夫妻に何かを渡している。
白い封筒が3つ。中に何が入っているんだろうか。
とりあえず、チョコボール食べよう。腹減ったわ。

「大蓮寺先生、これは?」
「特製の護符です。念のためしばらくはそれを持っていて下さい。弱い霊であればそれが近くにあれば簡単に封印できます。3人分ありますのでとりあえず一ヶ月は持っていてくだされ」
「何から何までありがとうございます。そして勇実さん」

 ぬ、急に名前を呼ばれて少し驚いた。
どうやらチョコボールを食べている場合ではないようだ。
何やら牧菜の食い入るような視線も感じる。ふっ欲しいようだがやらんよ。
これは俺の非常食なのだからね。

「はい、なんでしょうか」
「貴方のお陰で息子は助かりました。本当にありがとうございます。謝礼は田嶋さんより指定の銀行口座を聞いていますのでそちらに振り込ませていただきます」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 ん? そういや今回の謝礼はいくらなんだろうか。
田嶋からは2本は堅いと言われている。という事は20万円にプラスして討伐数という感じなのかな。
八尺様の討伐は大蓮寺でいいとして、俺はあのリンフォンって奴か。
1体2万円として、22万は貰えるかな。いや、最後に結構な数の霊もいたし、もう少しプラスしてくれるかもな。
くくく、いいぞ。これならもう少し蔵書を増やしても問題ないようだ。

「太陽ッ! 大丈夫?」
「ッ! 気づいたか!?」


 どうやら少年が目を覚ましたようだ。
一度はあのリンフォンの地獄に飲まれたからな。確かに少し心配か。
どれ、恒例のハッタリ魔法でも使っておきますかね。
俺は九条夫妻と起きたばかりの少年の近くまで行き、両手を軽く叩く。
なんか発光しているだけという雰囲気魔法を発動させた。

「こ、これは!?」
「なんという温かい光……」
「――驚いたの」
「やはりあの黒い物は何かの秘薬……?」


 一部良く分からない声も聞こえたが無視しよう。

「これは勇実さんが?」
「はい、基本祓う事が専門ですが、弱い霊ならこれで祓う事も出来るので、一応使っておこうかと思いましてね」

 実際は何の効果もない。
何か光ってるだけの雰囲気がカッコいいだけの魔法だ。
まぁ演出って大切だしさ。

「おにいちゃん?」

 少しずつ目の焦点があって来たようだ。
タイミングがいい少年である。後でチョコボールを上げよう。

「よかった、太陽。もう大丈夫だからね」
「……ママぁ、こ、怖かったよぉッ!!!」

 そうして静かに泣き始める少年。
そうか、ずっと感情を表に出さない子だと思っていたが我慢していたんだな。
男の子だな、多分親御さんに気を使っていたのかもしれない。強い子だ。

「さて、勇実殿。牧菜にタクシーを2台呼ばせておる。それが到着次第、一度街に戻るとしよう。九条殿達は念のため一度病院に行った方がよいだろうからな」
「それは大蓮寺さんもでしょう?」
「はっはっは。この程度で済んだのは勇実殿のお陰だ。本当に感謝しておるよ。何かあればいつでも頼ってきてくれ。君は間違いなく命の恩人なのだからな」
「……はい」


 なんだろうな。最近は慣れてきたと思っていたけど、やはりこうしてお礼を言われるのはどうも照れる。
でも、こういう気分になれるなら、やはり人助けもいいものだ。
まさか、勇者をやめてからそういうのに気づくとは思いもしなかった。


「先生、後30分で到着する予定です」
「そういう事だ。さて、タクシーが来るまで儂も少し休ませてもらうかな」

 そうだな。タクシーが来るまでもう少し……



「――ん? タクシー?」



 背中に汗が流れるのを感じる。
心臓が跳ねるように鼓動し、呼吸が浅くなるのを感じる。
落ち着け、俺は成長したはずだ。
たかがタクシー、笑って乗りこなせるはずだ。
そうさ、ちょっと近くの自動販売機でコーラか紅茶でも買えば……


 周りを見る。
元々綺麗だった庭はまるで台風が来たかのように荒れ果てている。
屋敷は僅かな壁だけを残しそれ以外は何もない。
そう、本当に何もないのだ。
あるのは美しい木々であり、山の風景などだ。




 ふぅ、走って帰るか。






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