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第38話 伝承霊6
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コンビニというのはこの世界においてとても重要な施設だと思う。
24時間、好きな時に行けて、欲しいものが買える。
調べた所によると、衣類も買えるそうで驚いたが、俺は主に食料を調達に寄る事が多い。
あの糞爺から与えられた知識もあるため、何が売っているのかすぐに理解できるわけだが、
それでもあれだけの品揃えが無防備に陳列されているのは最初は驚いたものだ。
当然防犯カメラというシステムがあるため、盗みを働いてもすぐにばれてしまうようだ。
俺も実際に目でその防犯カメラを見てみたが、どういう仕組みなのかさっぱり分からなかった。
まぁ重要なのはそこではない。
俺がコンビニで真に重要な出会いを果たしたのはこの新幹線という悪夢の箱に乗る前の事だ。
そう、俺は出会ってしまったのだ。
ここ最近、ピザの次にハマっていると言ってもいいチョコボール。
その上位版と言っても差し支えないであろう商品。
そう、”大玉チョコボール”だ。
まさかチョコボールの巨大なサイズが売っているとは思いもしなかった。
思わず陳列されているものをすべて買い占めてしまったのは必然だったのだろう。
だが、当然俺は理解しているのだ。
これは子供向けの商品だと言う事は。
だが俺は思う。美味い食べ物に大人も子供もないだろうと。
まぁそれでもチョコボールをパクパク食べる姿を見られるのが恥ずかしく、態々別の容器に入れ、
隠れて食べる技術ばかりが身についてしまった。
だというのにだ。
目の前にいるこの女、生須牧菜だったか。
ずっと俺のチョコボールを凝視している。貴様、狙っているのか?
俺の魂を。
まぁやらんがな!!
「勇実さん、まずはお礼を。本当にありがとうございました」
そういうと牧菜は腰を深く曲げ頭を下げた。
「いや、あのまま放置できなかったですからね。それに俺が何かしなくても貴女が何とかしたのではないですか?」
「……お恥ずかしいですが、私には父のような力はないのです。ですので、勇実さんがあの場を何とかしてくれなければ正直危なかったと思います」
「そうですか。ならお力になれたようでよかった。しかし、気になるな」
「勇実さんもですか?」
「ああ」
そう、今回の一件だ。
そもそもこれは偶発的な事件だったのだろうか。
いや、違うだろうな。
これでも人の悪意には敏感な方だ。だから分かる。
これは人為的に起こされた事件だ。
しかし俺の思いは別の所にあった。
揺れるデッキの中でバランスを取りながら流れていく景色を見ながら思う。
あぁコーラが切れた。どうすっかなぁ。
「恐らくですが、あの猿夢は私を狙った怪異だと思っています」
「……牧菜さんを?」
「はい、あくまで仮定の話ではありますが……」
うーん、新幹線の匂いがまたきつくなってきた。
どうすっかな、またチョコボールでも食べようかな。
あぁだめだ。話に集中しないと。
「たった一人を狙うためにそれ以外の無関係な人を全員を巻き添えにしたという事かな?」
「――はい、勇実さんは九条さんの依頼を受けるために彼の所持している別荘へ向かっている。そうですよね?」
「ああ、そうだ」
そのせいで俺は新幹線という乗り物に乗っているわけだからだ。
乗り物自体は良いんだが、どうも相性が悪いのがなぁ。
全車両にファブリーズしてくれ。いや、逆に臭いか?
「私の父である大蓮寺京慈郎は既に現地に向かっています。ですが、思ったより九条さんのご子息である太陽君に憑いた霊が厄介だったため、
私は父の命令で一度事務所に戻っていました。事前に作っていた護符の回収と、強力な霊を祓うための装備を持ち込むためです」
ほうそんな凄い装備を用意してきたのか。
だが、それを使っている様子がないのを見ると、彼女では使用できないのか。それとも使用者が限られているのか。
そういえば、俺のいた世界にも特定の人物しか装備出来ない武具とかあったな。
まぁ俺は城から配布されたのは、何の付加能力もないただの剣だったがな!
しかし、懐かしいな。女狂いのランドルは元気だろうか。
一度喧嘩を売られ、半殺しにしてからめっきり俺の前に姿を現さなくなったからな。
流石に達磨にしたのはやりすぎだったか、ちゃんと治癒してやったんだが……
あいつ、まだあの魔剣を持っているのかね。
「装備か、もしや犯人はそれを狙って?」
「いえ、というよりは私の持っている物を私の父に渡すのを恐れているのではないかと思います。ちょうど新幹線に乗る前に父にも言われたんです。区座里という霊能者はかなり曲者だと」
「ふむ、その区座里という霊能者は大蓮寺さんに護符などの装備品が手元に来るのを嫌がったという事ですか?」
随分飛躍した想像のように思う。
持ち込む予定の装備とやらが、どれ程の品なのかさっぱり分からないが、
牧菜の言う通りであれば装備を持ち込むのを防ぐために牧菜を殺そうとした、という事になる。
確かにあの様子だと運転手含め全員が悪夢の中だっただろう。
となれば、どうなるか。
加速した新幹線が自動でブレーキがかかるものなのか? 駅には止まるのか?
恐らくは違う。何かしらの補助する機械はあるのだろうが、そこまで完全に自動だとも思いにくい。
つまり、表向きには新幹線の事故に見せかけて殺すつもりだったという事になる。
そこまでやるだろうか。
「他にもあるんです。証拠……という程のものではありませんが、今回の怪異は――その似ているんです」
「似ている?」
「はい、父から聞いた九条太陽君に取り憑いている霊の雰囲気と……」
似ているねぇ。
あの猿夢って怪異現象が九条という男の元に発生しているのか?
「父はネットに詳しくありません。だからあの霊は初めてみたと言っていました。
ですが区座里光琳はそれを知っていると言っていた。それがどうもおかしいと思ってしまいます」
その今回の依頼にあった霊っていうのはネットに関係するのか?
インターネットに住む霊という事だろうか、もうよくわからんな。
何に怨念を抱いているのだろうか。やはり好きな漫画が読めず死んだ事なのかもしれない。
もし自分が好きな作品が完結する前に死んだとしたら、きっと強い未練が残るだろう。
案外、今回の霊もそんな漫画好きの霊なのかもしれないな。
「区座里は言っていたんです。この伝承霊を祓う事は出来ないって」
「……伝承霊?」
「はい、ネットに怖い話、怪談話などが多くあると先ほど説明いたしましたよね? それは1,2個というレベルではなく、
それこそ、20,30と、いやもっと多いでしょう。それほどまでに多くの人に読まれ、知られ、認知された怪談が多くあります。
あの”猿夢”もその一つです。区座里光琳が言うには多くの人の思いが寄り塊り、なかったはずの偶像に魂が宿る。昔の日本にあった鬼や天狗などと同じもう立派な怪異に至る土台がこの国では出来上がっていると言っていました。
そのため、区座里光琳はネットなどで作られた創作話である怪談が実際に発生する現象、それらを生じて伝承霊と呼んでいるそうです」
なるほど、猿夢も伝承霊の一つ。
であれば、新幹線での先ほどの出来事も同様という事だ。
しかし、そう考えるとまた違った問題が出てくるな。
「これは父と私の考えですが、区座里光琳はその伝承霊を作った張本人。もしくはそれらを操る術を持っている術者ではないか。そう考えています」
「……なるほどね。そういえば、牧菜さんは?」
「はい?」
俺の質問の意図が分からなかったのだろう。
首を傾げてきょとんとしている。
「その九条さんの息子さんに憑いた霊ですよ、牧菜さんは見た事あったんですか?」
「……見た事はありませんでした。ですが、聞いていた話と一致する霊だったのですぐ正体は分かりました」
そうだ。
あの話しぶりから察するに、牧菜は今回の霊の正体を知っていると見て間違いない。
父はネットに詳しくないから知らなかった。と言っていた。
なら、猿夢が分かる牧菜なら知っている可能性が高いと踏んだ。
「身の丈八尺もの巨体。白い衣装を着た巨大な女。恐らくですが――」
真剣な表情でこちらを見ながらその名を告げた。
「……八尺様と呼ばれる怪異かと思っています」
24時間、好きな時に行けて、欲しいものが買える。
調べた所によると、衣類も買えるそうで驚いたが、俺は主に食料を調達に寄る事が多い。
あの糞爺から与えられた知識もあるため、何が売っているのかすぐに理解できるわけだが、
それでもあれだけの品揃えが無防備に陳列されているのは最初は驚いたものだ。
当然防犯カメラというシステムがあるため、盗みを働いてもすぐにばれてしまうようだ。
俺も実際に目でその防犯カメラを見てみたが、どういう仕組みなのかさっぱり分からなかった。
まぁ重要なのはそこではない。
俺がコンビニで真に重要な出会いを果たしたのはこの新幹線という悪夢の箱に乗る前の事だ。
そう、俺は出会ってしまったのだ。
ここ最近、ピザの次にハマっていると言ってもいいチョコボール。
その上位版と言っても差し支えないであろう商品。
そう、”大玉チョコボール”だ。
まさかチョコボールの巨大なサイズが売っているとは思いもしなかった。
思わず陳列されているものをすべて買い占めてしまったのは必然だったのだろう。
だが、当然俺は理解しているのだ。
これは子供向けの商品だと言う事は。
だが俺は思う。美味い食べ物に大人も子供もないだろうと。
まぁそれでもチョコボールをパクパク食べる姿を見られるのが恥ずかしく、態々別の容器に入れ、
隠れて食べる技術ばかりが身についてしまった。
だというのにだ。
目の前にいるこの女、生須牧菜だったか。
ずっと俺のチョコボールを凝視している。貴様、狙っているのか?
俺の魂を。
まぁやらんがな!!
「勇実さん、まずはお礼を。本当にありがとうございました」
そういうと牧菜は腰を深く曲げ頭を下げた。
「いや、あのまま放置できなかったですからね。それに俺が何かしなくても貴女が何とかしたのではないですか?」
「……お恥ずかしいですが、私には父のような力はないのです。ですので、勇実さんがあの場を何とかしてくれなければ正直危なかったと思います」
「そうですか。ならお力になれたようでよかった。しかし、気になるな」
「勇実さんもですか?」
「ああ」
そう、今回の一件だ。
そもそもこれは偶発的な事件だったのだろうか。
いや、違うだろうな。
これでも人の悪意には敏感な方だ。だから分かる。
これは人為的に起こされた事件だ。
しかし俺の思いは別の所にあった。
揺れるデッキの中でバランスを取りながら流れていく景色を見ながら思う。
あぁコーラが切れた。どうすっかなぁ。
「恐らくですが、あの猿夢は私を狙った怪異だと思っています」
「……牧菜さんを?」
「はい、あくまで仮定の話ではありますが……」
うーん、新幹線の匂いがまたきつくなってきた。
どうすっかな、またチョコボールでも食べようかな。
あぁだめだ。話に集中しないと。
「たった一人を狙うためにそれ以外の無関係な人を全員を巻き添えにしたという事かな?」
「――はい、勇実さんは九条さんの依頼を受けるために彼の所持している別荘へ向かっている。そうですよね?」
「ああ、そうだ」
そのせいで俺は新幹線という乗り物に乗っているわけだからだ。
乗り物自体は良いんだが、どうも相性が悪いのがなぁ。
全車両にファブリーズしてくれ。いや、逆に臭いか?
「私の父である大蓮寺京慈郎は既に現地に向かっています。ですが、思ったより九条さんのご子息である太陽君に憑いた霊が厄介だったため、
私は父の命令で一度事務所に戻っていました。事前に作っていた護符の回収と、強力な霊を祓うための装備を持ち込むためです」
ほうそんな凄い装備を用意してきたのか。
だが、それを使っている様子がないのを見ると、彼女では使用できないのか。それとも使用者が限られているのか。
そういえば、俺のいた世界にも特定の人物しか装備出来ない武具とかあったな。
まぁ俺は城から配布されたのは、何の付加能力もないただの剣だったがな!
しかし、懐かしいな。女狂いのランドルは元気だろうか。
一度喧嘩を売られ、半殺しにしてからめっきり俺の前に姿を現さなくなったからな。
流石に達磨にしたのはやりすぎだったか、ちゃんと治癒してやったんだが……
あいつ、まだあの魔剣を持っているのかね。
「装備か、もしや犯人はそれを狙って?」
「いえ、というよりは私の持っている物を私の父に渡すのを恐れているのではないかと思います。ちょうど新幹線に乗る前に父にも言われたんです。区座里という霊能者はかなり曲者だと」
「ふむ、その区座里という霊能者は大蓮寺さんに護符などの装備品が手元に来るのを嫌がったという事ですか?」
随分飛躍した想像のように思う。
持ち込む予定の装備とやらが、どれ程の品なのかさっぱり分からないが、
牧菜の言う通りであれば装備を持ち込むのを防ぐために牧菜を殺そうとした、という事になる。
確かにあの様子だと運転手含め全員が悪夢の中だっただろう。
となれば、どうなるか。
加速した新幹線が自動でブレーキがかかるものなのか? 駅には止まるのか?
恐らくは違う。何かしらの補助する機械はあるのだろうが、そこまで完全に自動だとも思いにくい。
つまり、表向きには新幹線の事故に見せかけて殺すつもりだったという事になる。
そこまでやるだろうか。
「他にもあるんです。証拠……という程のものではありませんが、今回の怪異は――その似ているんです」
「似ている?」
「はい、父から聞いた九条太陽君に取り憑いている霊の雰囲気と……」
似ているねぇ。
あの猿夢って怪異現象が九条という男の元に発生しているのか?
「父はネットに詳しくありません。だからあの霊は初めてみたと言っていました。
ですが区座里光琳はそれを知っていると言っていた。それがどうもおかしいと思ってしまいます」
その今回の依頼にあった霊っていうのはネットに関係するのか?
インターネットに住む霊という事だろうか、もうよくわからんな。
何に怨念を抱いているのだろうか。やはり好きな漫画が読めず死んだ事なのかもしれない。
もし自分が好きな作品が完結する前に死んだとしたら、きっと強い未練が残るだろう。
案外、今回の霊もそんな漫画好きの霊なのかもしれないな。
「区座里は言っていたんです。この伝承霊を祓う事は出来ないって」
「……伝承霊?」
「はい、ネットに怖い話、怪談話などが多くあると先ほど説明いたしましたよね? それは1,2個というレベルではなく、
それこそ、20,30と、いやもっと多いでしょう。それほどまでに多くの人に読まれ、知られ、認知された怪談が多くあります。
あの”猿夢”もその一つです。区座里光琳が言うには多くの人の思いが寄り塊り、なかったはずの偶像に魂が宿る。昔の日本にあった鬼や天狗などと同じもう立派な怪異に至る土台がこの国では出来上がっていると言っていました。
そのため、区座里光琳はネットなどで作られた創作話である怪談が実際に発生する現象、それらを生じて伝承霊と呼んでいるそうです」
なるほど、猿夢も伝承霊の一つ。
であれば、新幹線での先ほどの出来事も同様という事だ。
しかし、そう考えるとまた違った問題が出てくるな。
「これは父と私の考えですが、区座里光琳はその伝承霊を作った張本人。もしくはそれらを操る術を持っている術者ではないか。そう考えています」
「……なるほどね。そういえば、牧菜さんは?」
「はい?」
俺の質問の意図が分からなかったのだろう。
首を傾げてきょとんとしている。
「その九条さんの息子さんに憑いた霊ですよ、牧菜さんは見た事あったんですか?」
「……見た事はありませんでした。ですが、聞いていた話と一致する霊だったのですぐ正体は分かりました」
そうだ。
あの話しぶりから察するに、牧菜は今回の霊の正体を知っていると見て間違いない。
父はネットに詳しくないから知らなかった。と言っていた。
なら、猿夢が分かる牧菜なら知っている可能性が高いと踏んだ。
「身の丈八尺もの巨体。白い衣装を着た巨大な女。恐らくですが――」
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