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第8話 ヤンキーものは難しい

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「くっくっくっく」
「何がおかしいんだよ、おっさん。もうてめぇは終わりなんだよ!」
「いや、ごめんね。一つ質問をいいかな?」
「あぁ!?」
「いやね。どうしてそんな違和感のある髪の色をしているのかなってさ」
「はぁ!? どういう意味だてめぇ!」

 とりあえず時間稼ぎだ。利奈がスマホから写真を消すまでの間、適当に煽るとしよう。

「そのまんまだよ。元は黒だったんだろ? なんでわざわざ髪の色を変えたの?」
「てめぇに関係ねぇだろうが! 調子に乗ってんじゃねぇぞ! こっちにはさっきの写真が――ってスマホどこだ!?」

 む、注意を逸らす作戦だったが、失敗だったか。
まったくこの手の奴は殺した方が早いのだが、如何せんこの世界ではそうも行かないからな。

「渋谷、探してるのってこれ?」
「て、てめぇ! なんで山城が俺のスマホ持ってんだよ!?」

 念のためあいつらからはスマホが見えないように身体で隠していたが、どうやら無事終わったようだ。

「さて、何ででしょうね。それより随分色々やってるのね! 本当に最低ッ!!」
「糞が、どうなってやがる!? それを返せぇ!!」

 こちらに向かって手を伸ばす金髪少年の手を握り、捻りあげる。
随分と力が弱い。これじゃゴブリンと戦ったら喰われてしまうぞ。

「イテテテッ! くそ、離せぇ!!」
「は、隼人!? 嘘だろ!? お前がそんなにあっさり……」

 そのまま少しだけ力を居れ、背中に腕を回し、足を軽く踏んでから、そのまま軽く突き飛ばした。
足を踏まれているため、身体を支える事が出来ず、そのまま地面に倒れる金髪少年。
それを一緒にいるガリガリの少年は驚いた様子で見ている。

「そのスマホどうするの?」
「こうします」

 そういうと利奈は思いっきり金髪少年のスマホを地面に叩きつけた。
画面が割れ、中から基盤のようなものが見える。
というか随分思い切ったことをしたな。

「て、てめぇ。山城。何やったかわかってんのか!?」
「分かってるわ。随分色んな女子と付き合ってたのね。しかもハメ撮りばっかり!」

 ん? ハメ撮りってなんぞ?
誰かを罠に嵌めた撮った写真って事かな。
まぁ多分そうだろう。

「ちゃーんと、クラウド上の写真も、動画も全部消したから」
「――ばぁか! PCにバックアップがあんだよ! 意味ねぇことしやがって。それより分かってんだろうな」
「何が? 少なくともさっきアンタが盗撮した写真は消したわ」
「俺のスマホを壊しやがったんだ。弁償してもらうぞ。その身体でなぁ!」


 金髪少年が叫びながら起き上がり、こちらに向かって走ってくる。

「気をつけて下さい、礼土さん。あいつ喧嘩が強くて有名なんです!」
「邪魔だ、おっさん。寝てろぉッ!」

 力強く握られて拳が俺の顔面に向かって迫ってくる。
それをよく見て、とりあえず、手首を掴んだ。

「なッ!? くッ、離せぇ!」



 うーん、弱い!
これなら生まれたてのゴブリンの方が全然強い。
拳に体重も乗っていない、ただ握りこぶしを振り回すだけだ。
戦う訓練をしていないのだろう。
これ、こっちから殴ったりしたら死ぬんじゃないか?
逆にやり難いなぁ!


 金髪少年は俺の手を振りほどこうと暴れ、空いた手で俺を殴っている。
しかし、まったく痛くない。
というか、うざい。
これが目の前で蚊が飛んだ時の気持ちなのかも知れない。



 もう殺してしまおうか。
なんて軽く考えた。

「――ひぃッ!」

 目の前に虫が居たから殺そう、その程度の小さな殺気。
しかし、戦闘訓練もしていない少年には刺激が強かったのだろう。
何か異臭がする。
よく見ると、盛大に金髪少年は股間を濡らしていた。



 金髪少年が涙を流し、鼻水を垂れ流し、小便を漏らす。
そんな人としてとても悲しい姿を晒している。
ちょっと申し訳ない気持ちになった。


 そう思っていると後ろから何か音が聞こえる。
カシャッカシャッという音だ。
視線を移すと、利奈が一心不乱にこの金髪少年の痴態をスマホに納めている。

「渋谷ダッサ! おしっこ漏らしちゃってるじゃん」

 とても嬉しそうな声色だ。
よっぽどこのストーカー少年から迷惑していたのだろう。
まぁ今後は逆にこの写真で脅せるようになるのであれば、
今後近付くことはないだろう。
それにしても、必ず顔が映るようなアングルで写真を撮っている。
余程憎かったのか。

「は、隼人ッ!」

 ずっと棒立ちだったもう一人の少年がスマホをこちらに向けた。
だが、遅い。一応念のため備えていたぞ。

「離れろぉ! 隼人に暴力振るいやがって、写真撮って警察呼んでやるからな! ってあれ!? なんでスマホが真っ暗なんだ!?」

 残念ながら壊させてもらった。
小さな光の棘をレンズに付着させ、破壊している。



 掴んでいた少年の腕を離した。
重力に従い、少年は地面に座り込み、どこか放心状態になっている。
その少年の耳に顔を近づけ、一応警告だけしておこう。

「今後、利奈に近寄るな。もし利奈からお前の話を聞いたら……分かってるな」

 少年は目を見開き、必死に頷いている。
ちょッ、鼻水飛んでくる! 汚ねぇな!

「そっちの少年もだ。顔は覚えたぞ」
「うッ……」

 このくらい脅しておけばいいだろう。
念のため、グレートティーチャーオニマルの2巻目を読んでおいた方が良さそうだな。

「渋谷、小山。あんた等が私と明菜にしたこと、絶対許さないから」
「……」


 そういうと、利奈は俺の手を取り、入り口の中に入っていく。


 ん、流れで宿の中に入ってしまったがいいのか?
先ほどまでの緊張はどこへ行ったのか。
なにやらパネルの部屋を利奈は選んでいる。
というかこの世界の宿は凄いな。
宿の部屋がこうやって選べるのか。
なるほど、部屋の装飾や設備によって値段が更に変わるようだ。

「あ、あの。ここなんてどうですか?」
「え? ああ。じゃあそこで」

 利奈が選んだのはピンク色のベッドにシャンデリアがある豪華な部屋だった。
一泊1万2千円。
うーん、高い。
いや金あるからいいけど、これ食費とか考えると何かしないとすぐ金が無くなるぞ……


 パネルを押し、鍵を受け取って、そのまま鍵に記された番号の部屋へ移動した。
妙に玄関が狭いが、中は非常に立派な造りだ。
何故か浴槽が広く、中は鏡張りになっているのは本当に謎だ。
部屋の中に入ると、大きなベッドがあり、近くにティッシュや電話、あと冷蔵庫なども設置されている。
テレビもあるが、流石に今から何か見ようとは思わない。


「とりあえず、風呂に入ってくるよ」
「は、はい!!」

 っていうか利奈はなぜ当たり前のようにこの部屋にいるのだろう。
まぁ入り口であんなことがあったんだ。
帰りにくいか。
脱衣所がないため、仕方なくこの靴を脱いだ玄関のような場所で服を脱ぐ。
流石に利奈がいる所で脱ぐわけにも行かないからな。

 全て脱ぎ、風呂場に入ると、鏡張りになっている壁に自分の姿を映した。
偶に水辺で見るよく見る顔だ。
特に変わった様子は無い。
しかし、ここまで綺麗な鏡は初めて見る。
触ってみるが、凹凸もなくとても綺麗な平面だ。
風呂場にある鏡が珍しく色んなポーズで自分の姿を見てしまった。


 色々と悪戦苦闘しながら、シャワーを浴び、バスタオルで髪を拭きながら、
利奈がいる部屋に戻った。
あ、ちゃんと腰にもタオルは巻いてるぜ。マナーだからな。
それにしてもシャンプーというのは本当に凄い。





 部屋に入り違和感を感じる。
すぐに違和感の原因が分かった。






 利奈は倒れていたからだ。








 鼻血を出しながら……




 え? なんで?
誰かに殴られた!?
いや、その割には何故か幸福そうな顔をしている。


 周りをよく見ると、原因が分かった。
部屋の一部の窓ガラス。
それが何故かこの部屋から風呂場が透けて見えている。
あれ? 風呂場から見たらあそこ鏡だったはずだぞ!?


「どうなってやがる……!?」


 様々な魔物と戦ってきた俺だが、ここまで不可思議なことはなかったぞ。
ふーむ、汚いものを見せてしまったな。
だが、何故か幸せそうな顔をしている。



「はぁまぁいいや。俺も寝よ」



 利奈を抱き上げ、ベッドへ連れて行く。
まったく無駄に大きなベッドでよかったよ。
服を脱がせるわけにもいかないので、そのまま布団を被せ、俺もその横で眠りについた。

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